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記憶の四季【春-②】楽しかった記憶ほど、なぜ長く残るのか
📝 コラム2026年9月12日

記憶の四季【春-②】楽しかった記憶ほど、なぜ長く残るのか

「お母さん、去年の旅行の話、また嬉しそうにしてたね」 そう感じたことはありませんか。家族旅行や孫が生まれた日のことは、認知症が進んでも驚くほど鮮明に語られることがあります。一方で、昨日の昼ごはんの内容はまったく思い出せない——前回、「新しい記憶ほど失われやすい」というお話をしましたが、実はそれだけでは説明のつかない現象があります。楽しかった記憶は、なぜあんなにも長く残るのでしょうか。 答えの鍵は、「仮受付」である海馬の、ちょっと意外な仕事ぶりにあります。海馬は、体験したことを機械的に日付順で本棚へ運んでいるわけではありません。心が大きく動いた出来事——嬉しかったこと、驚いたこと、時には怖かったことにも——には「これは特に大事」という付箋を貼って、本棚のいちばん目立つ場所に、より丁寧に運んでいくのです。 この「付箋を貼る」働きをしているのが、脳の中で感情を担当する扁桃体という部位です。扁桃体が強く反応した出来事ほど、海馬は優先的に、そして繰り返し本棚へ運ぼうとします。付箋の色が濃いほど、本棚の奥にしまわれても見つけやすい——そんなイメージです。楽しい記憶が長持ちするのは偶然ではなく、脳が「これは覚えておくべきだ」と判断した結果なのです。 これは脳科学で「情動性記憶増強」と呼ばれる現象です。扁桃体が興奮すると、ノルアドレナリンをはじめとする神経修飾物質が分泌され、すぐ隣にある海馬の働きを底上げします。神経細胞同士のつながりが強まる「長期増強」という現象が起こりやすくなり、その出来事の記憶がより強固に、より多くの手がかりとともに刻まれるのです。扁桃体と海馬は解剖学的にも隣接しており、この近さそのものが、感情と記憶が切り離せない理由の一つだと考えられています。 ここで一つ、知っておいていただきたいことがあります。この仕組みは、怖かったことや辛かった記憶にも同じように働きます。付箋は「楽しい」専用ではなく、「心が大きく動いたかどうか」に反応するのです。認知症の方が特定の出来事に強く反応したり、同じ不安を繰り返し口にしたりするのも、実はこの付箋の仕組みと関係しているのかもしれません。 それでも、これは介護の場面で大きな希望になります。同じ楽しい話を何度も聞かされてつらいときもあると思いますが、それだけ本人にとって「大切だった」証拠でもあります。そして、新しい嬉しい記憶も、まだ作ることができるということでもあります。一緒に歌う、庭の花を眺める、好きなお菓子を食べる——今日のささやかな喜びが、本棚の目立つ場所に運ばれていくかもしれません。 次回は、一度しか会っていないのに、なぜか忘れられない人がいる——その不思議についてお話しします。

記憶の四季【春-①】記憶はどこに仕舞われているのだろう
📝 コラム2026年9月8日1

記憶の四季【春-①】記憶はどこに仕舞われているのだろう

「これ、覚えておいてね」 家族にそう念を押されたのに、次の瞬間にはもう忘れている。誰にでも一度は経験があると思います。では逆に、何十年も色褪せずに残っている記憶もありますよね。初恋の相手の名前、子どもが生まれた日の病室のにおい、遠足で転んで泣いた場所——なぜ「覚えておいてね」と言われた昨日のことは消えるのに、頼まれてもいないあの日のことは、こんなにもはっきり残っているのでしょうか。 記憶は、脳の中の「一箇所」にしまわれているわけではありません。よく例えられるのは、記憶は一冊の「本」ではなく、バラバラの「ページ」だということです。ある出来事を思い出すとき、脳は色々な場所に散らばったページ——匂いを担当する部署、音を担当する部署、感情を担当する部署——を同時に呼び出して、一冊の本のようにつなぎ合わせています。だから匂いや音楽をきっかけに、忘れていたはずの記憶がふっとよみがえることがあるのです。 そしてもう一つ大事なのが、「海馬」という脳の部位の存在です。海馬は、いわば記憶の「仮受付」。新しく体験したことを一時的に預かり、大事だと判断したものだけを、少しずつ脳の奥深くの「本棚」へと運んでいきます。この「仮受付から本棚へ運ぶ」作業がうまくいかなくなるのが、アルツハイマー型認知症で最初に起こる変化だと言われています。だから、真新しい記憶ほど残りにくく、何十年も前にすでに本棚へ運び終えた記憶は、意外なほど長く残るのです。 これは脳科学でいう「記憶の固定化(コンソリデーション)」という過程です。体験した直後の記憶は、海馬という一箇所にしか手がかりが残っていない、いわば心もとない状態にあります。時間をかけて大脳皮質のあちこちに分散して書き写されていくことで、初めて壊れにくい記憶になるのです。アルツハイマー型認知症では、海馬そのものと、その入り口にあたる嗅内皮質という部位から神経細胞の変化が始まることが知られています。仮受付の窓口が先に混み合うからこそ、まだ本棚へ運び終えていない直近の記憶から順に取り出しにくくなり、すでに分散して保存された古い記憶ほど影響を受けにくい——これを記憶研究では「時間的勾配」と呼びます。新しいことから忘れていくように見えるのは、記憶がでたらめに壊れているのではなく、この運ばれる順番が、そのまま症状の順番として現れているからなのです。 これは、朝ごはんに何を食べたかを聞かれて答えられないのに、子どもの運動会の記憶なら鮮明に語れる、というよくある場面にも重なります。「さっきのことは忘れるのに、昔のことはやけに詳しく話す」というのは、記憶がでたらめに消えているのではなく、むしろ順番どおりに——新しいものから——静かに薄れているということなのです。 「さっき言ったのに、もう忘れている」と感じたとき、それは本人が怠けているわけでも、家族への関心が薄れたわけでもありません。仮受付から奥の本棚まで、記憶を運ぶ通り道が、少しずつ混雑してしまっているだけ。そう考えると、忘れっぽさに苛立つ気持ちが、ほんの少し和らぐ気がしませんか。 次回は、この「本棚」の中でも、なぜか色褪せない記憶——楽しかった思い出ほど長く残る理由についてお話しします。

