ケアマネとの初回面談で必ず伝えるべきこと
初回で状況を正しく共有するための準備と、伝え漏れを防ぐチェック項目。
ケアマネとの情報共有に医師の所見が役立ちます。認知症を専門とする医師が48時間以内に回答します。初回500円。
相談する田中久美子さん(56)が、母・フミさん(82)とともにケアマネジャーの佐藤直子さんと初めて顔を合わせたのは、フミさんが物忘れ外来でアルツハイマー型認知症と診断されてから3週間後のことだった。
久美子さんは緊張していた。それでも「困っていることを聞かれたら、ちゃんと答えなきゃ」と、前日の夜にノートに要点をまとめておいた。当日、佐藤さんは物腰の柔らかい人で、フミさんの生活歴や既往症、家族構成などを丁寧に聞き取ってくれた。久美子さんも用意したメモを見ながら、日中の様子や食事のことを話した。面談は1時間ほどで終わり、「思っていたよりスムーズだった」と久美子さんはほっとした。
ところが、2週間後に届いたケアプランの第1表・第2表を見て、久美子さんは違和感を覚えた。デイサービス週2回という提案は悪くなかったが、本当に困っていたことが反映されていなかったのだ。フミさんは夜中に何度も起き出して「家に帰る」と玄関を開けようとすることがあり、久美子さんはほとんど眠れない日が続いていた。また、フミさんは血圧の薬を「毒を盛られている」と言って拒否することがあり、久美子さんはそれらをどう伝えればいいか分からず、結局面談では察してくれとでも言わんばかりの婉曲表現にとどまったが、佐藤さんが優しく「大変なご様子ですね」とうなづいたのを見て、理解してくれたと思い込んでいた。
「何を一番つらいと感じているのか、はっきりと伝えることができていなかった」。久美子さんはそう気づいた。夜間の徘徊も服薬拒否も、認知症という文脈の中では「いつものこと」であり、ケアマネがいくらプロとは言えど、何を強調したかったかという要点はきちんと伝えなければぼやけてしまう。
実のところ1週間ほど、久美子さんは深夜2時に物音で目を覚ますことが常だった。玄関の鍵をカチャカチャと回す音が聞こえる。駆けつけると、フミさんがコートを羽織って靴を履こうとしていた。「こんな時間にどこに行くの」と聞くと、フミさんは真剣な顔で「こんな時間まで人様の家に厄介になっているわけにいかない。家に帰らないと」と答えた。ここがもう何十年も暮らしてきた家だと説明しても伝わらず、なだめて布団に戻すまで30分近くかかった。同じようなことが週に2~3回あり、久美子さんは日中も気が抜けず、常に半分眠っているような状態が続いていたが、一方でフミさんは自分の行動を何も覚えていなかった。
薬のことも誰にも相談できずにいた。血圧の薬を飲ませようとすると、フミさんが手を払いのけ、「これ、毒でしょう。私に毒を盛って、財産を取り上げるつもりなんでしょう」と真顔で言うことがあったのだ。実の娘に向かって発した言葉とは思えず、久美子さんは胸が締めつけられ、その場では愛想笑いでごまかして薬をそっと片づけるしかなかった。
2回目のモニタリング訪問の前、久美子さんは今度こそと決めて、1週間分の困りごとを日付・時間帯つきでスマホのメモに書き溜めた。「〇月〇日 深夜2時、玄関の鍵を開けようとした」「〇月〇日 朝の薬を口に入れず出してしまう」——感情を交えず、事実だけを並べたメモだった。それを見せると佐藤さんの表情が変わった。「これは早く共有していただきたかったです。ショートステイの利用や、服薬については主治医とも相談して見直しましょう」。ケアプランはその場で大きく組み替えられることになった。
初回面談で必ず伝えるべき5つのこと
1. 心身の状態と「できていないこと」の具体例
「認知症です」だけでは情報としてどうしても不十分。食事・排泄・入浴・移動のどこで、どんな手助けが必要かを、直近1週間の実例で伝えましょう。
2. 一番困っている行動・症状(BPSD含む)
徘徊、暴言、服薬拒否、昼夜逆転など、家族が最も消耗している症状は「日常化」して抜け落ちやすい。事前にメモし、必ず最初に伝える。
3. 家族側の生活状況とキーパーソン
就労状況、同居の有無、きょうだいとの役割分担、緊急時に誰が対応できるかを伝える。ここが曖昧だと、家族の負担を前提にしたプランが組まれてしまうことも。
4. 本人の希望・価値観・これまでの生活歴
例えば「自宅で過ごしたい」など本人が大切にしてきたことは、サービス選定の軸になる。本人の言葉をそのまま伝えると判断材料になる。
5. かかりつけ医・服薬状況・緊急連絡先
処方薬・通院先・緊急連絡先は口頭より書面で。お薬手帳のコピーを持参するだけで聞き取りの精度が上がる。
初回面談でよくある失敗パターン
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記事の内容についての疑問や、ご自身・ご家族の状況に合わせた相談を、認知症を専門とする医師に直接お聞きいただけます。
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恥ずかしさから、つらい症状を隠してしまう
暴言や介護拒否など、本人の人格を疑うような言動は「家族の恥」のように感じて言い出せないことが多い。だがそれこそが専門家に相談すべき症状そのものである。
本人の前で、言いにくいことを飲み込む
本人同席の面談では、傷つけたくない一心で本音を話せないことがある。事前にケアマネジャーへメモを渡す、本人が席を外す時間を作ってもらうなど、伝え方を工夫したい。
「答えやすい話題」だけで面談を終えてしまう
利用したいサービスの希望など、話しやすいことばかりが先行し、肝心の困りごとに時間を使えないまま面談が終わってしまうケースは多い。
初回で全部言い切ろうとして、逆に何も伝わらない
情報を詰め込みすぎて要点がぼやけることもある。優先順位をつけたメモを用意し、最も困っていることから話す。
面談前に用意しておきたい「困りごとメモ」
久美子さんは今、モニタリング訪問の前に必ずこのメモを更新するようにしている。「面談は1回きりじゃない。伝え忘れても次で直せると分かってから、気持ちがずいぶん楽になりましたが、同時に伝えるべきことはしっかりとご相談にのっていただけます」と話す。
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