孫や親戚との交流を大切に
世代を超えたつながりで生きがいを
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
認知症が進むと、孫の名前や関係性を間違えることが増えますが、感情の記憶は比較的保たれやすいとされています。名前が合っているかにこだわらず、一緒に楽しめる活動を通じて交流を続けることで、世代を超えたつながりを保てます。
体験談
母(82歳、アルツハイマー型認知症)は、小学生の孫(私の娘)が遊びに来るのを楽しみにしていました。しかし進行とともに、娘の名前を間違えたり、「あなた誰?」と聞いてしまうことが増えました。ある日、娘が「おばあちゃん、私のこと忘れちゃったの?」と泣き出してしまい、それからしばらく、娘は祖母の家に行きたがらなくなりました。
私自身も、母に会わせるのがつらくなり、訪問の頻度を減らしていました。でも、母は会うたびに「〇〇ちゃんは元気?」と孫のことを気にかけていて、それを見るたびに、このまま距離を置いていいのかと悩んでいました。
転機は、担当のケアマネジャーさんに相談したことでした。「名前を忘れても、感情の記憶は残っていることが多いんですよ。娘さんには『名前を忘れちゃうこともあるけど、会えて嬉しい気持ちは本物だよ』と伝えてみては」とアドバイスをもらいました。
娘にも、簡単な言葉で「おばあちゃんの脳は、覚えておくための力が弱くなる病気なの。だから時々名前を間違えちゃうけど、あなたに会えて嬉しいのは本当だよ」と説明しました。そして、名前を聞かれることを気にするより、母が好きな昔の写真を一緒に見たり、簡単な折り紙をしたりと、「名前を知っているか」に頼らない関わり方に切り替えました。
半年経った今、娘は再び自分から祖母の家に行きたがるようになりました。名前を間違えられても、「今日はおばあちゃん、私のこと分かったよ!」「今日は分からなかったけど、一緒に写真見て楽しかった」と、名前が合っているかどうかより、その時間そのものを楽しめるようになったようです。
— 82歳の母(アルツハイマー型認知症)を持つ、小学生の娘がいる52歳女性
詳しく知る
なぜ孫との関係が難しくなるのか
なぜ孫との関係が難しくなるのか
認知症が進行すると、比較的最近覚えた情報(孫の名前や成長の様子など)から忘れやすくなる一方、昔からの習慣や感情の反応は比較的保たれやすいとされています。そのため、「誰だか分からない」と言われても、会えて嬉しいという感情そのものは残っていることが多いのです。
しかし、子ども自身にはこの違いが理解しにくく、「忘れられた」「嫌われた」と感じてショックを受けたり、怖がって距離を置きたがったりすることがあります。大人が仲介して、子どもに分かりやすく状況を伝えることが重要になります。子どもへの伝え方や交流を続けるための具体的な工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
💬 「孫が怖がってしまい、どう関わらせればいいか分かりません」
💬 「孫が怖がってしまい、どう関わらせればいいか分かりません」
介護経験者からのアドバイス
「うちも最初、娘が『おばあちゃんが変わっちゃった』と怖がっていました。でも、名前や記憶にこだわらず、『一緒に何をするか』に焦点を移したら、うまくいくようになりました。
特によかったのは、昔のアルバムを一緒に見ることです。母は最近のことは忘れても、若い頃の写真を見ると生き生きと話し出すことがあって、娘も『おばあちゃんの若い頃ってこうだったんだ』と純粋に楽しんでいました。
あとは、折り紙や塗り絵など、言葉に頼らずできる活動もおすすめです。会話が噛み合わなくても、一緒に手を動かす時間そのものが、二人にとって心地よいものになっていました。」
実践のステップ
子どもの年齢に合わせて、認知症について簡潔な言葉で説明する
子どもが感じた恐怖や戸惑いを否定せず、まず受け止める
名前や記憶に頼らない活動(写真、折り紙、歌など)を一緒に行う
訪問は短時間から始め、本人の調子が良い時間帯を選ぶ
遠方の場合はビデオ通話などで定期的につながりを保つ
子どもの疑問にはその都度、責めずに丁寧に答える
注意点
本人が孫との交流時に強い混乱・興奮・不安を示す場合や、子どもが強い恐怖・拒否感を示し日常生活に影響が出ている場合は、無理に交流を続けさせず、ケアマネジャーや医師、学校の相談窓口などに相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
『感情の記憶は残りやすい』という考え方は多くの場合当てはまりますが、症状がかなり進んだ段階では、慣れない人との交流自体が刺激過多になり、疲労や混乱を招くことがあります。また、子どもが幼すぎる場合は、祖父母の変化をうまく受け止めきれず、無理に交流を続けることが子どもの負担になることもあるため、双方の状態を見ながら頻度や時間を調整してください。
応用・バリエーション
遠方に住んでいて頻繁な訪問が難しい場合は、手紙や写真付きのメッセージを定期的に送る、ビデオ通話で顔を見せるなど、対面以外の方法でつながりを保つ工夫もできます。本人が施設に入所している場合は、面会時に子どもも参加しやすいよう、施設のレクリエーション行事に合わせて訪問するのも一つの方法です。
まとめ
このヒントのポイント
名前や記憶を忘れても、感情の記憶は比較的保たれやすい
子どもには年齢に合わせて簡潔に状況を説明する
子どもの恐怖や戸惑いをまず受け止める
名前や記憶に頼らない活動で交流を続ける
訪問は短時間・調子の良い時間帯から始める
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根拠について:認知症の進行により近時記憶が障害される一方で感情記憶が比較的保たれやすいという知見は臨床的に広く共有されているが、個人差が大きく、すべての方に当てはまるとは限らない。世代間交流の心理的効果についても、系統的な効果検証は限定的である。