記憶の四季 序章——なぜ「記憶」を書こうと思ったか
📝 コラム2026年9月4日7

記憶の四季 序章——なぜ「記憶」を書こうと思ったか

「同じ話を三回聞いても、初めて聞いたみたいに相槌を打つ」 「昨日の夕飯は思い出せないのに、四十年前の結婚式のことは涙ぐみながら話す」 このひとりごと手帖では、そんな「記憶にまつわる、ちょっと不思議で、ちょっと切ない場面」について、これまでも何度か書いてきました。書くたびに、自分の中で同じ疑問が繰り返し湧いてきます。記憶って、いったい何なのだろう。なぜ消える記憶と、消えない記憶があるのだろう。 そこで今日から、「記憶」だけをテーマにした連載を始めることにしました。名付けて「記憶の四季」。 春は記憶がどう生まれるかという素朴な仕組みの話から始まり、夏は何十年経っても色褪せない楽しい記憶、秋は認知症によって記憶が静かに離れていく戸惑い、そして冬は、それでも最後まで残るものについて——四つの季節をめぐるように、全28回にわたって綴っていく予定です。 正直に言うと、秋の章はいちばん書くのが難しいだろうと、今から思っています。「あなたは誰?」と聞かれる悲しさ、同じ話を繰り返されるもどかしさ——きれいごとだけでは済まない場面が続きます。それでも、記憶が消えていく「仕組み」を知ることで、ほんの少しだけ気持ちが軽くなる瞬間があると、私は信じています。 以前、記憶の空白を[「10年ぶりの同窓会」](/diary/2026-06-19)に例えて書いたとき、「腑に落ちました」という声をいただいたことがありました。あの感覚を、もっと丁寧に、もっと長く、届けたい。それがこの連載を始めようと思ったきっかけです。 対象は、ご家族の物忘れに戸惑っている方はもちろん、まだ何も起きていないけれど「記憶ってどういう仕組みなんだろう」と純粋に気になる方も歓迎です。医学的な正確さよりも、「知ってちょっと楽になる」を大事にして書いていくつもりです。 更新は毎日ではなく、週に1〜2本くらいのペースになると思います。気長にお付き合いいただけたら嬉しいです。 次回、まずは「記憶はどこに仕舞われているのだろう」という、いちばん素朴な問いから始めます。

アルツハイマー型認知症で「嗅覚」が奪われる理由
📝 コラム2026年6月26日2

アルツハイマー型認知症で「嗅覚」が奪われる理由

「あれ、いつもの匂いがしない」 たばこの匂いを嫌っていたお母さまが、廊下に残るお父さまのたばこの匂いに反応しなくなったことに、あなたが気づいたのはいつでしょうか。 あるいは、いつも好んで食べていた焼き魚の香りが家じゅうに漂っているのに、「あら、私もうお魚焼いたかしら?」と首をかしげるようになったのは、いつからでしょうか。 それを認知症の症状だとは思わず、単なる慣れや加齢によるうっかりだと思い込んでいないでしょうか。 実は、アルツハイマー型認知症の患者さんの中には、診断されるずっと前から嗅覚が低下している方が大勢います。あなたが気づいていないだけで、ご本人の脳では静かに、しかし着実な変化が起きているのです。 アルツハイマーと嗅覚:隠れた関係 記憶が失われていく病気として知られるアルツハイマー型認知症ですが、実は嗅覚(においの感覚)は、この病気が最初に影響を与える脳領域のひとつです。 奇妙に思えるかもしれませんが、この関係には神経解剖学的な理由があります。ざっくり説明すると、記憶の中核を担う海馬(かいば)と、匂いをとらえる嗅内皮質(きゅうないひしつ)は、脳の中でお隣どうしの関係にあるのです。 言い換えると、アルツハイマー病変が記憶中枢を壊していくとき、その病変はすでに嗅覚の領域にも侵入しているということ。実際、アルツハイマー型認知症の患者さんでは、記憶障害が顕著になる数年前から嗅覚が低下していることが多いのです。 脳で起きている「変性」 何が起きているのか、もう少しだけ説明しておきます。 (ひと昔前は知らなくてもよい知識でしたが、最近では抗体医薬の登場で耳にする機会も増えてきたと思いますので) アルツハイマー型認知症の脳では、二つの異常な物質が蓄積していきます。 1. アミロイドβ(ベータ)タンパク質 健康な脳でも常に産生されている物質ですが、アルツハイマー患者さんの脳ではこれが凝集し、「プラーク」と呼ばれる塊となって蓄積します。これが神経細胞の働きを阻害してしまいます。 2. リン酸化タウタンパク質 神経細胞の内部で、本来は安定した骨組み(微小管)を支えるタンパク質として働いていますが、異常にリン酸化されると、その骨組みが崩壊し、細胞全体の機能が低下してしまいます。嗅内皮質では、このタウの蓄積が特に目立ちます。その結果、匂いの情報がうまく処理できなくなり、嗅覚が低下していくのです。 なお研究によれば、アルツハイマー型認知症の患者さんの約90%で嗅覚の低下が認められています。多くの場合、ご本人も気づかないうちに変化が始まっています。 次回は、嗅覚の低下が日常生活にどのような影響を及ぼすかを解説します。 匂いの感覚が落ちるだけじゃないの?……そう思われるかもしれませんが、実は多岐にわたって日常生活に影響するんです。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1782666951305-s9d8szf734r.jpg)

