近隣や友人に認知症を理解してもらう
周囲の協力で地域での生活を継続
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
認知症のある方の行動は、事情を知らない周囲からは誤解されやすいものです。近隣の店や顔なじみの人にあらかじめ事情を伝えておくことで、誤解によるトラブルを防ぎ、住み慣れた地域での生活を続けやすくなります。
体験談
父(78歳、レビー小体型認知症)は毎日、家の近くの商店街まで散歩に出かけるのが習慣でした。ある日、いつも通っているパン屋さんから電話がありました。「お父様が、同じ食パンを1日に3回も買いに来られて……。お代を払ったことを忘れているようで、こちらも対応に困っています」。
聞いた瞬間、血の気が引きました。もし認知症だと知らずに、お店の人が『何度も同じものを買う変な客』『払ったのに払っていないと言い張るクレーマー』と誤解していたら。実際、後で聞くと、店員さんの一人は「万引きを疑われているのでは」と身構えてしまっていたそうです。
私はすぐに近所の主な立ち寄り先――パン屋、コンビニ、いつも座っている公園のベンチの近くにある不動産屋――を回り、事情を説明しました。「父は認知症があり、同じ会計を繰り返してしまうことがあります。もし変だなと思ったら、家に電話していただけますか」と、緊急連絡先を書いたカードを渡しました。
最初は気まずさもありましたが、話してみると、パン屋の店主さんは「そうだったんですね、知れて良かったです。うちの母もそうだったので」と、むしろ理解を示してくれました。それからは、父が同じパンを買おうとすると、店主さんがさりげなく「今日はもう買ってくれましたよ」と伝えてくれたり、会計を後で調整して連絡をくれたりするようになりました。父は変わらず毎日の散歩とパン屋通いを続けられ、私も『何かあったら教えてもらえる』という安心感を得られました。
— 78歳の父(レビー小体型認知症)と同居する48歳娘
詳しく知る
なぜ「地域の理解」が必要なのか
なぜ「地域の理解」が必要なのか
認知症の症状は、外見だけでは分かりません。同じ会計を繰り返す、道に迷って立ち尽くす、同じ話を何度もする――こうした行動は、事情を知らない人からは「変わった人」「クレーマー」「万引き犯」などと誤解されるリスクがあります。
本人にとっても、誤解や叱責を受けることは強いストレスとなり、外出への不安や自信喪失、症状の悪化につながることがあります。逆に、周囲が事情を理解していれば、ちょっとした異変にも「いつものことだから」と穏やかに対応してもらえ、本人は住み慣れた地域での生活を続けやすくなります。
誰に、何を伝えるか
誰に、何を伝えるか
伝える相手の例
- 自宅近くのコンビニ・スーパー・商店
- よく行く喫茶店、理美容室など
- 自治会長・民生委員
- マンションの管理人
- 隣近所で普段から挨拶を交わす方
- かかりつけの薬局
伝える内容の例
すべてを詳しく説明する必要はありません。「認知症があること」「起こりうる行動の例」「何かあったときの連絡先」の3点で十分です。
- 「認知症があり、時々同じことを言ったり、会計を忘れたりすることがあります」
- 「もし様子がおかしいと感じたら、無理に対応せず、こちらに連絡していただけますか」
- 緊急連絡先を書いたカードや、地域で配布されている「認知症サポーターカード」的なものを渡す
💬 「近所に知られるのが恥ずかしい、抵抗があります」
💬 「近所に知られるのが恥ずかしい、抵抗があります」
介護経験者からのアドバイス
「私も最初はすごく抵抗がありました。『弱みを見せるようで嫌だ』『どう思われるか』って。でも、実際に伝えてみると、多くの人は『教えてくれてありがとう』という反応でした。むしろ、何も知らせずにトラブルが起きて、後から気まずくなる方がずっと大変です。
全員に一度に話す必要はありません。まずは一番接点の多いお店や、話しやすそうな一人から始めるといいと思います。『実は父が認知症で……』と少し打ち明けるだけで、相手も身構えずに聞いてくれることが多いです。
