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家族全員で介護方針を共有

役割分担と情報共有で負担を分散

Yuya Kobayashi, MD, PhD

医療監修

Yuya Kobayashi, MD, PhD

認知症専門外来・在宅診療医

介護を担う家族と担わない家族の間には「情報の格差」が生まれやすく、これが負担の偏りや意思決定時の対立の原因になります。日々の記録を共有し、定期的な家族会議を持つことで、家族全員が同じ事実に基づいて判断でき、負担も分散できます。

体験談

母(80歳、アルツハイマー型認知症・要介護2)の介護は、同居している私がほぼ一人で担っていました。県外に住む弟や妹には、電話で「まあまあ元気にやってるよ」としか伝えていませんでした。心配をかけたくない気持ちと、正直に話しても「大変そうだね」で終わってしまうという諦めがあったからです。

転機は、母が浴室で転倒し、大腿骨を骨折して入院したときでした。病院に駆けつけた弟が、母の変わりように絶句していました。「こんなに進んでたなんて知らなかった」。私は正直、腹が立ちました。何度も「大変だ」と言っていたのに、実感してもらえていなかったことに。

退院後の方針を巡って、家族会議は紛糾しました。弟は「施設に入れるべきだ」、妹は「まだ家で見られるはず」、私は「もう限界に近いけど、母の希望も無視できない」。それぞれが違う情報と違う前提で話していて、話が噛み合いませんでした。

見かねたケアマネジャーさんが、「まず現状を全員で正確に共有するところから始めましょう」と提案してくれました。介護記録アプリを導入し、日々の様子(食事量、転倒のヒヤリハット、機嫌の変化)を家族LINEグループに共有するようにしました。月に一度、遠方の弟妹もオンラインで参加する家族会議を開き、ケアマネにも同席してもらいました。

最初の会議で、弟が記録を見て「毎日こんなに大変だったのか」と初めて口にしました。そこから、弟は月2回オンラインで母と話す係、妹は書類関係と施設探しの情報収集係、というように、介護動作そのものだけでなく「知っておく責任」も含めて役割が分かれていきました。半年後、母の状態がさらに進んだときの入所判断は、以前とは違い、全員が同じ事実を見た上で、驚くほど落ち着いて決めることができました。

80歳の母(アルツハイマー型認知症・要介護2)を主に介護する53歳長女

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なぜ家族間で足並みが揃わないのか

複数の家族がいても、実際に日々の介護を担うのは多くの場合1人か2人です。介護をしていない家族は、「大変そうだ」ということは分かっていても、その実感を持てません。同じ言葉で説明されても、目の前で毎日見ている人と、電話で時々聞くだけの人とでは、頭の中にある「介護の重さ」の像がまったく違うのです。

この情報の非対称性が、次のような形で表面化します。

1負担が一人に集中する

実感が持てない家族は、悪気なく協力を後回しにしがちです。主介護者は「言っても分かってもらえない」と感じ、次第に助けを求めなくなり、一人で抱え込む悪循環に陥ります。

2意思決定の場で対立が起きる

施設入所、延命治療の方針、成年後見など、大きな決断が必要な場面で初めて全員が集まると、それぞれが持っている情報も前提も違うため、話がまとまりません。「そこまで悪いとは知らなかった」「まだ大丈夫だと思っていた」というズレは、決断を遅らせるだけでなく、家族関係にしこりを残します。

3主介護者への「後出しの批判」

実情を知らない家族ほど、「もっとこうすればいいのに」と外野から意見しやすいものです。これは主介護者にとって、労力を分担してもらえないまま批判だけ受けるという、二重につらい状況になります。

💬 「正直に言っても『大変だね』で終わってしまいます」

介護経験者からのアドバイス

「私も最初は、電話で『最近ちょっと大変で』と言うだけでした。でも、それだと相手には具体的に何がどう大変なのか伝わらないんですよね。

変わったきっかけは、言葉で説明するのをやめて、記録を見せるようにしたことでした。『今日は3回同じことを聞かれた』『夜中に2回起きて付き添った』というのを毎日LINEに書くようにしたら、弟が『え、毎日こんな感じなの?』と初めて驚いていました。感情で訴えるより、事実を淡々と積み重ねる方が伝わるんだと気づきました。

あと、『手伝って』ではなく、できることを具体的に切り出すのもコツです。『相談に乗って』は抽象的すぎて動きにくいけど、『来月の病院代、いくらか出してもらえる?』『月に1回、電話で母と話してくれる?』なら、遠方でもできることが見えてきます。介護動作を分担できなくても、『知っておく』『たまに連絡する』だけでも十分な分担になります。」

