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排泄ケア血管性認知症(脳梗塞後)在宅介護約10分

排泄の失敗で落ち込む父に、どう向き合えばよいか

82歳の父は2年前に脳梗塞を起こし、その後遺症として血管性認知症と診断されました。 半年ほど前からトイレの失敗が増え、失敗のたびに深く落ち込み、自信をなくしていく様子がつらくて——。 血管性認知症ならではの原因の整理から具体的な対応策、薬の考え方まで医師が詳しく解説します。

ご本人の年齢

82 歳

男性・在宅

診断

血管性認知症

脳梗塞後2年

介護者

長男(60代)

要介護2認定

本人の様子

強い落ち込み

失敗のたび自信喪失

結論

排泄の失敗は「場所がわからない」「尿意を伝えられない」「衣服の操作ができない」「身体的な問題」など複数の原因が重なって起こります。原因に応じた環境整備やケアの工夫を行いつつ、失敗した際は叱らず穏やかに対応することが、本人の尊厳を守り症状の悪化を防ぐ鍵になります。

「何をやっても聞かない」と感じたとき、認知症を専門とする医師の視点からの対応策が役立ちます。お試し相談¥1,000〜・48時間以内に回答。

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医師の回答

まず「なぜ起きているのか」を整理する

小林医師

認知症専門外来・在宅診療

排泄の失敗は「意欲の低下」や「性格の変化」ではなく、認知症の症状として生じる複数の原因が重なっています。 特に血管性認知症では、脳梗塞・脳出血が起きた部位によって「できること・できないこと」に偏り(まだら症状)が出やすく、 アルツハイマー型のように症状がなだらかに進むのではなく、ある日を境に急に排泄動作が難しくなる、という経過をたどることも少なくありません。 対応策を決める前に、どの原因が主体かを見極めることが重要です。

A

トイレの場所がわからない

空間認識・記憶の障害により「トイレはどこか」がわからなくなる。夜間や見慣れない環境で特に顕著。

B

尿意・便意のサインを伝えられない

「トイレに行きたい」という感覚はあっても言語化できない、または急迫性が強くて間に合わない。

C

動作の「立ち上げ」がうまくいかない

血管性認知症では、手順自体は覚えていても「さあ始めよう」という動作の切り替え(実行機能)がうまくいかず、ズボンを下ろす前に排泄してしまうことがある。

D

身体的な問題(過活動膀胱など)

過活動膀胱・前立腺肥大・便秘・下剤の影響などで物理的に間に合わないケース。

観察のポイント:失敗のパターン(時間帯・場所・前後の行動)を1〜2週間記録するだけで、 どの原因が大きいかが見えやすくなります。介護日誌アプリや小さなメモ帳で構いません。

原因別の対応

原因別の対応策

A

トイレの場所がわからない → 環境整備

大きな文字・絵で表示する

ドアに「トイレ」と書いた大きなラベル(A4以上)を貼る。文字よりも便器のイラストが有効なケースも多い。既製品のトイレサインは100円ショップやホームセンターで入手可能。

夜間の足元灯・誘導ライト

夜間はセンサー付きLEDライトで廊下〜トイレを明るく誘導。暗闇での方向感覚の喪失が失禁の大きな誘因になる。

トイレの扉を常時開けておく

扉を少し開けておくことで視覚的に認識しやすくなる。プライバシーへの配慮も必要だが、本人の同意があれば有効。

B

サインを伝えられない → 定時誘導+サイン観察

定時排泄の導入

起床後・朝食後・昼食後・夕食後・就寝前の5回を目安に「トイレに行きましょう」と声かけ。さらに2〜3時間おきに追加すると失禁リスクが下がる。本人が「行かない」と言っても「ちょっと確認だけ」と誘うとスムーズなことが多い。

排泄サインを見逃さない

そわそわする・股間を触る・立ち歩く・衣類を引っ張る などは尿意のサイン。これらが見られたらすぐにトイレへ誘導する。表情の変化にも注目。

C

動作の立ち上げが難しい → 衣類の工夫と声かけ

ゴムウエストのズボン・下着に切り替える

ファスナーやボタンをなくすだけで自立度が大きく改善することがある。素材は通気性がよく洗いやすいものを選ぶ。本人の尊厳を保つため、見た目が普通のものも多く市販されている。

