異食行為には環境整備で対応する
口に入れそうな物を片付け、安全を確保
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
食べ物ではない物を口に入れてしまう「異食」は、判断力の低下によって起こることがあります。本人を叱るのではなく、口に入りそうな物を生活空間から取り除く環境整備が、事故を防ぐ最も確実な対応です。
体験談
祖父(87歳、アルツハイマー型認知症、症状はやや進行した段階)と暮らし始めてから、ある日、テーブルの上に置いていた保冷剤を、まるで食べ物のように口に運ぼうとしている姿を見て、心臓が止まるかと思いました。慌てて取り上げ、事なきを得ましたが、それ以来、家の中を見る目が変わりました。
それまでは「まさか食べ物以外の物を口に入れるなんて」と考えたこともなく、テーブルの上には調味料の小瓶や、造花、電池なども無造作に置いていました。ケアマネジャーさんに相談すると、「見た目や色、におい、大きさなどから、口に入れられそうな物を判断する力が低下することがあります。叱るより、まず環境を見直しましょう」とアドバイスされました。
それから、祖父の生活空間から、口に入りそうな小さな物、色や形が食べ物に似ている物(洗剤、化粧品、観葉植物の実など)を徹底的に片付けました。テーブルの上は食事に必要な物だけを置くようにし、目につく範囲を常に整理するよう心がけました。
環境を整えてからは、危険なヒヤリハットは起きていません。本人を責めるのではなく、環境の側を変えるという発想の転換が、家族の安心にもつながりました。
— 87歳の祖父(アルツハイマー型認知症)と同居する家族
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なぜ異食行為が起こるのか
なぜ異食行為が起こるのか
認知症が進行すると、物の形や色、におい、大きさなどから「これは食べられる物かどうか」を判断する能力(認知機能)が低下することがあります。この結果、洗剤や薬、小さな部品、造花など、本来食べ物ではない物を、食べ物と誤認して口に入れてしまう「異食」と呼ばれる行動が見られることがあります。
これは本人の意思や理性の問題ではなく、判断力の低下という症状の一つとして理解する必要があります。叱ったり厳しく注意したりしても、本人が異食の危険性を理解し行動を変えることは難しく、むしろ不安や混乱を招く可能性があります。具体的な環境整備の方法は下の実践のステップを参考にしてください。
💬 「まさかうちの祖父が、と思っていました」
💬 「まさかうちの祖父が、と思っていました」
介護経験者からのアドバイス
「保冷剤を口に運ぼうとする祖父を見たときは、本当に血の気が引きました。それまで『まさかそんなことをするはずがない』と思い込んでいたのが、一番の落とし穴だったと思います。
本人を叱っても仕方がないと分かってからは、環境を見直すことに集中しました。危険な物を片付けるだけで、こんなに安心感が違うのかと実感しています。」
実践のステップ
洗剤、薬、電池、造花など口に入る危険のある物を生活空間から遠ざける
テーブルの上は食事の時間以外、食事に必要な物だけにする
手の届く場所に置かざるを得ない物は鍵付きの棚や目線に入らない場所に保管する
食べ物に似た形・色の日用品には特に注意する
家族全員で『危険な物は置かない』というルールを共有する
注意点
実際に何かを誤って飲み込んでしまった場合、窒息や中毒の兆候(呼吸困難、嘔吐、顔色の変化など)が見られる場合は、様子を見ずに直ちに医療機関を受診するか救急に相談してください。無理に吐かせることが危険な場合もあるため、自己判断での対処は避けましょう。
こんな場合は当てはまらないことも
口に入りそうな物をすべて生活空間から取り除こうとすると、本人が長年慣れ親しんできたインテリアや小物まで大幅に片付けることになり、住み慣れたはずの部屋の雰囲気が変わって落ち着かなくなることがあります。安全のための片付けは、本人がよく手を伸ばす範囲に絞るなど、生活の質を大きく損なわない範囲で行うことも考慮してください。
応用・バリエーション
異食の対象が特定の物(ティッシュ、布など)に偏っている場合は、その物だけを重点的に手の届かない場所に移すなど、個別の傾向に応じた対応も有効です。
まとめ
このヒントのポイント
異食は判断力の低下によって起こる症状であり本人の意思の問題ではない
叱るのではなく口に入りそうな物を取り除く環境整備が基本
テーブルの上や手の届く場所を常に整理する
食べ物に似た形・色の日用品には特に注意する
実際に誤飲した場合や窒息の兆候がある場合は直ちに医療機関に相談する
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根拠について:異食行為への対応として環境整備を優先するという考え方は認知症ケアの現場で広く実践されているが、異食の背景要因は個人差が大きく、頻発する場合は専門的な評価が必要である。