水分摂取を見守り、脱水を予防する
喉の渇きに気づきにくくなることを理解
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
高齢になると、喉の渇きを感じる感覚そのものが鈍くなり、本人が水分不足を訴えないまま脱水が進むことがあります。本人の訴えを待つのではなく、時間を決めて定期的に水分を勧める見守りが重要です。
体験談
真夏のある日、母(81歳、アルツハイマー型認知症)の様子がいつもとどこか違うことに気づきました。ぼんやりとした表情で、呼びかけへの反応も鈍く、唇が乾いているように見えました。慌てて体温を測ると平熱でしたが、念のため訪問看護師さんに連絡すると、「水分を摂れているか確認してください」と言われ、思い返すと、その日はほとんど水分を口にしていないことに気づきました。
慌てて経口補水液を少しずつ飲んでもらったところ、次第に表情がはっきりしてきて、事なきを得ました。看護師さんからは「高齢になると、喉の渇きを感じる感覚そのものが鈍くなります。本人が『喉が渇いた』と言わないからといって、水分が足りているとは限りません」と説明を受け、ぞっとしました。
それ以来、母には時間を決めて定期的にお茶や水を勧めるようにし、麦茶やゼリー飲料など、母が好んで口にしてくれるものをいくつか常備するようにしました。喉の渇きの訴えを待つのではなく、こちらから積極的に働きかけることの大切さを、あの日の出来事で痛感しました。
— 81歳の母(アルツハイマー型認知症)を介護する53歳娘
詳しく知る
なぜ脱水に気づきにくいのか
なぜ脱水に気づきにくいのか
加齢に伴い、喉の渇きを感じるセンサー(口渇中枢)の感度が低下し、体が水分を必要としていても「喉が渇いた」という自覚症状が出にくくなることがあります。さらに認知症があると、喉の渇きという感覚自体をうまく言葉で伝えられなかったり、そもそも水分摂取の必要性を認識しにくくなったりすることもあります。
このため、「本人が欲しがらないから水分は足りているだろう」という思い込みは危険です。気づいたときには脱水がかなり進んでいる、という事態にもなりかねません。脱水は、意識の混濁、体調不良、便秘の悪化、さらには熱中症や尿路感染症のリスク上昇にもつながります。具体的な見守りの工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
💬 「喉が渇いたと言わないから大丈夫だと思っていました」
💬 「喉が渇いたと言わないから大丈夫だと思っていました」
介護経験者からのアドバイス
「母が水分を欲しがらないのを見て、『本人が要らないと言うのだから大丈夫』と、正直軽く考えていました。でも、それが大きな間違いだったと分かって、本当に怖くなりました。
今は時間を決めて、こちらから積極的に水分を勧めるようにしています。『喉が渇いたと言わない=足りている』ではないということを、身をもって学びました。」
実践のステップ
食事の合間、起床後、入浴後など決まったタイミングで水分を勧める
麦茶やゼリー飲料など、本人が好んで口にできる水分補給の選択肢を複数用意する
一日の水分摂取量を簡単に記録し不足に気づけるようにする
口や唇の乾き、尿の色の変化など脱水のサインを日常的に観察する
夏場や暖房の効いた室内では意識的に水分摂取の機会を増やす
むせやすい場合はとろみ剤やゼリー状の水分補給食品を活用する
注意点
ぼんやりとした様子や呼びかけへの反応の鈍さ、唇や皮膚の乾燥、尿量の減少、発熱や嘔吐・下痢を伴う場合は、脱水が進行している可能性があります。自己判断で様子を見ず、速やかに医療機関に相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
積極的に水分摂取を促すという工夫は、心不全や腎臓の機能低下など、医師から水分摂取量を制限されている持病がある方には当てはまりません。むしろ勧めすぎることが体に負担をかける場合もあるため、持病がある方の水分量については、自己判断で増やさず、必ずかかりつけ医の指示に従ってください。
応用・バリエーション
水分摂取を嫌がる場合は、スープや味噌汁、果物など、食事の中で水分を補える工夫を取り入れる方法もあります。飲み物の温度(常温、少し温かいものなど)を変えると受け入れやすくなることもあります。
まとめ
このヒントのポイント
加齢により喉の渇きを感じる感覚が鈍くなることがある
本人からの訴えを待たず時間を決めて水分を勧める
好みの飲み物や水分補給食品を複数用意する
脱水のサイン(口や唇の乾き、尿の変化など)に注意する
ぼんやりした様子や反応の鈍さが見られたら医療機関に相談する
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根拠について:高齢者は口渇中枢の感受性低下により自覚症状なく脱水が進行しやすいことは老年医学において広く知られているが、必要な水分量は個人の体格・持病により異なり、医師の判断が必要な場合もある。