マジックテープ式・サイドオープン下着

介護専用の開閉しやすい下着は通販・介護用品店で入手可能。ケアマネジャーに相談すると地域の情報を得やすい。

トイレ内で動作を一緒に確認

最初のうちは隣で「ズボンを持って、下ろしますよ」と声をかけながら動作を一緒に行う。血管性認知症では最初の一言が動作のスイッチになりやすく、言語的な手がかりが有効なことが多い。

D

身体的な問題 → 医師への相談・薬の検討

過活動膀胱の可能性を医師に相談

急に強い尿意が来て間に合わない場合は「過活動膀胱」が疑われる。行動療法(膀胱訓練・排尿日誌)が第一選択だが、薬物療法(後述)が有効なこともある。

便秘・下剤の影響を確認

強い下剤で急激な便意が生じ間に合わないケースも多い。排便コントロールの見直しをかかりつけ医と相談する。

最も重要な対応

失敗したとき——尊厳を守る関わり方

対応策の中でも最も重要なのが、失敗直後の関わり方です。叱責や「またか」という態度は、 本人の羞恥心・自尊心を深く傷つけ、外出拒否や抑うつ、さらなる意欲低下につながります。

避けるべき言動

  • ×「またやったの」「何度言ったら」などの否定的な言葉
  • ×大げさに驚く、顔をしかめる
  • ×「わかった?」「気をつけて」など責任を本人に帰す言い方
  • ×他の家族や第三者に聞こえる声で話す

推奨される言動

  • 「大丈夫ですよ、一緒に着替えましょう」と穏やかに
  • 淡々と・手早く・笑顔でケアする
  • 「誰にでもあることです、気にしなくていいですよ」と安心させる
  • 着替えが終わったら別の話題(好きなことや思い出)に切り替える

本人の落ち込みへのアプローチ:「自分は情けない」という自己否定感には、 「今日はここまで一人でできましたね」と小さな成功を言語化し、肯定的なフィードバックを積み重ねることが有効です。 失敗だけが記憶に残らないよう、良い体験を意識的につくることを心がけてください。

補助具として提案する

排泄用品の活用

軽失禁パッドや尿取りパッドは、本人が「おむつをつけさせられる」と感じると強く抵抗することがあります。 「運動する人が使うスポーツ用インナー」「念のための備え」として自然に導入するのがコツです。

軽失禁パッド(少量用)

尿パッドの中で最も薄型・目立たない。本人がまだトイレに間に合う段階に最適。

尿取りパッド+リハビリパンツ

自分で上げ下ろし可能なパンツ型。見た目が普通の下着に近く抵抗が少ない。

全介助対応のテープ式おむつ

寝たきりや自立歩行困難な場合に検討。この段階ではまだ不要と思われる。

※ ケアマネジャーや訪問看護師と相談の上、段階的に導入することを推奨します。

薬物療法について

使える場面と慎重に考える場面

「認知症の排泄障害に薬を使えるのか」と疑問に思う方も多いと思います。 薬が有効になる場面とそうでない場面があるため、以下で整理します。

薬物療法が有効になりうるケース

① 過活動膀胱による切迫性尿失禁

急激な尿意で間に合わないタイプ。ミラベグロン(ベタニス®)など、 膀胱の過収縮を抑える薬が選択肢になります。 抗コリン薬(オキシブチニン等)は認知症患者では認知機能をさらに低下させるリスクがあるため、 現在は積極的には使われません。


② 血管リスクの管理による進行予防

血管性認知症では、アルツハイマー型のようにコリンエステラーゼ阻害薬が第一選択にはなりません。 それよりも降圧薬・抗血小板薬による血圧コントロールと脳梗塞の再発予防が、 実行機能のこれ以上の低下を防ぐという意味で重要です。 すでに服用中の薬があれば、用量や飲み合わせについて主治医と相談する価値があります。