認知症のある方が新しい習慣をつくるためには
📝 コラム2026年6月25日1

認知症のある方が新しい習慣をつくるためには

ポイント2. 「当日の朝は説得しない」 最大のポイント デイサービス当日の朝に、「今日はデイサービスの日で……」と説明を始めてはいけません。 なぜなら、その時点でご本人は  ✓ 昨日の約束をすでに忘れている  ✓ 「なぜ出かけるのか」という理由を記憶していない だから説得は成立しないどころか、本人を混乱させてしまうだけなのです。 具体的な行動の例 朝8:00 →「さて、準備しなきゃ」と洋服を選ぶのを手伝う 朝8:15 →「お迎えが来ましたね」と事実を淡々と伝える。理由は説明せず、習慣の一部として対応します。 朝8:20 →「では行きましょう」と、いつもの当たり前の行動として送り出す。 医学的な根拠: ご本人の「不安や拒否感」は、未知のものや理由が不明確なものに対して高まります。説得しようとすると、逆に「何か隠されている」「何か異常だ」という認識が強まり、拒否がエスカレートしてしまいます。 代わりに、朝の準備から送迎までを、なんでもない「ルーティン」として粛々と進めることで、ご本人の脳は「これは日常の当たり前の行動」だと認識するようになり、拒否感が軽くなっていきます。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1782357942567-laixwg8tuv.png) ポイント3. 「帰宅後に後追いで意味づけをする」 これも、長期的な習慣化を加速させるために大切なポイントです。 具体的には: 帰宅後、リビングで一緒にお茶を飲みながら「今日はデイサービスで何々をしてきたんですよ」「職員さんが『奥さん、今日もお元気でしたね』って言ってましたよ」「また明日も一緒に行きましょうね」と、その日を振り返ります。 (なお、以前にデイサービスの説得に失敗したことがある場合は、「デイサービス」という言葉自体に良くない印象を持っている可能性があります。「習い事」「レッスン」「おけいこの時間」「ジム」「トレーニングセンター」など、目的地を別の言い方で表現してみるのもひとつの方法かもしれません) ここで大事なのは、ご本人の「拒否」に反論しないこと。 本人が「もうやらない」「嫌だ」と言ったら、「そんなこと言わないで……」などと無理に説得せず、別の話題に移りましょう。 医学的な根拠:認知症のある方は、その日の経験そのものはすぐに忘れてしまっても(何をしたか覚えていなくても)、繰り返した行動は長期記憶として蓄積されることがあります。また帰宅後に「デイサービスを頑張った、楽しかった、有意義な一日だった」というご家族の声を何度も聞くことで、ご本人の脳の中に「デイサービス=ポジティブな経験」という結びつきが少しずつ形成されていきます。 とはいえ正直に言うと、最初の1〜3ヶ月は「大変」です。実際の例では…… 初週〜2週間:毎朝拒否される 2週目〜4週間:拒否の頻度がわずかに減る 1〜2ヶ月:朝の準備時点での拒否は減るが、玄関では抵抗する 2〜3ヶ月:習慣化が定着し、抵抗感が大幅に減る この過程では、ご家族であるあなた自身も疲弊してしまうと思います。 そんなときは「本人を説得できていない」と罪悪感を持つのではなく、「習慣を定着させるために、淡々と対応している」と考え方を切り替えてみてください。 その意識さえできれば、毎朝の対応はむしろシンプルになります。 当たり前のように朝食をとる 当たり前のように準備を手伝う 当たり前のようにスタッフを迎える 当たり前のように送り出す この「当たり前」を3ヶ月繰り返すだけで、ご本人の脳が対応してくれるようになります。 #認知症コネクト ここまで解説したのは、あくまで教科書的な知識です。 「うまくいかない」など個別のご相談があれば、ぜひ認知症コネクトまでご相談ください。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1782358107426-qq8jl5xr4vq.png)

認知症のある方を説得したい……どうしたら良い?
📝 コラム2026年6月24日

認知症のある方を説得したい……どうしたら良い?

答え:説得は「難しい」のではありません。説得は「成立しない」のです。だから、方法そのものを変えます。 まず大前提は以下の通りです。 https://dementia-connect.com/diary/2026-06-23 認知症のある方の脳は、上記の通り説得が成立しない状態にあるとします。 説得のテクニックを工夫しても「効果がないみたいだ…」 説明をわかりやすくしても「効果がないみたいだ…」 優しく諭しても「効果がないみたいだ…」 ……こうなるとお手上げに感じて、ともすれば言い争いに発展してしまいそうですが、いまはその気持ちをいったん脇に置いて、代わりに認知症のある方でも反応しやすい「別のメカニズム」を使ってみましょう。 実際の対応方法 ポイント1.「毎日同じ時間に同じ流れで」習慣化する 認知症のある方は、理由は忘れても、反復された行動パターンには応答できることがあります。具体的には、 毎朝 7:30 → 朝食 毎朝 8:00 → 「デイサービスの準備の時間ですよ」と声かけ 毎朝 8:15 → スタッフ到着 毎朝 8:20 → 玄関を出る この流れを最低2〜3ヶ月ただ繰り返すことで、ご本人の脳が「毎朝8時は外出のために準備をする時間だ」と無意識に認識するようになっていきます。 医学的な根拠: 認知症では短期記憶(新しいことを覚える能力)は低下しますが、反復による「手続き記憶」は比較的保たれています。 つまり「なぜ出かけるのか」という理由は忘れても、「毎日この時間に出かける」という習慣のパターンだけは、脳に染みこんでいくのです。 ☆手続き記憶はなじみのない言葉かも知れませんが、 例えば「自転車に乗れるようになる」 例えば「うまく楽器の演奏ができるようになる」というような記憶で、 同じような経験の繰り返しにより獲得される記憶です。 しかしその情報をいつどこで獲得したかについての文脈情報は消失してしまいます(自転車に乗ることができるようになったのは、小学校1年生のとき、練習を始めてから38分後に、右足で645回めにペダルを踏んだとき……なんて記憶はないはずです)。 また記憶がいちど形成されると、意識的な処理を必要とせず自動的に機能し、長期間保存されることも手続き記憶の特徴の一つとして知られています(久しぶりに自転車に乗ってみても案外スムーズにこげるはず)。 ……話したいことがあると文章が長くなるのは悪い癖です。今日はいちどここで区切って次回ポイント【その2】と【その3】をまとめようと思います。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1782359130662-67lpm74q1yv.jpg)

