食べる動作を一緒に行い、お手本を示す
ミラーニューロンを活用した食事介助
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
「食べて」という言葉での指示より、隣で実際に食べる動作を見せることで、本人が動作を思い出し、自分で食べ始めることがあります。お手本を示す関わり方は、残っている力を引き出す助けになります。
体験談
父(82歳、アルツハイマー型認知症)は、症状が進むにつれて、箸やスプーンを手に持っても、それをどう使えばいいのか分からなくなる様子が増えてきました。目の前に食事を出しても、じっと見つめたまま手が止まってしまい、「食べて」と言葉で促しても反応が薄いことが多くなりました。
最初は「もう自分で食べる力がなくなったのか」と、全介助に切り替えることも考えました。しかし、デイサービスの職員さんから「言葉で説明するより、隣で一緒に食べる動作を見せてあげると、真似して食べ始めることがありますよ」と教えてもらいました。
半信半疑で試してみたところ、私が自分の分の食事を父の隣で一緒に食べながら、スプーンを口に運ぶ動作をゆっくり見せると、父も同じようにスプーンを手に取り、ぎこちないながらも自分で食べ始めたのです。言葉での説明よりも、目の前で実際にやって見せることの方が、はるかに伝わりやすいのだと実感しました。
それ以来、父の食事の時間は、できるだけ私も一緒に食卓につき、同じ動作を見せながら食べるようにしています。全介助にせず、まだ自分でできる部分を引き出せていることに、ほっとしています。
— 82歳の父(アルツハイマー型認知症)の食事介助をする53歳息子
詳しく知る
なぜお手本を示すと食べ始めることがあるのか
なぜお手本を示すと食べ始めることがあるのか
認知症が進行すると、「今何をすればよいか」を自分で判断し、一連の動作を始めること(動作の開始・実行機能)が難しくなることがあります。箸やスプーンの使い方自体を忘れたわけではなく、「今、これを使って食べる」という一連の流れの入り口でつまずいてしまう状態です。
こうした場合、言葉での指示(「食べてください」)よりも、目の前で実際に動作を見せる方が、本人の中に残っている手続き記憶(体で覚えた動作の記憶)を呼び覚ましやすいことがあります。人は他者の動作を見るだけで、自分がその動作を行っているかのように脳が反応する仕組み(ミラーニューロンの働き)があるとされ、これが模倣を促す土台になっていると考えられています。
お手本を示す工夫
お手本を示す工夫
1隣で一緒に食事をする
介護者も自分の食事を用意し、本人の隣や向かいで一緒に食べることで、自然な形でお手本を示せます。
2動作をゆっくり大きめに見せる
スプーンを持つ、口に運ぶ、噛む、飲み込むという一連の動作を、少しゆっくりめに、はっきりと見せましょう。
3言葉を最小限にする
「食べて」と繰り返し言うよりも、動作を見せながら「(自分が)いただきます」と軽く声をかける程度に留めましょう。
4本人が真似し始めたら見守る
本人がスプーンを手に取ったら、無理に手を貸さず、自分のペースで食べ進められるよう見守りましょう。
💬 「全介助にするしかないと思っていました」
💬 「全介助にするしかないと思っていました」
介護経験者からのアドバイス
「手が止まってしまう父を見て、正直『もう自分では無理なんだ』と思い込んでいました。でも、一緒に食べて動作を見せるだけで、こんなに変わるとは思いませんでした。
全介助にしてしまうのは簡単ですが、まだ自分でできることを奪ってしまうことにもなります。少し手間はかかりますが、一緒に食べる時間を作ることで、父の『自分で食べる』という力を保てているように感じます。」
お手本を示しても難しい場合の工夫
お手本を示しても難しい場合の工夫
- スプーンを持つ手に軽く手を添えて、最初の一口だけ動作を助ける(ハンドオーバーハンド)
- 使い慣れた食器やスプーンを使う
- 一度に多くの品数を出さず、シンプルな配置にする
こんな時は医療機関に相談
こんな時は医療機関に相談
- お手本を示しても、動作の開始が全くみられない
- 食べ物を認識できていない様子(食べ物を食べ物として認識しない失認)が見られる
- 急に自分で食べる動作ができなくなった
こうした場合は、家庭での工夫だけで対応せず、かかりつけ医や作業療法士に相談してください。
まとめ:言葉より先に、動作で伝える
まとめ:言葉より先に、動作で伝える
言葉での指示がうまく伝わらないときは、隣で実際に食べる動作を見せることで、本人の中に眠っている力を引き出せることがあります。全介助に切り替える前に、お手本を示すという関わり方を試してみる価値があります。
実践のステップ
介護者も自分の食事を用意し、本人の隣や向かいで一緒に食べる
スプーンを持つ、口に運ぶという動作をゆっくり大きめに見せる
『食べて』と繰り返す代わりに、動作を見せながら軽く声をかける程度にする
本人が真似し始めたら無理に手を貸さず自分のペースを尊重する
動作が始まらない場合は最初の一口だけ手を添えて助ける(ハンドオーバーハンド)
注意点
お手本を示しても動作の開始が全くみられない場合、食べ物を食べ物として認識できていない様子(失認)が見られる場合、急に自分で食べる動作ができなくなった場合は、家庭での工夫だけで対応せず、かかりつけ医や作業療法士に相談してください。
応用・バリエーション
本人が真似することに抵抗を示す場合は、無理に一緒に食べようとせず、まず声かけとタイミングを見計らうことから始め、徐々にお手本を示す関わりを取り入れていきましょう。
まとめ
このヒントのポイント
動作の開始がうまくいかないことが自分で食べられない原因の一つ
言葉での指示より隣で動作を見せる方が伝わりやすいことがある
動作はゆっくり大きめに見せ、言葉は最小限にする
真似し始めたら見守り、自分のペースを尊重する
動作が全く始まらない場合は専門家に相談する
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