重ね着や着替え拒否には理由がある
体温調節障害や不安を理解する
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
季節に合わない重ね着や、同じ服への強いこだわりには、体温調節機能の低下や、着慣れた服への安心感といった理由が隠れていることがあります。「わがまま」と決めつけず、背景を理解した上で対応すると、無理な説得を避けられます。
体験談
真夏の暑い盛りに、母(82歳、アルツハイマー型認知症)が長袖のカーディガンを何枚も重ね着しているのを見て、「そんなに着たら暑いでしょう」と何度も脱がせようとしましたが、母は頑なに拒否し、「寒い」と言い張りました。逆に、同じ服を何日も着替えたがらず、洗濯のために脱いでもらうだけでひと苦労でした。
「わがまま」「意地を張っている」と、正直イライラすることもありました。しかし、かかりつけ医に相談すると、「認知症が進むと、体温調節の機能自体が低下し、実際に寒さを感じやすくなることがあります。また、着慣れた服には安心感があり、脱ぐこと自体に強い不安を感じる方もいます」と説明を受け、単なるわがままではなかったのだと理解しました。
それからは、無理に脱がせようとするのをやめ、外側の1枚を脱ぐことだけを提案したり、同じデザインの服を何着か用意して、洗濯中も『同じ服』を着ている感覚を保てるようにしたりしました。母の『寒い』という訴えも、否定せずにまず受け止めるようにしました。
完全に元通りにはなりませんでしたが、以前ほど強い抵抗はなくなり、私自身もイライラすることが減りました。理由が分かるだけで、こんなに対応が変わるのだと実感しました。
— 82歳の母(アルツハイマー型認知症)を介護する54歳娘
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なぜ重ね着や着替え拒否が起こるのか
なぜ重ね着や着替え拒否が起こるのか
一見「わがまま」に見える行動の背景には、いくつかの理由が考えられます。
1体温調節機能の低下
加齢や認知症の進行により、体温を調整する自律神経の働きが低下し、実際の気温と体感温度にずれが生じることがあります。周囲が暑いと感じていても、本人は本当に寒さを感じている場合があります。
2着慣れた服への安心感
同じ服を着続けることで得られる安心感(馴染みのあるものへの執着)は、環境の変化への不安が強まる認知症の方にとって、心の拠り所になっていることがあります。脱ぐこと・変えることへの抵抗は、この安心感が脅かされることへの防衛反応とも考えられます。
3見当識障害による季節感のずれ
今が何月か、どれくらいの気温かを正確に把握することが難しくなり、季節に合わない服装の判断につながることがあります。
4着替えという動作自体への抵抗
着替えに伴う一連の動作が負担に感じられ、「今のままでいたい」という気持ちから拒否につながっていることもあります。
💬 「『わがまま』だと思ってイライラしていました」
💬 「『わがまま』だと思ってイライラしていました」
介護経験者からのアドバイス
「私も最初はそう思っていました。『いい加減にして』と強く言ってしまったこともあります。でも、理由を知ってからは、見方が変わりました。
本人は『寒い』と本当に感じているし、同じ服には本人なりの安心感があるんですよね。それを頭ごなしに否定すると、余計に不安にさせてしまう。
今は、まず『そうか、寒いんだね』と気持ちを受け止めてから、『じゃあこの上着だけ羽織ろうか』というふうに、少しずつ落としどころを探るようにしています。全部を思い通りにしようとしないことが、お互いにとって楽になるコツだと思います。」
具体的な対応の工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
実践のステップ
『暑いでしょう』と否定せず、まず『寒いんですね』と気持ちを受け止める
一度にすべて脱がせようとせず、一番外側の1枚など小さな譲歩から始める
洗濯のために着替えが必要な場合は、似たデザインの服を複数枚用意する
本人の体感温度に合わせて室温を調整することも検討する
機嫌の良い時間帯や入浴前後など、着替えに応じやすいタイミングを選ぶ
極端な服装のこだわりが続く場合は体調面の問題がないか確認する
注意点
真夏の厚着で顔が赤い・汗をかいていない・ぼんやりしているなど熱中症が疑われる場合や、同じ服を何日も着替えず皮膚トラブルが見られる場合は、環境の工夫だけで様子を見ず、速やかに医療機関に相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
真夏の厚着で熱中症が疑われる様子(顔が赤い・発汗の異常・ぼんやりしているなど)や、着替え拒否が長期化して皮膚トラブル・強い臭いが見られる場合は、家庭内の工夫だけで対応せず、速やかに医療機関に相談してください。
応用・バリエーション
本人が特定の服(思い出のある服など)に強い愛着を示す場合は、その服自体を大切に保管しつつ、見た目の似た予備の服を何着か用意して着回す方法も有効です。季節の変わり目は特に体感温度とのずれが大きくなりやすいため、こまめに様子を確認しましょう。
まとめ
このヒントのポイント
重ね着や着替え拒否には体温調節機能の低下や安心感などの理由がある
『わがまま』と決めつけず、まず気持ちを受け止める
一度にすべて変えようとせず、小さな譲歩から始める
似たデザインの予備の服を用意すると着替えを進めやすい
熱中症や皮膚トラブルなど体調面のサインには注意する
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根拠について:認知症の進行に伴う体温調節機能の変化や、馴染みのある物への執着(安心感の希求)は臨床的な観察として広く共有されているが、個人差が大きく、対応方法の効果を系統的に検証した研究は限定的である。