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怒りや暴言の裏にある不安や苦痛を察する

BPSD(行動・心理症状)の原因を理解し、適切に対応

Yuya Kobayashi, MD, PhD

医療監修

Yuya Kobayashi, MD, PhD

認知症専門外来・在宅診療医

怒りや暴言といった行動(BPSD)の裏には、言葉で伝えられない痛みや不快感、不安が隠れていることがあります。「性格が変わった」と捉える前に、身体的な原因や環境要因を考えることが、適切な対応の第一歩になります。

体験談

父(84歳、アルツハイマー型認知症)が、夕方になると急に怒りっぽくなり、「うるさい!」「触るな!」と怒鳴ったり、介助しようとする私の手を振り払ったりすることが増えました。最初は「性格が変わってしまった」「認知症でこんなに攻撃的になるものなのか」とショックを受け、正直、父と距離を置きたくなる時期もありました。

しかしある日、いつも以上に激しく怒った父の様子がおかしいと感じ、よく見ると顔をしかめ、下腹部のあたりを気にする仕草をしていました。慌てて訪問看護師さんに相談すると、「膀胱炎の可能性がありますね」と言われ、実際に検査すると尿路感染症が見つかりました。抗生剤の治療を始めてから、父の怒りっぽさは驚くほど落ち着きました。

それ以来、父が急に怒りっぽくなったり、暴言が増えたりしたときは、まず「どこか痛いところがあるのでは」「体調に異変はないか」と考えるようにしています。怒りの裏に、言葉で伝えられない不快感や痛みが隠れていることがあると知ってから、父への接し方も、そして自分自身の心の負担も、大きく変わりました。

84歳の父(アルツハイマー型認知症)を在宅介護する56歳息子

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なぜ怒りや暴言が起こるのか

認知症のある方に見られる怒り、暴言、拒否といった行動は、専門的には「BPSD(行動・心理症状)」と呼ばれます。これらは「性格が変わった」「病気のせい」と単純に片付けられがちですが、実際には、本人が言葉でうまく表現できない何らかの不快感や苦痛への反応であることが少なくありません。

身体的な原因

  • 便秘、尿路感染症、脱水、痛み(歯痛、関節痛など)
  • 空腹、疲労、睡眠不足
  • 薬の副作用

言葉で「お腹が痛い」「疲れた」とうまく伝えられないために、代わりに怒りや拒否という形で表現されることがあります。

環境的な原因

  • 騒音や人の多さなど、刺激が多すぎる環境
  • 見慣れない人や場所への戸惑い
  • 急かされる、否定される、といった関わり方への反応

心理的な原因

  • 自分でできないことへの苛立ちや悔しさ
  • 説明もなく体に触れられることへの不安や恐怖

💬 「性格が変わってしまったと思っていました」

介護経験者からのアドバイス

「怒りっぽくなった父を見て、正直『病気でこんなに人が変わるものなのか』とショックでした。でも、実は膀胱炎という、はっきりした身体的な原因があったんです。

痛みや不快感をうまく言葉にできないから、怒りという形で表れていたんだと知ってから、父を『怖い人になった』と見るのをやめられました。今は怒りっぽさが目立ったとき、まず体調を疑うようにしています。」

怒りが見られたときの対応の手順

1まず安全を確保する

本人や周囲の安全を最優先し、無理に押さえつけたり、正面から言い返したりしないようにしましょう。

2身体的な不調がないか確認する

便秘、発熱、痛みを示す仕草(顔をしかめる、特定の部位を触るなど)がないか観察しましょう。

3環境を見直す

騒音や人の多さ、温度など、環境的なストレス要因がないか確認し、可能であれば静かな環境に移動しましょう。

4一度距離を置く

その場ですぐに解決しようとせず、少し時間や距離を置くことで、本人の気持ちが落ち着くこともあります。

5記録をつける

いつ、どんな状況で怒りが見られたかを記録しておくと、パターンや原因を見つけやすくなり、医師への相談時にも役立ちます。

こんな時は医療機関に相談

  • 怒りや暴言が急に増えた、または以前より強くなった
  • 発熱、食欲不振、排泄の変化など、体調面の変化を伴う
  • 自分や周囲を傷つける危険性がある行動が見られる
  • 対応を工夫しても改善が見られない

こうした場合は、身体的な原因の有無を確認するためにも、早めにかかりつけ医や認知症専門医に相談してください。薬の副作用が関係している可能性もあるため、自己判断で市販薬などを使うのは避けましょう。

まとめ:怒りの裏にあるサインを見逃さない

怒りや暴言は、認知症そのものの症状というより、言葉にできない痛みや不快感、不安のサインであることが少なくありません。「性格が変わった」と捉える前に、身体面・環境面の変化に目を向けることが、本人にとっても介護者にとっても、負担の少ない対応につながります。

実践のステップ

  1. 怒りや暴言が見られたら、まず本人と周囲の安全を確保する

  2. 便秘・発熱・痛みを示す仕草など、身体的な不調のサインがないか確認する

  3. 騒音や人の多さなど、環境的なストレス要因を見直す

  4. その場での解決を急がず、必要であれば少し時間や距離を置く

  5. いつ・どんな状況で怒りが見られたかを記録し、パターンを把握する

  6. 改善が見られない場合や体調変化を伴う場合は早めに医療機関に相談する

注意点

怒りや暴言が急に増えた場合、発熱や食欲不振など体調面の変化を伴う場合、自分や周囲を傷つける危険性がある行動が見られる場合は、自己判断で対応を続けず、早めにかかりつけ医や認知症専門医に相談してください。

応用・バリエーション

夕方から夜にかけて症状が強まる場合は「夕暮れ症候群」と呼ばれる状態が関係していることがあります。この時間帯の照明を明るめにする、予定を詰め込みすぎないなど、生活リズムを整える工夫も併せて検討してみましょう。

まとめ

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最終更新日:

参考文献

  1. [1]山口晴保(編)認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント 第4版協同医書出版社 (2023)

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