うちの場合、最初に話した八百屋さんが、その後まわりのお店にも自然に伝えてくれていたようで、いつの間にか商店街のあちこちで気にかけてもらえるようになっていました。」
伝える際の工夫
伝える際の工夫
1事実だけを簡潔に伝える
長々と病状を説明する必要はありません。「認知症があり、こういうことが起こりえます」という事実と、「何かあったらここに連絡してほしい」という具体的な依頼をセットで伝えましょう。
2連絡先を「持ち帰れる形」にする
口頭だけでは忘れられてしまいます。緊急連絡先を書いたカードやメモを渡し、レジ横や電話の近くなど、すぐ見える場所に置いてもらえると理想的です。
3自治体・地域包括支援センターの制度を活用する
多くの自治体には、認知症の人を見守るネットワークや、行方不明時の早期発見に協力する登録制度があります。地域包括支援センターに相談すると、こうした制度や、地域の民生委員・自治会との連携方法を紹介してもらえます。
4「認知症サポーター養成講座」を知ってもらう
近隣の方に、市区町村などが開催する「認知症サポーター養成講座」を紹介するのも一つの方法です。無料で受講でき、認知症への理解を深めてもらうきっかけになります。
5お礼を伝える
配慮してもらえたときは、きちんとお礼を伝えましょう。良好な関係が続くことで、今後も気にかけてもらいやすくなります。
こんな時は専門家や地域の支援機関に相談
こんな時は専門家や地域の支援機関に相談
- 近隣とのトラブルがすでに発生し、自分たちだけでは関係修復が難しい
- 徘徊や行方不明のリスクが高く、地域全体での見守り体制が必要
- 誤解によって本人が強く傷つき、外出を怖がるようになった
こうした場合は、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、地域全体を巻き込んだ見守り体制づくりを一緒に考えてもらいましょう。
まとめ:知らせることは、本人を守ること
まとめ:知らせることは、本人を守ること
認知症であることを周囲に伝えるのは、勇気がいることです。しかし、それは弱みを見せることではなく、本人が誤解やトラブルに巻き込まれることなく、これまで通りの生活を続けるための備えです。
一度にすべての人に話す必要はありません。まずは接点の多い一人から、事実と連絡先だけを簡潔に伝えることから始めてみましょう。
実践のステップ
よく行くお店・施設・近隣の方など、伝える相手をリストアップする
「認知症があること」「起こりうる行動の例」「連絡先」の3点を簡潔にまとめる
緊急連絡先を書いたカードを用意し、相手が持ち帰れる形で渡す
地域包括支援センターに相談し、見守りネットワークや行方不明時の支援制度を確認する
配慮してもらえたときは、その都度お礼を伝える
一度に大勢に話そうとせず、接点の多い相手から少しずつ伝えていく
注意点
個人情報や病状を必要以上に詳しく伝える必要はありません。伝える範囲は本人の尊厳に配慮し、事実と連絡先という最小限の情報にとどめましょう。本人が「知られたくない」という意向を示している場合は、まず本人の気持ちを尊重しながら、どこまで・誰に伝えるかを慎重に話し合うことが大切です。
応用・バリエーション
本人が周囲に知られることへ抵抗を示す場合は、まず家族だけで動くのではなく、本人と一緒に「誰に、どこまで伝えるか」を話し合う機会を持ちましょう。地域包括支援センターが発行する見守りカードや、自治体の徘徊高齢者等SOSネットワークなど、公的な仕組みを併用すると、家族の負担を減らしながら地域の協力を得やすくなります。
まとめ
このヒントのポイント
認知症の行動は、事情を知らない人には誤解されやすい
接点の多いお店・近隣の方から、事実と連絡先を簡潔に伝える
個人情報は必要最小限にとどめ、本人の尊厳に配慮する
自治体の見守りネットワークなど公的な仕組みも活用する
配慮してもらえたら、その都度感謝を伝えて関係を続ける
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