③ 睡眠障害・夜間頻尿

夜間に何度もトイレに起きて失敗が多い場合、 デスモプレシン(抗利尿)や睡眠の質を改善する薬が選択肢になることがあります。 高齢者では転倒リスクとのバランスが重要です。

薬物療法が主たる解決策にならないケース

今回のケースのように、「場所がわからない」「動作の立ち上げが難しい」が主な原因の場合、 薬で直接改善することはできません。これらは血管性の障害による認知・実行機能の低下であり、 環境調整・ケア技術・リハビリが中心的な対応になります。

「失敗を薬で止めたい」という気持ちは自然ですが、 不適切な薬の使用は眠気・転倒・認知機能低下につながりかねません。 薬の判断は必ず担当医と相談のうえで行ってください。

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この相談の経過

実際に何が起きたか

※ 本人・家族のプライバシー保護のため詳細は匿名化・一部改変しています

相談直後

まず「過活動膀胱の可能性」を確認するため、かかりつけ医に受診。結果、膀胱機能には大きな問題なし。主な原因は「トイレの場所の混乱(A)」と「動作の立ち上げの難しさ(C)」と判断。

1〜2週間後

トイレドアへの大きな表示・廊下の誘導ライト設置。ズボンをゴムウエストのものに変更。定時排泄(食後と就寝前)を導入。息子さんが声かけを担当。

1か月後

失敗の頻度が週2〜3回から週0〜1回に減少。父が「最近は上手くいくな」と自分から発言するようになった。息子さんからは「父の表情が明るくなった」との報告。

3か月後(現在)

軽失禁パッドを「念のための備え」として導入。本人は抵抗なく受け入れ。訪問介護(週2回)でトイレ誘導支援も開始し、家族の負担が軽減。神経内科では降圧薬の調整により血圧が安定し、脳梗塞の再発予防を継続。排泄問題に関して新たな薬の追加は今のところ不要との判断。

Dr

小林医師による評価

認知症専門外来・在宅診療

薬よりも環境と関わり方の改善を優先したことが、この事例では正解でした。 父の尊厳を保ちながら失敗を減らすことができ、本人・家族双方のQOLが向上しています。

薬物療法は「追加が必要になったときのカード」として残しておく形が現実的で、 今後も丁寧に経過観察を続けることをお勧めします。

状況が違えば答えも変わる

介護環境によって、最初にすべきことは変わる

同じ「排泄の失敗」でも、ご本人や環境の背景によって最適な対応は大きく異なります。

一人暮らし・家族不在

定時誘導を行う人がいないため、訪問介護や訪問看護によるサポートが不可欠。センサーマット・見守りカメラも有効。

重度の認知症(BPSD含む)

トイレを全く認識できない段階では環境整備の効果が限定的。訪問診療で薬物療法(BPSD対策含む)の検討が中心になる。

本人が施設入所中

施設スタッフとの連携が重要。ケアカンファレンスで個別の排泄計画(排泄表)を作成・共有してもらう。

介護者が高齢・体力的に限界

ケア負担軽減を最優先に。デイサービスの増回・ショートステイ・介護用品の積極的活用。介護者自身のメンタルサポートも重要。

認知症コネクト

同じような悩みを抱えていませんか?

「うちの場合はどうすればいい?」という疑問は、家族構成・介護環境・本人の状態によって答えが異なります。 この事例のように、あなたの具体的な状況に合わせた個別の対応策を、認知症を専門とする医師がご提案します。

利用者の声

「本人を叱ってしまうことが増えて悩んでいましたが、相談して『環境整備が先』と教えてもらい、 トイレの表示や誘導ライトを変えただけで失敗が目に見えて減りました。父の表情も明るくなりました。」

— 60代男性・父(82歳)の在宅介護

※ 医師への相談はお試し相談(¥1,000〜)でご利用いただけます

※ 相談に先立ち、ご本人の生育歴・生活環境・価値観・身体状況(既往歴・服薬状況)・家族関係などを丁寧にお聞きします。 詳細が明らかになることで、より個別性の高い回答が可能になります。 掲載事例はすべて匿名化・一部改変を行っています。

Yuya Kobayashi, MD, PhD

医療監修

Yuya Kobayashi, MD, PhD

認知症専門外来・在宅診療医