トイレの場所を分かりやすく示す
目印や案内で自立排泄を支援
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
見当識障害により、慣れているはずのトイレの場所が分からなくなることがあります。分かりやすい表示や目印を用意することで、自立した排泄を支え、失禁による自尊心の低下を防ぐことができます。
体験談
父(80歳、アルツハイマー型認知症)と二世帯住宅で暮らし始めてから、父が廊下の途中で立ち止まり、困った様子できょろきょろしていることが増えました。よく見ると、トイレに行きたいのに、どのドアがトイレなのか分からなくなっているようでした。
うちのトイレのドアは、他の部屋のドアと同じ白い引き戸で、特に目印もありませんでした。「さっきまで住んでいた家では迷わなかったのに」と、環境が変わったことの影響を実感しました。間に合わず失敗してしまうことも増え、父自身も戸惑い、落ち込んだ様子を見せることがありました。
ケアマネジャーさんに相談し、トイレのドアに大きく「トイレ」と書いた案内板と、便器のイラストを貼ってみました。さらに、廊下の照明を明るくし、トイレのドアだけ目立つ色のシールを貼って目印にしました。
すると、父は迷うことなくトイレのドアを見つけられるようになり、失敗の回数も減りました。当たり前に思っていた「トイレの場所が分かる」という感覚も、認知症があると簡単には保てないのだと、この経験から学びました。
— 80歳の父(アルツハイマー型認知症)と二世帯住宅で暮らす54歳息子
詳しく知る
なぜトイレの場所が分からなくなるのか
なぜトイレの場所が分からなくなるのか
認知症が進行すると、時間や場所を正しく認識する力(見当識)が低下することがあります。長年暮らしてきた自宅であっても、部屋の配置や扉の位置を瞬時に判断することが難しくなり、特にすべてのドアが似たデザインの場合、トイレの場所を見つけられずに戸惑ってしまうことがあります。
この結果、間に合わずに失禁してしまうことがありますが、これは本人の「我慢ができない」という問題ではなく、「場所が分からない」ことが原因である場合が少なくありません。分かりやすい目印を用意することは、こうした見当識の困難を環境面で補う、負担の少ない工夫です。具体的な工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
💬 「我慢できないのかと思っていました」
💬 「我慢できないのかと思っていました」
介護経験者からのアドバイス
「父が失敗する回数が増えたとき、正直『我慢が効かなくなったのかな』と思っていました。でも、実際にはトイレの場所が分からず困っていただけだったんです。
案内板や目印を用意してからは、父自身も迷わず行動できるようになり、表情も明るくなりました。『分からなくて困っている』という可能性に、もっと早く気づいてあげればよかったと思います。」
夜間の工夫も合わせて
夜間の工夫も合わせて
夜間は照明が消えていることで、日中よりもさらに場所が分かりにくくなります。日中の工夫に加えて、夜間ならではの対策も実践のステップに含めているので、あわせて参考にしてください。
実践のステップ
トイレのドアに大きな文字とイラストで分かりやすい案内を貼る
トイレのドアだけ目立つ色のシールやマークをつける
廊下の照明を明るくし、夜間も表示が見えるようにする
寝室からトイレまでの動線に物を置かず、まっすぐ向かえるようにする
表示の位置やデザインを頻繁に変えず一貫させる
夜間は足元灯やセンサーライトでトイレまでの経路を照らす
注意点
表示や目印を工夫してもトイレの場所を認識できない状態が続く場合、尿意や便意そのものを感じにくくなっている様子がある場合、頻回の失禁により皮膚トラブルが見られる場合は、環境の工夫だけで対応せず、かかりつけ医やケアマネジャーに相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
文字やイラストの表示は、視力の低下や視空間認知の障害があると、そもそも見えていても『意味のある案内』として認識できないことがあります。表示を工夫しても効果が感じられない場合は、視覚的な手がかりだけに頼らず、一定時間ごとに声をかけて誘導するなど、別のアプローチを組み合わせる必要があります。
応用・バリエーション
文字の理解が難しくなっている段階では、文字よりイラストや実際の便器の写真を中心にした表示が伝わりやすいことがあります。本人の理解度に合わせて表示方法を見直しましょう。
まとめ
このヒントのポイント
見当識障害によりトイレの場所が分からなくなることがある
失禁は我慢の問題ではなく場所が分からないことが原因の場合がある
分かりやすい表示・目立つ色・明るい照明で環境を整える
動線を単純にし物を置かないようにする
工夫しても改善しない場合は医療機関に相談する
関連するヒント
根拠について:分かりやすい表示や環境調整が見当識障害による排泄の困難を補うという考え方は認知症ケアの環境調整の実践知として広く共有されているが、効果を厳密に検証した研究は限定的である。