入浴の手順を簡素化し、安全に配慮
滑り止めマットや手すりで転倒を防ぐ
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
浴室は住宅の中でも特に転倒事故が起こりやすい場所です。手すりの設置、滑り止めマット、バスボードなどの活用で、本人が安全に、介護者も無理なく支えられる環境を整えることができます。
体験談
父(79歳、アルツハイマー型認知症)の入浴介助をしていたある日、浴槽から立ち上がろうとした父が、足を滑らせて尻もちをつきました。幸い浴槽内で、頭を打つこともなく、大きな怪我にはなりませんでしたが、私は父を支えきれず、一緒に転びそうになりました。
その夜、「もし一人で入浴中に転んでいたら」と考えると、怖くて眠れませんでした。振り返れば、我が家の浴室は築30年で、手すりもなく、浴槽の縁も高く、床もつるつるしたタイルのままでした。「そういえば危ないと思いながら、ずっと放置していた」と反省しました。
翌週、福祉用具の相談員さんに自宅を見てもらい、浴槽の縁をまたぐための「バスボード」、床に置く滑り止めマット、浴槽の中と洗い場の壁に取り付ける手すりを提案してもらいました。介護保険の福祉用具貸与や住宅改修の制度を使えることも、そのとき初めて知りました。
工事から2週間後、父の入浴介助は驚くほど楽になりました。手すりを使って自分でゆっくり立ち上がれるようになり、私が体を支えきる必要もなくなりました。父自身も「これなら怖くない」と、以前より落ち着いた様子で入浴できるようになりました。
— 79歳の父(アルツハイマー型認知症)を在宅介護する49歳息子
詳しく知る
なぜ浴室で転倒事故が起こりやすいのか
なぜ浴室で転倒事故が起こりやすいのか
浴室は、以下の要因が重なりやすい、住宅内でも特に転倒リスクの高い場所です。
- 床が濡れて滑りやすい
- 裸足で、素肌が滑りやすい状態
- 浴槽をまたぐ、しゃがむ、立ち上がるなど、バランスを崩しやすい動作が多い
- 認知症により、足元への注意や危険予測の力が低下している
- 湯温差によるヒートショックで、立ちくらみが起きることもある
複数の要因が重なるため、他の生活場面以上に、環境面の対策が重要になります。
具体的な安全対策
具体的な安全対策
1手すりの設置
浴槽の縁、洗い場、脱衣所との段差部分など、立ち座りや移動が必要な場所に手すりを設置します。取り付け位置は、本人の体格や動作に合わせて、実際に動作を試しながら決めるのが理想的です。
2滑り止めマット
浴室の床、浴槽の中の両方に、滑り止め加工のマットを敷きます。特に浴槽内は、立ち上がる瞬間に滑りやすいため、吸盤付きのマットが有効です。
3バスボード・シャワーチェア
浴槽をまたぐ動作が不安定な場合は、浴槽の縁に渡す「バスボード」に座ってから体を移動させる方法が安全です。洗い場でも、立位で洗身するのが不安定な場合は、シャワーチェアに座って行いましょう。
4浴槽の縁を低くする、踏み台を使う
浴槽が高い場合は、またぐ動作自体が転倒リスクになります。浴槽内外に踏み台を置くことで、またぐ高さを段階的にできます。
5温度差をなくす(ヒートショック対策)
脱衣所と浴室の温度差が大きいと、血圧の急激な変動で立ちくらみを起こすことがあります。暖房器具で脱衣所・浴室をあらかじめ暖めておきましょう。
💬 「介護保険の制度、よく分からず後回しにしていました」
💬 「介護保険の制度、よく分からず後回しにしていました」
介護経験者からのアドバイス
「うちも、手すりが必要だとは思っていたのに、『業者に頼むのも面倒だし、お金もかかりそう』と後回しにしていました。実際に相談してみると、要介護認定を受けていれば、手すりの設置などの小規模な住宅改修は介護保険の対象になり、自己負担が1〜3割で済むことを知りました。バスボードや浴槽内マットなどは、福祉用具貸与や購入費支給の対象になることもあります。
地域包括支援センターやケアマネジャーに相談すれば、福祉用具の専門相談員を紹介してもらえます。『転んでからでは遅い』と痛感したので、少しでも気になる箇所があれば、早めに相談することをお勧めします。」
動作の見直しも合わせて行う
動作の見直しも合わせて行う
環境だけでなく、動作の手順を簡素化することも転倒予防につながります。
- 立ったまま体を洗おうとせず、座って洗う習慣にする
- 浴槽の出入りは、必ず手すりやバスボードを使う手順を徹底する
- 介助者は、本人の斜め後ろや横から支え、正面から抱えようとしない(共倒れのリスクを減らす)
- 一つひとつの動作の前に「今から立ちますよ」など声をかけ、心の準備をしてもらう
こんな時は専門家に相談
こんな時は専門家に相談
- すでに浴室で転倒・ヒヤリハットが発生した
- 立ち座りや歩行が明らかに不安定になってきた
- どのような改修・用具が適切か判断がつかない
ケアマネジャー、福祉用具専門相談員、地域包括支援センターに相談することで、介護保険を活用した住宅改修や福祉用具のレンタル・購入について具体的な提案を受けられます。
まとめ:環境を整えることは、介護者自身の安全にもつながる
まとめ:環境を整えることは、介護者自身の安全にもつながる
浴室の安全対策は、本人の転倒予防だけでなく、支える側の介護者が無理な姿勢で支えようとして共倒れになることを防ぐ意味もあります。手すりや用具の導入は「大げさ」ではなく、日々の入浴介助を長く安全に続けるための土台です。
実践のステップ
浴槽の縁・洗い場・脱衣所との段差など、立ち座りが必要な場所に手すりを設置する
浴室の床と浴槽内に、吸盤付きなど滑りにくい素材のマットを敷く
浴槽をまたぐ動作が不安定な場合はバスボードを、立位が不安定な場合はシャワーチェアを使う
脱衣所・浴室を事前に暖め、ヒートショックを予防する
地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、介護保険の住宅改修・福祉用具貸与制度を確認する
介助者は本人の正面ではなく斜め後ろ・横から支え、共倒れを防ぐ
注意点
浴室ですでに転倒やヒヤリハットが発生している場合、また立ち座り・歩行が明らかに不安定になってきた場合は、環境整備を後回しにせず、早めにケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談してください。
応用・バリエーション
自宅の浴室の構造上、手すりの設置が難しい場合は、置き型の手すり(工事不要のタイプ)も選択肢になります。訪問入浴サービスやデイサービスでの入浴を活用し、自宅での入浴回数自体を減らすことで、事故リスクを下げる方法もあります。
まとめ
このヒントのポイント
浴室は住宅内で特に転倒リスクが高い場所
手すり・滑り止めマット・バスボードなどで環境を整える
脱衣所と浴室の温度差(ヒートショック)にも注意する
介護保険の住宅改修・福祉用具貸与制度を活用できる
介助者は斜め後ろ・横から支え、共倒れを防ぐ
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