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💬コミュニケーション3分で読める医師査読済 · 2026年8月25日

昔の話に耳を傾け、記憶を一緒に楽しむ

長期記憶を活かして自尊心を保ち、楽しい時間を共有

Yuya Kobayashi, MD, PhD

医療監修

Yuya Kobayashi, MD, PhD

認知症専門外来・在宅診療医

最近のことは忘れても、若い頃の記憶は残っていることが多くあります。昔の話に耳を傾けることで、自尊心を保ち、豊かな時間を共有できます。

ケーススタディ

特別養護老人ホームで働くDさんは、利用者の田中フミさん(85歳、血管性認知症)が食事や入浴の声かけにはほとんど反応せず、無表情で過ごす日が続いていることが気になっていました。

ある日、フミさんの若い頃の写真がロビーに飾られているのを見つけ、Dさんは「フミさん、これは昔の写真ですか?素敵な着物ですね」と話しかけてみました。するとフミさんの表情が一変し、「これは嫁入りの時のよ。実家は呉服屋でね」と、堰を切ったように昔の思い出を語り始めました。

それ以来、Dさんは介助の合間に、実家の話や子育ての話などを聞くようにしました。フミさんは昔話をする時だけ、生き生きとした表情を見せるようになったのです。

田中フミさん85歳) - 血管性認知症、特別養護老人ホーム入所中

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認知症では、直近の出来事を覚える短期記憶が早期から低下する一方、若い頃の出来事や強く印象に残った経験など、長期記憶は比較的長く保たれる傾向があります。

この性質を活かしたコミュニケーション方法が「回想法」です。

回想法は単なる昔話とどう違うのか

「昔の話をする」という行為自体は、家族や介護者なら自然にやっていることかもしれません。回想法がそれと区別されるのは、次のような点です。

  1. 道具を意図的に用意する: 偶然昔の話になるのを待つのではなく、写真・思い出の音楽・当時の道具など、記憶を引き出すための材料をあらかじめ準備して使います。

  2. 形式がある: 1対1でじっくり行う「個人回想法」と、6〜8人程度で行い他者との交流も兼ねる「グループ回想法」という区別があります。施設では後者がよく使われます。

  3. より深く踏み込む形もある: 楽しい思い出だけでなく、辛かった出来事も含めて人生を時系列で振り返る「ライフレビュー(人生回顧法)」という、より内省的な個人向けの形式もあります。

  4. 目的を持って行う: 気分の落ち着き、脳への刺激、人との関わりの回復など、狙いを持って意図的に働きかける点が、成り行きの世間話とは異なります。

ただし、研究の世界でも「回想法」という言葉の定義は必ずしも一貫しておらず、論文によって指す範囲が異なることが指摘されています。カジュアルな昔話と回想法の境界は、実際には連続的なものと考えた方が実情に近いかもしれません。日常のケアでは、以下のように意図的に工夫することで、より回想法らしい関わりに近づけることができます。

  1. 自尊心の回復: 自分がよく知っていることを語れるため、自信を持って話せます。

  2. 脳の活性化: 記憶を辿り、言葉にする過程が、脳への良い刺激になります。

  3. 良好な感情の想起: 楽しかった思い出を語ることで、穏やかで前向きな気分になります。

  4. 信頼関係の構築: 本人の人生に関心を持って聞くことで、「大切にされている」という感覚が生まれます。

話題としては、仕事、子育て、故郷、学生時代、趣味、思い出の場所などが挙げられます。写真、当時の道具、思い出の音楽などを用いると、より記憶が引き出されやすくなります。

実践のステップ

  1. 本人の生い立ちや経歴について、家族から事前に情報を得ておく

  2. 「昔は何のお仕事をされていたんですか?」など、開かれた質問で話題を振る

  3. 写真やアルバム、当時の道具などを一緒に見ながら話す

  4. 本人の話をさえぎらず、聞き役に徹する

  5. 細かい事実の間違いは訂正せず、感情の交流を優先する

  6. 同じ話を繰り返されても、初めて聞くように相槌を打つ

  7. 職員や家族間で聞き出せた思い出を共有し、話題づくりに役立てる

注意点

死別や戦争体験、辛い出来事など、思い出したくない記憶に触れてしまうこともあります。表情が曇ったり、話したがらない様子が見えたら、無理に聞き出さず、別の話題に切り替えましょう。

応用・バリエーション

懐かしい童謡や歌謡曲を一緒に聴く、当時よく使われていた道具に触れるなど、音楽や物を介した回想法も効果的です。複数人で行う「回想法グループ」として、共通の時代の話題で盛り上がる場を作ることもあります。

まとめ

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医師査読済コンテンツ

本記事は認知症専門外来・在宅診療医 Yuya Kobayashi, MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年8月25日

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最終更新日:

参考文献

  1. [1]Woods B, O'Philbin L, Farrell EM, Spector AE, Orrell M.Reminiscence therapy for dementiaCochrane Database of Systematic Reviews, 3, CD001120 (2018)

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