医師の前では「行きます」と答えるのに、いざとなるとデイサービスや入浴を拒否する
📝 コラム2026年6月23日1

医師の前では「行きます」と答えるのに、いざとなるとデイサービスや入浴を拒否する

認知症のある方は(たとえ軽度〜中等度であっても)実際の行動と、言葉での返答が食い違うことが珍しくありません。 ☆言葉の返答 たとえば、病院の外来で医師の診察を受けているとき、ご本人は相手が自分に対して「どのような返答を期待しているか」を考えて答えていることがあります。これを虚偽応答(confabulation)や社会的同意と呼びます。 ご本人が自覚的に嘘をつこうとしているわけではなく、社会性を会得した脳のメカニズムによるものなので、ご本人を責めても意味はありません。 ☆実際の行動 一方、実際のお迎えの時間には、目の前に「外出(目的:不明)」という現実が迫っています。このときご本人の中では: 「なぜ出かけるのか」という理由が分からない 「どこへ行くのか」という場所の感覚(見当識)が不確かである 「この相手と一緒にどこかへ出かけた記憶はない」という過去の記憶のほうが優先される という状態が起きていて、⇒ 結果として「拒否すべきだ」というある意味当然の結論が導かれてしまうわけです。 ☆現実的な対応のポイント 「説得したい」という気持ちはよく分かりますが、認知症が軽度〜中等度であったとしても、多くの場合、説得は「難しい」というより「そもそも成立しません」(上記の通り、脳のメカニズムそのものが異なるからです)。 では、新しい習慣を生活の中に取り入れることは不可能なのでしょうか。 いいえ、そうではありません。次回は医学的に正しい対応を解説しながら、介護負担をどう軽くしていけるかをお伝えします。習慣が定着すれば、ご本人の抵抗感も減っていきます。そしてその過程で、あなた自身の介護負担が軽くなることも、同じくらい大切なことです。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1782174298828-dt47raxrpag.png)

せん妄の3つのタイプ:「暴れる」だけが「せん妄」じゃない、見逃しやすい状態を知っておこう
📝 コラム2026年6月22日2

せん妄の3つのタイプ:「暴れる」だけが「せん妄」じゃない、見逃しやすい状態を知っておこう

せん妄ってどんな状態? せん妄は、脳が一時的に「混乱状態」に陥ってしまう症状です。感染症、薬、脱水、痛み、睡眠不足など、さまざまなきっかけで起こります。「認知症」とは異なり、適切な対応をすれば改善する可能性が高い状態です。 3つのタイプを理解しよう :::box amber ①過活動性せん妄(よくテレビでも見かけるタイプ) わかりやすい特徴: 興奮、落ち着きなさ、物を投げる、大声を出す 夜間に突然暴れたり、言葉が支離滅裂になったりします。「変化が目立つ」ため、家族が気づきやすいのが特徴です。 ::: :::box rose ②低活動性せん妄(見逃されやすい危険なタイプ) わかりやすい特徴: ぼんやり、返事がない、動きが鈍い、やる気がない 一見「疲れているだけ」「認知症が進んだ」と思われてしまい、深刻な見落としにつながります。実は死亡率が高いことをご存じでしょうか。ご家族が「最近、何もしゃべらなくなった」と感じたら要注意です。 ::: :::box slate ③混合型せん妄 上記の①と②が交互に起こる、あるいは同時に現れるタイプです。予測が難しく、対応が複雑になることもあります。 ::: --- 気づくために「毎日の観察」を心がけよう せん妄は発症から(24〜)72時間が重要です。以下のサインが「いつもと違う」と感じたら、医師に相談してください。 | チェック項目 | 確認ポイント | |---|---| | 意識の清明性 | 呼びかけに反応が鈍くないか、または過剰に反応していないか | | 睡眠パターン | 昼夜逆転、または極端な睡眠不足がないか | | 注意力 | 話しかけても視線が合わない、集中できていないか | | 思考の整理 | 話の筋が通らない、時間や場所の認識がズレていないか | | 情動の変化 | 理由のない怒り、不安、または無関心がないか | | 行動の変化 | 動きが鈍い、または落ち着きがなくなっていないか | | 身体症状 | 熱、咳、尿の異常、便秘、脱水の兆候 | --- 疑ったときに「家庭でできる対応」 今すぐできることリスト ✓ 環境を整える 部屋を明るくする(昼と夜のメリハリをつける) 見守る人がそばにいることを伝える 時計やカレンダーを見える場所に置く ✓ 身体のケア こまめに水分をとりましょう(特にこれからの季節は要注意です) 便秘や尿の状態をチェックします 身体のどこかに怪我や痛みがないかを確認してみましょう ✓ 睡眠と活動 昼間にしっかり体を動かしましょう。ただしこれからの季節は炎天下での運動は避けて、朝日が昇ってすぐの時間帯などをうまく活用するのがおすすめです 夜間の照明を落とす お昼寝は短く(30分程度で切り上げるように。お昼寝の「前」に緑茶やコーヒーを飲むのもおすすめです) ✓ 医療機関へ 不安があれば医師に相談してみましょう 発症のきっかけ(いつから?)を伝えてください 最近の薬の変更、体調の異変も報告しましょう --- なぜ見落とされるのか 低活動性せん妄は「静かだから大丈夫」と思われやすいのですが、実は肺炎や敗血症など重篤な感染症が隠れていることもあります。「いつもと違う静かさ」こそが、SOS信号なのです。 医師:認知症コネクトでもご相談を承ります。 認知症ではなく、医学的に治療できる状態がせん妄です。早期発見は、良い予後に直結します。「あれ?」と感じたら、躊躇せずご相談ください。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1782096919477-o699bw0ycfj.png)

