行き先を明確に伝え、確認する
不安を解消し、見通しを持たせる
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
行き先を漠然と伝えるだけでは、本人が理解し、納得できているとは限りません。具体的に伝えた上で理解を確認し、移動中も繰り返し伝えることで、見通しが持て、不安を軽減できます。
体験談
母(78歳、アルツハイマー型認知症)を車に乗せて出かけるとき、私はいつも「ちょっと出かけるよ」とだけ声をかけていました。ある日、車が走り出してしばらくすると、母が急に不安そうな声で「どこに連れて行かれるの」と繰り返し尋ね始め、シートベルトを外そうとする様子まで見せました。
慌てて「病院だよ、いつもの病院」と伝えましたが、母の不安はなかなか収まらず、車内は張り詰めた空気のまま病院に到着しました。
後日、ケアマネジャーさんに相談すると、「行き先を伝えるだけでなく、本人が理解し、納得できているかを確認することが大切です」とアドバイスされました。それ以来、出発前に「今日は〇〇病院に、血圧の薬をもらいに行きますよ」と具体的に伝え、「分かりましたか」「大丈夫そうですか」と、理解できているかを確認するようにしました。
車の中でも、時々「もうすぐ着きますよ、〇〇病院ですよ」と繰り返し伝えるようにしたところ、母の不安な様子は大きく減りました。「伝えたつもり」と「伝わっている」は違うのだと、この経験から学びました。
— 78歳の母(アルツハイマー型認知症)を介護する49歳娘
詳しく知る
なぜ「伝えたつもり」がすれ違いを生むのか
なぜ「伝えたつもり」がすれ違いを生むのか
「ちょっと出かけるよ」といった漠然とした伝え方は、健常な人であれば状況から自然に理解できても、認知症のある方には十分な情報にならないことがあります。また、一度伝えた内容も、時間の経過とともに記憶から抜け落ちてしまうことがあります。
本人にとって、行き先や目的が分からないまま車に乗せられる状況は、「どこかに連れて行かれる」という不安や恐怖につながることがあります。介護者が「伝えたつもり」でいても、本人には「伝わっていない」ことがあるという前提を持つことが重要です。具体的な工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
💬 「伝えたつもりになっていました」
💬 「伝えたつもりになっていました」
介護経験者からのアドバイス
「『ちょっと出かける』とだけ伝えて、それで十分だと思い込んでいました。でも、母にとっては行き先も理由も分からない、不安な状況だったんだと気づきました。
具体的に伝え、理解を確認するようにしてからは、母の不安な様子が大きく減りました。伝える側の『言ったつもり』ではなく、相手に『伝わっているか』を意識することの大切さを学びました。」
不安な反応が見られた場合の対応
不安な反応が見られた場合の対応
- 落ち着いた声のトーンで、繰り返し丁寧に説明する
- 無理に納得させようとせず、まず不安な気持ちに共感する
- 可能であれば、一旦車を停めて、落ち着くまで待つ
実践のステップ
『ちょっと出かける』ではなく具体的な行き先と目的を伝える
伝えた後『分かりましたか』と理解できているか確認する
移動中も『もうすぐ着きますよ』など繰り返し状況を伝える
『終わったら好きなお店に寄りましょう』など前向きな見通しを添える
言葉で伝わりにくい場合は写真や以前の記憶を交えて説明する
注意点
繰り返し説明しても移動中の不安や混乱が強く続く場合、車の中で興奮し安全に運転できない状況が生じる場合、外出そのものへの拒否が著しい場合は、対応の工夫だけで抱え込まず、かかりつけ医やケアマネジャーに相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
移動中に繰り返し状況を伝えることは目安を示す助けになりますが、頻繁に声をかけられること自体が『そんなに心配しなければならない外出なのか』と、かえって本人の不安を強めてしまう場合もあります。普段と違う反応が見られたら、説明を増やすのではなく、いったん声かけを控えて落ち着くのを待つ方が良いこともあります。
応用・バリエーション
不安な反応が強い場合は、行き先を伝えるタイミングを出発直前にする、あるいは本人が安心できる同乗者を増やすなど、状況に応じた調整も検討しましょう。
まとめ
このヒントのポイント
漠然とした伝え方では本人に十分伝わっていないことがある
具体的な行き先と理由を伝え理解を確認することが大切
移動中も繰り返し伝えることで見通しを保ちやすくなる
前向きな見通しを添えると安心感につながる
不安や混乱が強く続く場合は専門家に相談する
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根拠について:具体的な説明と理解確認を繰り返すことが移動時の不安軽減に資するという考え方は認知症ケアの実践知として広く共有されているが、効果を厳密に検証した比較研究は限定的である。