具体的な仕組みづくり

1日々の記録を「見えるもの」にする

介護記録アプリやLINEのノート機能などを使い、食事・排泄・機嫌・ヒヤリハットなど、日々の変化を短くてよいので記録・共有しましょう。長い説明より、断片的な事実の蓄積の方が、実感を伴って伝わります。

2定期的な家族会議を持つ

月1回程度、電話やオンライン会議で構いません。遠方の家族も参加しやすい時間帯を選び、"何かあったときだけ集まる"のではなく、平時から定期開催することが重要です。緊急時に初めて集まると、感情的な対立が起きやすくなります。

3「介護動作」と「知っておく責任」を分けて分担する

分担というと、入浴介助や通院付き添いなど身体的な介護動作を思い浮かべがちですが、それだけが分担ではありません。

  • 定期的に本人へ電話・ビデオ通話をする
  • 記録に目を通し、状況を把握しておく
  • 経済的な支援をする
  • 制度・施設情報を調べる
  • 主介護者の話を定期的に聞く(ねぎらい役)

遠方や仕事の都合で身体介護ができない家族にも、こうした形での関与を具体的に依頼しましょう。

4介護方針は「まだ元気なうち」に話し合っておく

施設入所や延命治療などの重い決断は、本人の状態が急変してから話し合うと、時間的制約と感情的な動揺が重なり、冷静な判断が難しくなります。本人の意向も交えて、状態が比較的落ち着いているうちに、大まかな方針だけでも共有しておきましょう。

5第三者に同席してもらう

家族だけで話すと、昔からの力関係や感情のもつれが表面化しやすくなります。ケアマネジャーや医師、地域包括支援センターの職員に会議へ同席してもらうと、事実に基づいた中立的な進行がしやすくなります。

こんな時は専門家に相談・介入を依頼する

次のようなサインが見られる場合は、家族内の工夫だけで解決しようとせず、ケアマネジャーや医師、地域包括支援センターに早めに相談してください。

  • 家族間の対立が感情的な言い争いに発展し、話し合いが成立しない
  • 特定の家族に負担が集中し、心身の不調(不眠、抑うつ気分、体重減少など)が見られる
  • 本人への対応をめぐって、家族間で虐待やネグレクトが疑われるような発言・行動がある
  • 経済的な支援や相続を巡る対立が、介護方針の話し合いを妨げている

こうした状況は、家族の努力だけで解消するのが難しいことが多く、第三者の介入が必要なサインです。

まとめ:情報を共有すること自体が「分担」になる

家族全員が同じ量の介護動作をする必要はありません。大切なのは、誰か一人だけが実情を抱え込む状態を作らないことです。日々の記録を共有し、定期的に顔を合わせる場を持つだけで、「知らなかった」という後々の対立を防ぎ、いざという時の決断もスムーズになります。

情報を共有すること自体が、立派な役割分担の一つです。

実践のステップ

  1. 介護記録アプリやLINEノートで、日々の様子(食事・機嫌・ヒヤリハットなど)を短く記録・共有する

  2. 月1回程度、オンラインでも構わないので定期的な家族会議の場を設ける

  3. 「手伝って」ではなく「来月の通院費を負担してほしい」など、依頼を具体的に切り出す

  4. 身体介護ができない家族には、定期連絡・情報把握・経済支援など『知っておく責任』を割り振る

  5. 施設入所や延命治療などの重い方針は、本人が比較的落ち着いているうちに話し合っておく

  6. 感情的な対立が予想される場合は、ケアマネジャーや医師に会議への同席を依頼する

  7. 決まったことや記録は議事録として残し、後から振り返れるようにする

注意点

家族間の対立が感情的な言い争いに発展して話し合いが成立しない場合や、特定の家族に負担が集中して心身の不調(不眠・抑うつ気分・体重減少など)が見られる場合は、家族内の工夫だけで抱え込まず、早めにケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してください。虐待やネグレクトが疑われる言動がある場合も同様です。

応用・バリエーション

遠方に住む家族が多い場合は、オンライン会議に加えて、介護記録アプリの共有機能を使うと、リアルタイムで状況を把握しやすくなります。話し合いが感情的になりやすい家族の場合は、最初から議題と時間を区切り、ケアマネジャーなど第三者に進行役を依頼するとまとまりやすくなります。

まとめ

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最終更新日:

参考文献

  1. [1]山口晴保(編)認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント 第4版協同医書出版社 (2023)

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