「せん妄」と「認知症」はどう違う?家族が最初に知るべき見分け方
📝 コラム2026年6月20日2

「せん妄」と「認知症」はどう違う?家族が最初に知るべき見分け方

ある日突然「ここはどこだ?」と大声を出したり、夜中に部屋を歩き回ったりする。ご家族からすると「認知症が急に悪化したのかな」と思うかもしれません。けれど、それは必ずしも認知症とは限らないのです。「せん妄」と呼ばれる状態をご存じでしょうか。 せん妄とは? せん妄は、急に頭の働きが混乱してしまう状態です。昨日まで普通に話していた人が、急に「泥棒がいる!」と言い出したり、昼と夜の区別がつかなくなったりします。原因は、感染症・薬の副作用・入院や環境の変化など。つまり、体の調子が崩れたときに一時的に起こることが多いのです。 認知症とは? 認知症は、少しずつ記憶や判断力が落ちていく病気です。少し前に起こったことを、出来事ごと忘れてしまったり、初めて聞くかのように同じ質問を何度も繰り返したりします。進行はゆっくりで、数か月から数年かけて変化していきます。せん妄のように「急に悪化する」ことは少なく、じわじわ進むのが特徴です。 家族が見分けるポイント 1. スピードの違い せん妄:急に変わる(さっきまで普通だったのに、今は混乱している) 認知症:ゆっくり変わる(だんだんと覚えにくくなっていく) 2. 波の違い せん妄:時間帯によって良くなったり悪くなったりする 認知症:日によって多少の差はあっても、はっきりとした変化はあまりない 3. 原因の違い せん妄:感染症・薬・入院など、何かしらの「きっかけ」があることが多い 認知症:明確なきっかけはなく、気がついたらそうなっている イメージで例えると…… :::box amber 認知症は「ゆっくり遅れていく時計」。針が少しずつずれていき、気がついたときには違う時間を指している。いつからずれ始めたのかは分からないし、じっと見ていても分からないくらい、少しずつしか変化しません。 ::: :::box amber せん妄は「突然壊れた目覚まし時計」。突然鳴り響いたかと思うと、また落ち着いたりして、昨日までとは様子がはっきり違う。振り返ってみると「そういえば昨日、床に落としたんだっけ」というように、原因に心当たりがあることも多いものです。 ::: 家族ができること 急に様子が変わったら、「せん妄かもしれない」と考えてみてください。 なぜならせん妄は、認知症以外の変調(例えば熱や感染症、あるいは薬が体に合っていない可能性など)を示していることがあるからです。 →まずは病院に相談しましょう(せん妄は、適切な対応で治ることも多いので)。 繰り返すと、「急に変わった」ならせん妄を疑い、「少しずつの変化で、気がついたら変わっていた」なら認知症を考えます。 この見分け方が、ご本人を守り、ご家族にとっても安心への第一歩になりますように。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1781889158527-fbp017p2fmo.png)

毎日が「10年ぶりの同窓会」? 〜「あなたは誰?」に隠された記憶のヒミツ〜
📝 コラム2026年6月19日2

毎日が「10年ぶりの同窓会」? 〜「あなたは誰?」に隠された記憶のヒミツ〜

「えっと……ごめん、誰だっけ?」 久しぶりに行われた同窓会。目の前にいる人を見て、あなたは頭を抱えてしまいます。声は聞き覚えがあるけれど、顔つきも背の高さも全然違う。名前を聞いてようやく「えー!あの〇〇くん!?」と驚く。もちろん同窓会ではよくある風景です。 あるいはもっと短い期間で、例えば小学校の時も、長い夏休みのあとに友達の背がすごく伸びていて「一瞬、誰かわからなかった!」なんて経験があるかもしれません。それが10年ぶりともなれば、わからなくて当然です。 なぜ同窓会で「誰だっけ?」となるのでしょうか。 答えはとても簡単です。会っていなかった「空白の10年間」の記憶がないからです。あなたの頭の中のアルバムには、10年前の子どもの頃の写真しかありません。そこからいきなり大人の姿を見せられても、昔と今の姿が繋がらないのは当たり前ですよね。 実はこの現象、認知症の方が言う「あなたはどちら様?」という言葉のヒミツを解き明かすカギになります。 「ずっと一緒に暮らしているのに、なんで私のことを忘れちゃうの?」と、家族は悲しくなってしまうかもしれません。でも、少し想像してみてください。認知症という病気は、頭の中のアルバムに「新しい写真」を貼り付けるのがとても苦手になる病気です。 たとえば、認知症になってから10年が経ったとしましょう。家族は毎日顔を合わせて一緒に過ごしてきたつもりでも、ご本人の頭のアルバムには、この10年間の記憶がうまく保存されていません。つまり、毎日会っていたとしても、結果としてご本人にとっては同窓会と同じ「空白の10年間」ができてしまっているのです。 目の前に立っている大きく成長したお孫さんを見ても、おばあちゃんの頭の中にあるお孫さんの写真は「10年前のランドセルを背負った姿」のまま。だから、目の前の立派な若者を見て、「うちの孫はまだ小学生のはず。この見知らぬ人はどちら様?」と戸惑ってしまうのです。 そう、ご本人の心の中では、いきなり未来にタイムスリップして、見知らぬ人に親しげに話しかけられているようなもの。まさに「10年ぶりの同窓会」で戸惑っている状況と、まったく同じなのです。 「毎日会っているのに、なんで忘れるの!」と悲しくなる気持ちもわかります。でも、「そっか、おばあちゃんにとっては、今の状況は10年ぶりの同窓会なんだな」と考えてみてください。「私だよ、久しぶり! こんなに大きくなったでしょ?」と笑って返せたら、戸惑っているおばあちゃんも、きっとホッと安心できるはずです。 「誰だかわからない」のは、愛情が消えたからではなく、ただ記憶のアルバムに空白があるだけ。そうやって相手の心の中で毎日起きている「同窓会」を想像してみると、フワッと優しい気持ちになれる気がしませんか。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1781840108612-l79ccm2cqj.png)

