音楽療法や回想法で楽しく過ごす
非薬物療法で心の安定を
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
会話が難しくなった段階でも、懐かしい音楽や昔の思い出を振り返る「回想法」は、本人の中に残る記憶や感情を引き出し、心の安定や豊かな表情につながることがあります。薬に頼らない関わり方の一つとして取り入れる価値があります。
体験談
母(82歳、アルツハイマー型認知症)は、症状が進むにつれて、会話も少なくなり、表情の変化もあまり見られなくなっていました。何か楽しめることはないかと考えていたとき、ふと、母が若い頃によく歌っていた懐かしい歌謡曲を流してみることを思いつきました。
最初のフレーズが流れた瞬間、母の表情がぱっと明るくなり、歌詞をほとんど正確に口ずさみ始めたのです。会話ではなかなか言葉が出てこない母が、歌になると、驚くほどスムーズに言葉を紡いでいく様子に、私は言葉を失いました。
それ以来、母と過ごす時間には、意識的に懐かしい音楽を取り入れるようにしています。また、昔のアルバムを見ながら、「これは〇〇に行ったときの写真だよ」と話しかける「回想法」のような関わりも取り入れるようになりました。母は、写真をきっかけに、昔の思い出をぽつぽつと語ってくれることがあり、そうした瞬間には、以前と変わらない生き生きとした表情を見せてくれます。
薬に頼るだけでなく、音楽や思い出という、母の中に残っている力を引き出す関わり方があることを知り、介護の視野が大きく広がりました。
— 82歳の母(アルツハイマー型認知症)を介護する53歳娘
詳しく知る
なぜ音楽や回想法が効果的なのか
なぜ音楽や回想法が効果的なのか
認知症が進行すると、数分から数日前の出来事についての記憶(近時記憶)は失われやすくなる一方で、若い頃に繰り返し歌った歌や、深く印象に残っている思い出は、比較的長く保たれることがあります。なお、神経心理学では「近時記憶」と、数秒〜数十秒だけ情報を保持する「短期記憶(作業記憶)」は別の概念として区別されています。特に音楽は、言語を介さずに感情や記憶に直接働きかける性質があるとされ、会話が難しくなった段階でも、歌詞を口ずさんだり、表情が明るくなったりする反応が見られることがあります。
昔の写真や思い出の品を通じて、過去の出来事を振り返る「回想法」も、同様に、本人の中に残る豊かな記憶を引き出し、自己肯定感や心の安定につながる関わり方として、多くの介護現場で取り入れられています。具体的な工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
💬 「言葉を失うほど驚きました」
💬 「言葉を失うほど驚きました」
介護経験者からのアドバイス
「会話がほとんど難しくなっていた母が、懐かしい歌になると、驚くほどスムーズに歌詞を口ずさんだ瞬間は、今でも忘れられません。
母の中に、まだこんなに豊かな記憶が残っていたのだと知り、関わり方の幅が大きく広がりました。薬だけに頼らない工夫があることを、もっと早く知りたかったです。」
取り入れる際の注意点
取り入れる際の注意点
- 本人が悲しい記憶を思い出し、動揺する様子が見られたら、無理に続けず話題を変える
- 大きすぎる音量は、かえって不快感を与えることがあるため、本人の反応を見ながら調整する
- 効果には個人差があり、必ずしもすべての人に同じ反応が見られるとは限らない
実践のステップ
本人が若い頃に親しんだ流行歌や演歌など思い入れのある曲を選ぶ
昔の写真やアルバムを一緒に見ながら具体的な場面を振り返る
言葉が出てこなくても急かさず本人のペースで反応を待つ
家族自身の思い出話も交えて自然な会話の広がりを作る
デイサービスの音楽療法プログラムの活用をケアマネジャーに相談する
注意点
音楽や写真をきっかけに強い混乱や悲しみが続く場合、本人の反応がほとんどなく他の方法も試したい場合、BPSD(行動・心理症状)が強く対応に困っている場合は、かかりつけ医や音楽療法士、作業療法士などの専門家に相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
昔の思い出は、必ずしも楽しいものばかりとは限りません。配偶者との死別や辛い出来事に結びつく写真や曲を選んでしまうと、意図せず悲しみや喪失感を呼び起こしてしまうことがあります。家族がよかれと思って選んだ題材が、本人にとっては触れられたくない記憶だった、ということもあるため、反応を見ながら題材を選び直す柔軟さが必要です。
応用・バリエーション
本人が悲しい記憶を思い出し動揺する様子が見られたら、無理に続けず、明るい話題の曲や写真に切り替えるなど、内容を調整しましょう。
まとめ
このヒントのポイント
音楽や思い出は言葉が難しくなった段階でも記憶や感情に働きかけることがある
回想法は写真などを通じて過去を振り返る関わり方
答えを急がず本人のペースで反応を待つことが大切
デイサービスの音楽療法プログラムも活用できる
強い動揺が続く場合や反応が乏しい場合は専門家に相談する
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根拠について:音楽療法や回想法が認知症のある方の心理的安定や生活の質の向上に資するという考え方は非薬物療法として広く実践されているが、効果の程度には個人差があり、厳密な効果検証は限定的である。