「せん妄」と「記憶の空白」
📝 コラム2026年6月17日1

「せん妄」と「記憶の空白」

他でもない、私自身の体験談。 31歳のとき、頸椎の手術のために全身麻酔を受けたのだが、翌日の記憶がほとんどない。 よく外来で「全身麻酔はどうしてもせん妄を引き起こす可能性があります。ご高齢だったり、あるいは認知症があったりするとせん妄を起こす確率に影響します」と説明したりするが、どうやら自分がまさにせん妄を起こしていたかも知れない。 「……待てよ」と青ざめた。 全身麻酔を受ける前の記憶がよみがえる。あのとき「せん妄を起こしたら尿道カテーテルを自己抜去したりするのかな、あるいは『ままー、おちんちん、痛い痛いなの』とか看護師さんに叫んで迷惑をかけたりしないかな……まあ若いし大……丈……b……ぐーーーZZZ」 不意に頭をよぎっただけの思考だ。だが万が一にも、この思考が間違って外に漏れていたらどうしよう。母のことを「まま」と呼んだことは人生で一度もないし、「おちんちん」なんて言葉を最後に発音したのは10年以上前のはずである……信じてほしい。 翌朝、意識がしっかり戻ってきて、ストレッチャーで病室に運ばれながら聞いてみた。「昨日、ご迷惑をおかけしませんでしたか」と。看護師さんはにっこりと「迷惑だ……なんて思っていませんよ、お疲れ様でした」と優しく微笑んでくれた。 せん妄はまったく本人の記憶に残らないのだということを、私は実体験として思い知った。何か問題を起こしていたとしても、本人に悪意はまずない。 カルテに「『ままー、おちんちん、痛い痛いなの』と叫んでいる」とはさすがに書かないだろうから、真相は永遠に闇の中である。

「性格」なのか「認知症」なのか?
📝 コラム2026年6月16日1

「性格」なのか「認知症」なのか?

認知症の患者さんの、もともとの性格は十人十色のはず。それなのに、病気になる前はどんな性格だったのかという話をすっ飛ばしたまま、治療に取りかかろうとしていないでしょうか。 認知症の「症状の出方」はもともとの性格によって大きく変わることが分かってきていますが、診療報酬の項目に「性格」という欄はありませんし、1人5〜10分の外来枠では、そもそも聞く時間がありません。 けれど性格タイプを知らないと、症状の「意味」を誤解して治療方針がずれてしまうかもしれません。逆に理解を深めることで、介護のストレスを劇的に減らすことができる可能性もあります。 例えば: :::box slate ENFJの弱点:他人の期待に敏感  → 認知症になると期待に応えられず「責められている」と感じやすい  → 暴言・拒否・涙につながる ::: :::box amber ISTPの弱点:干渉されるのが苦手  → 介護の声かけを"支配"のように感じてしまう  → 暴力・拒否につながる ::: 認知症コネクトでは、MBTIに準じてこうした「医療の盲点」を埋めることも目指しています。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1781579968563-k2x0oiow07.jpg)

認知症の幻覚・妄想
📝 コラム2026年6月12日1

認知症の幻覚・妄想

:alert: 認知症の幻覚・妄想 医師が教える「薬が必要なケース」と「家庭でできる対応」 認知症の幻覚・妄想は、ご家族を最も追い詰める症状のひとつだと感じています。 :::box rose よくある訴えの例 「誰かが家にいる」 「財布を盗られた」 「虫が見える」 「あなたは家族じゃない」 ::: こうした言葉を突然向けられると、ご家族は深く傷つき、どう対応すればいいのか分からなくなってしまいます。 これは脳の誤作動であり、ご本人は「本当に見えている・聞こえている」ため、否定すると症状が悪化してしまいます。 :::box teal 医師からのひとこと 適切な治療と対応で、改善するケースは少なくありません。 ::: :brain: 幻覚・妄想の種類 :::box indigo 幻視(そこにいない人・虫・動物が見える) レビー小体型認知症で特に多くみられる症状です。 ::: :::box amber 被害妄想(盗られた・誰かが家にいる) アルツハイマー型で頻繁にみられます。 ::: :::box slate 誤認妄想(家族を他人と思う) 夕方〜夜に悪化しやすいという特徴があります(夕暮れ症候群)。 ::: :::box rose 幻聴(誰かに命令されているように聞こえる) 強い恐怖を伴うことが多く、生活に支障が出やすい症状です。 ::: :stethoscope: 医師が診断で見る「危険なサイン」 以下に当てはまる場合は、薬物治療を検討します。 暴力・暴言・徘徊があり、本人・家族の安全が脅かされている 幻覚・妄想が1日中続き、生活が成り立たなくなっている 「誰かに殺される」など、本人が強い恐怖を感じている 家族の介護負担が限界に達している(介護者のメンタルも治療判断の重要な要素です) ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1781231905503-eplnl5g1l5e.jpg) :check: よく使われる薬とその特徴 :::box green レキサルティ(ブレクスピプラゾール) 副作用が比較的少なく、興奮・暴言が強いケースで有効です。ふらつき・眠気が出ることがあります。「攻撃性+妄想」タイプに特に強い薬です。 ::: :::box blue リスパダール(リスペリドン) 幻覚・妄想に最もよく使われる薬です。即効性がある一方で、ふらつき・眠気などの副作用には注意が必要です。 ::: :::box indigo セロクエル(クエチアピン) 不眠+妄想に強く、夜間の症状に使われることが多い薬です。副作用として眠気が出やすい点には注意してください。 ::: :::box teal メマリー(メマンチン) アルツハイマー型の興奮・暴言・妄想を和らげます。コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト)と組み合わせることが多い薬です。 ::: :::box amber 抑肝散(よくかんさん) イライラ・怒りっぽさ・興奮に効果があります。幻覚そのものより"怒りの反応"を和らげる薬です。漢方と侮るなかれ、しっかり効きます。 ::: :::box rose アリセプト(ドネペジル)に注意 幻覚・妄想を"逆に"悪化させることがあります。特にレビー小体型では注意が必要です。 ::: :heart: 家庭でできる対応(今日からできます) 否定しない 「そんな人いないでしょ」と頭ごなしに否定すると、幻覚が悪化してしまいます。 家族:怖かったね。一緒に確認してみようね。 まずはご本人の言葉を受け止めてあげてください。妄想の背景には、多くの場合「不安」があります。 環境調整(光・影・鏡・テレビ) "影"は、しばしば幻視の原因になります。 :::box slate 環境チェックリスト 部屋を明るく保つ カーテンを閉める 鏡を隠す テレビの音量を下げる ::: 生活リズムの調整 昼夜逆転は、幻覚・妄想を悪化させる要因になります。 介護者が1人で抱えない ご家族のメンタルケアも、治療の一部だと考えてください。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1781231921305-ducrqyednno.jpg) :::box indigo 困ったら相談してください 症状の重さを一緒に整理します 受診すべきかどうかを判断します 家庭でできる対応を、より具体的にご提案します 家族のメンタルケアも含めて伴走します :::

認知症の昼夜逆転を治すには
📝 コラム2026年6月11日4

認知症の昼夜逆転を治すには

:brain: 認知症の昼夜逆転を治すには 医師が解説する「今日からできる3つの対策」 夜と昼が逆転してしまう「昼夜逆転」は、ご本人にとってもご家族にとっても、本当につらい問題です。放置すると介護負担が増えるだけでなく、ご家族の睡眠や健康にも悪影響が出てきます。 昼夜逆転が起きる医学的な理由 根本にあるのは、体内時計の乱れです。脳の視床下部にある体内時計は光刺激でリセットされますが、認知症になるとこの調節機能が弱くなってしまいます。さらに、認知症に伴う脳の変性や神経伝達物質の変化、薬の副作用、せん妄やうつなどが重なり合って、睡眠のリズムを崩していきます。 夕方になると不安や興奮が強まる「夕暮れ症候群」も、昼夜逆転を助長する一因です。 :alert: 家族が絶対にやってはいけない3つの対応 :::box rose 1. 無理に長時間寝かせようとする 無理に寝かせようとすると、かえって覚醒を強めてしまい、夜間の混乱を悪化させることがあります。急がば回れで、からだを少量のお白湯などで温めるのもひとつの方法です。 ::: :::box rose 2. 昼間に長時間寝かせてしまう 昼間に長く眠らせると、夜に眠れなくなってしまいます。日中は軽い活動や光に当たる時間を確保しましょう。 ::: :::box rose 3. 叱る・強く注意する 叱責は不安を強め、行動の悪化につながります。落ち着いた声かけと、環境を整えることのほうが効果的です。 ::: :check: 医師が推奨する3つの改善策 1. 朝の光を確保する 起床後は30分以上、できれば屋外で自然光を浴びることを習慣にしましょう。光は体内時計を強力にリセットしてくれます。室内でも窓際で朝食をとる、カーテンを開けるだけで効果があります。 2. 夕方から夜の刺激を減らす 夕方以降は強い照明・大きな音・興奮しやすい活動を避けましょう。テレビの明るさを落とし、静かな音楽や穏やかな会話に切り替えると、落ち着きやすくなります。また低GI食を心がけると血糖値の急降下を防げ、交感神経への刺激も抑えられます。 3. 生活リズムを固定化する 毎日同じ時間に起き、同じ時間に食事をとり、同じ時間に軽い運動をすることで、体内時計が安定していきます。昼寝は短め(20〜30分)に制限し、夕方以降は避けましょう。昼寝の前に緑茶や紅茶・コーヒーを飲むのも有効です。 :stethoscope: それでも改善しない場合のチェックポイント :::box amber せん妄の可能性 急な混乱や見当識障害がある場合は、せん妄を疑って早めに医療機関へ相談してください。 ::: :::box slate 薬の副作用 睡眠薬や向精神薬、利尿薬などが影響していることもあります。処方薬の見直しが必要かどうか、医師に相談してみてください。 ::: :::box blue うつや痛み、感染症 これらが睡眠を乱していることもあります。身体的な原因が隠れていないかも、あわせて確認しましょう。 ::: :heart: 家族が限界を感じたら 夜間の対応で疲れ切ってしまっているなら、早めに助けを求めることが一番の近道です。 :::box indigo 使えるサポート 訪問看護やショートステイ 夜間対応の介護サービス 認知症コネクトでのオンライン相談 ::: ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1781147958110-bkzfqmqtj3b.png)

フィクションであることを明らかにしていないフィクションに思うこと
📝 コラム2026年6月10日

フィクションであることを明らかにしていないフィクションに思うこと

認知症を感動的なストーリーの題材にして、「ぼくの考えた最強のお涙ちょうだいドラマ」に仕立て上げてしまうムーブが一定数あるように感じて、正直もやっとする。 「医学的にそんなことがあるだろうか」という違和感から始まり、いつしか感動的だったはずのストーリーが、あら探しの対象に変わっていく。安っぽいを通り越して、苛立ちすら覚えてしまう。そして「やはりこれは空想の物語だったのだ」と、複数の根拠をでっち上げては、勝手に決めつけてしまう。 ——本当は、そのストーリーが事実に基づいている可能性だってあるかもしれない。人間の記憶なんて曖昧で、いろんなことを美化したがるものだから。 それでも医師としては、やはり思ってしまう。よく調べもせずに実在する疾患を扱わないでほしい、と。せめて深く調べてからにしてほしい。現実の世界でその疾患と闘っている患者さんを、安っぽい大衆ドラマの道具として消費しないでほしいのだ。

施設入居を迷うご家族へ
📝 コラム2026年6月9日10

施設入居を迷うご家族へ

:heart: 施設入居を迷うご家族へ 医師として、そして多くのご家族を見送ってきた立場から、いまお伝えしたいこと :check: はじめに:迷うのは"当然"です 家族:もう限界かもしれない。でも施設に入れるのはかわいそう。 :::box slate こんな声をよく聞きます 「どのタイミングが正しいのか、誰も教えてくれない」 「医師やケアマネに相談しても"ケースバイケース"と言われてしまう」 ::: 認知症の介護では、在宅を続けるか施設に入居するかという選択は、ご家族にとって最も重いテーマのひとつだと感じています。 :alert: 医学的に"入居を検討すべき"サイン :::box rose 在宅介護の限界が近いサイン 誤嚥性肺炎を繰り返す(食事・水分摂取の安全確保が難しい) 夜間せん妄・昼夜逆転で家族が眠れない 暴言・暴力が増えている(本人も家族もケガのリスクが高い) 食事・水分の摂取量が大きく低下している(低栄養・脱水は命に関わります) 徘徊が頻回で24時間見守りが必要(在宅では現実的に対応しきれません) ::: :users: 家族が限界に近づいているサイン :::box amber 介護者のSOSサイン 慢性的な睡眠不足 仕事・育児との両立が破綻している 介護者がうつ状態・無気力になっている 家族内での衝突が増えている 「もう無理だ」と感じる回数が増えている ::: 介護は"気持ち"だけでは続けられません。家族が倒れてしまえば、在宅介護そのものが続けられなくなります。 :stethoscope: 施設の種類と費用の目安 :::stats 主な施設の種類と費用の目安 特養(特別養護老人ホーム)|10〜15万円/月|費用安め・重度向け グループホーム|15〜20万円/月|認知症専門・小規模 有料老人ホーム|20〜35万円/月|サービス幅広い ::: 老健(介護老人保健施設):リハビリ中心、在宅復帰が前提 サ高住(サービス付き高齢者向け住宅):自立〜軽度向け、医療対応は弱め 選び方の基本は「認知症の進行度 × 家族の状況」です。 ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1781021333237-3nvfex5srku.jpeg) :alert: 入居を急いだ方がいいケース :::box rose すぐに動くべきサイン 介護者が倒れた 本人が脱水・低栄養の状態にある 夜間の徘徊が止まらない 暴力で家族がケガをした 火の不始末・ガス事故のリスクがある ::: これは"見捨てる"ことではありません。命を守るための判断です。 :check: 入居までの流れ 1. ケアマネに相談 2. 施設見学(2〜3件で十分です) 3. 申し込み 4. 医師の診断書 5. 入居判定 6. 契約・入居 迷ったら、まずケアマネに連絡してみてください。動き出すと、状況は意外と早く整理されていきます。 :heart: 罪悪感を軽くするための視点 :::box indigo 医師から家族へ 入居は"見捨てる"選択ではなく、安全を守るための選択です 家族が倒れたら、在宅介護は続けられません 施設は"家族の代わりに24時間見守ってくれる場所"です 家族は"本人の人生の質を守る役割"に専念できます ::: あなたが悩んでいること自体が、大切に思っている何よりの証拠だと思います。 :::box teal 迷っているあなたへ 施設入居の判断は、家族だけで抱え込む必要はありません。医療・介護の視点から、あなたの状況に合わせて一緒に整理できます。まずは、いまの状況を聞かせてください。 :::

パーキンソン病とパーキンソン症候群の違いは?
📝 コラム2026年6月8日2

パーキンソン病とパーキンソン症候群の違いは?

:brain: パーキンソン症候群とは 似ているようで実は違う、「手足の動きにくさ」を起こす病気のグループ まず「症候群」と「病気」の違いから 「パーキンソン症候群」というのは、動作がゆっくりになることを中心に、手足のふるえや筋肉のこわばりなどが組み合わさって起こる症状の「総称(グループの名前)」です。 このグループのなかで最も患者数が多く(全体の7〜8割ほど)、原因もはっきりしているのが、よく知られているパーキンソン病になります。 :::box indigo 関係のイメージ 「パーキンソン症候群」という大きな箱のなかに、「パーキンソン病」という代表的な病気が入っている、とイメージするとわかりやすいと思います。 ::: ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1780993598608-5ew9ysvzwlx.png) :stethoscope: 見分けるための2つの大きなポイント パーキンソン病なのか、それとも似た別の病気なのか。この見分けで、私たち医師が主に注目しているのは次の2点です。 :::box blue ポイント① 薬がよく効くかどうか 「レボドパ(L-dopa)という薬がよく効くかどうか」で、大きく判断が分かれます。パーキンソン病はこの薬がしっかりと効き、進行も比較的ゆるやかです。一方、非典型パーキンソン症候群は薬が効きにくく、進行のスピードも速い傾向にあります。 ::: :::box amber ポイント② 赤信号サインがあるかどうか 次のような症状が発症から早い時期に出てきた場合は、パーキンソン病ではない可能性が高くなります。 十分な量の薬を使っても、動きがなかなかよくならない 発症から数年以内に、何度も転んでしまう(特に後ろ向きに転びやすい) 立ちくらみ(血圧の低下)や排尿の問題が、早い段階から強く出る 目を上下に動かしにくい(特に下を見る動きが苦手) 左右両側に、同時に、対称的に症状が出る ::: なかには、ふだん飲んでいる胃腸薬やうつ・吐き気止めが引き金になって、似た症状が出てしまうケースもあります。 :::box teal 受診の目安 気になる症状があるときは、脳神経内科への相談をおすすめします。 ::: ![](https://utavpvxtahdgsxbohnmc.supabase.co/storage/v1/object/public/diary-images/diary/1780993611193-ne5edtrrwf.png)