サービス担当者会議とは?家族の臨み方
会議の目的・参加者・家族が発言すべきポイントをやさしく解説。
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相談する伊藤浩之さん(58)が、妻・陽子さん(60)のサービス担当者会議に初めて出席したのは、陽子さんがレビー小体型認知症と診断されて要介護1の認定が出た直後のことだった。
平日の午後2時、伊藤家の居間には来客用の椅子をかき集めて、コの字型に7人分が並んだ。担当ケアマネジャーの中野さん、デイサービスの生活相談員・高木さん、訪問看護師の小林さん、福祉用具専門相談員の渡辺さん。次々に名刺を渡され、浩之さんは「こんなに大勢で自分の家のことを話し合うのか」と思わず気圧されてしまった。
中野さんが用意したケアプラン原案を読み上げ、「週2回のデイサービスと、月2回の訪問看護でいかがでしょうか」と一同に問いかけると、専門職たちは「いいと思います」「調整します」とテンポよく話を進めていく。浩之さんは何か言わなければと思いながらも、専門用語の応酬に気後れし、最後に「特にありません、よろしくお願いします」とだけ答えて会議は45分で終わった。
実はその前の週、夜中の2時に陽子さんが「知らない男の人が台所に立ってる、怖い、助けて」と怯えて浩之さんを揺り起こし、パジャマのまま玄関の鍵を開けようとしたことがあった。レビー小体型認知症特有の幻視だと後で分かったが、そのときは浩之さんもわけが分からず、震える陽子さんを抱きしめて「大丈夫、誰もいないよ」となだめるので精一杯だった。翌朝に陽子さん自身は、昨夜のことをほとんど覚えていなかった。会議の場でもそれを話していいものか分からず、「妻が覚えてもいない、今となっては落ち着いた話を専門職の前で話すのは告げ口のようで気が引ける」という思いもあって、結局口をつぐんでしまったのだ。プランはそのまま決定し、幻視への対応は誰の担当にもならなかった。
3週間後、同じことがまた起きた。今度は陽子さんが本当に玄関から出て、近所の生垣の前でしゃがみこんでいるところを浩之さんが見つけた。真冬の深夜、気温は氷点下、陽子さんは靴も履いておらず、素足のまま震えていた。「知らない人から逃げてきたの」と怯える陽子さんを抱きかかえて家に戻りながら、浩之さんは「あの会議で、ちゃんと話しておけばよかったのかも知れない」と自分を責めた。
転機になったのは、初回から1か月後のモニタリング会議の前に、中野さんからかかってきた一本の電話だった。「伊藤さん、次の会議までに、困っていることを3つでいいので、メモに書いてきてもらえますか。箇条書きで大丈夫です」。浩之さんはその晩、台所のテーブルでノートを広げ、日付と時間を添えて「1月8日 深夜2時、幻視で怯えて外に出ようとした」「デイサービスの日の朝だけ、行きたくないと強く拒否する」「入浴の介助中に急に怒り出すことがある」と書き出した。
2回目の会議で、浩之さんはそのメモを読み上げるように話した。「夜中に人が見えると怖がって、外に出てしまったことが2回あります。1回は真冬の夜に裸足で外に出ていました」。声が少し震えたが、最後まで話し切った。中野さんが「それは危険ですね、具体的にはどんな時間帯が多いですか」と身を乗り出し、訪問看護師の小林さんが「幻視が出る時間帯が分かれば、就寝前の関わり方を看護師からも工夫してみます」と応じた。福祉用具の渡辺さんからは、玄関のセンサーライトと補助錠の提案があった。デイサービスの高木さんからも「朝、行きたくないと言われたときの声かけを、少し変えてみましょうか。無理に急かさず、5分だけゆっくり話す時間を作ってみます」という具体的な提案が出た。会議は1時間近くに及び、浩之さんは前回とは違って「この会議は自分達が困っていることを解決するためにあるんだ」と実感した。
数か月後、伊藤家の玄関にはセンサーライトが付き、訪問看護は幻視が出やすい夕方の時間帯に合わせて訪問回数が調整された。夜中に陽子さんが不安がるときの声のかけ方も、小林さんから具体的に教わった。浩之さんは今でも会議の前夜には必ずメモを書く。「言わなきゃ伝わらない。当たり前のことなんですけどね」と、少し照れくさそうに話しながら。
サービス担当者会議で家族が押さえておきたいポイント
1. 会議は「決定を聞く場」ではなく「作る場」だと理解する
ケアプラン原案はあくまで叩き台であり、家族が意見を言わなければそのまま決定されてしまう。伊藤さんの初回会議のように「特にありません」で終わらせず、疑問や不安はその場で相談しましょう。
2. 困りごとは日付・時間帯つきの具体例で伝える
「夜に落ち着かない」ではなく「1月8日深夜2時に幻視で怯えて外に出ようとした」のように、いつ・何が起きたかを具体的に話すことで、専門職はお互いの時間帯に合わせて原因や対策を考えやすくなります。
3. 事前にメモを3つ程度用意しておく
会議の場で急に思い出すのは難しい。中野さんが浩之さんに勧めたように、会議前日までに困りごとを3つ、箇条書きでメモしておくと発言しやすくなる。
4. 各専門職の役割を意識して質問を振り分ける
夜間の様子は訪問看護師に、通所時の様子はデイサービスの相談員に、住環境の不安は福祉用具専門相談員に、というように、聞きたいことを担当者ごとに整理しておくと会議が実りあるものになる。
5. 決まったことは「誰が」「いつから」担当するのかまで確認する
伊藤さんの例では、幻視への対応が訪問看護、送迎時の声かけがデイサービス、住環境整備が福祉用具担当と役割分担された。「では来週から」「次回の訪問時に説明します」というように、いつから始まるのかまで確認しておくと、後から「まだ何も変わっていない」と戸惑わずに済む。
6. 会議は一度きりではなく、モニタリングのたびに更新される
初回でうまく話せなくても、次のモニタリング会議で状況の変化を伝え直せばよい。伊藤さんも2回目の会議でようやく本音を話せたように、会議は繰り返し調整していくものだと考えると気が楽になる。
サービス担当者会議でよくある失敗パターン
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専門職の勢いに押されて「特にありません」で終える
伊藤さんが初回にそうだったように、次々と話が進む中で発言のタイミングを逃し、結局何も伝えられないまま会議が終わってしまうことは非常に多い。
恥ずかしさや遠慮から症状を伏せる
幻視や暴言、失禁といった症状は「言いにくい」と感じがちだが、隠すほど適切なサービスにつながりにくくなる。専門職はそうした話を聞き慣れているので、遠慮する必要はない。
「いつものこと」だからと省いてしまう
毎日くり返される困りごとほど「わざわざ言うことでもない」と思いがちだが、頻繁に起きていることこそケアプランの見直しに直結する重要な情報である。
会議後に「結局誰が何をしてくれるのか」があいまいなまま終わる
役割分担を確認しないまま会議が終わると、後になって「訪問看護に相談すればよかったのに知らなかった」という行き違いが起きやすい。
代理出席や電話参加で、聞くだけになってしまう
仕事などでやむを得ず短時間の参加になる場合でも、事前にメモを渡す、電話で一言でも困りごとを伝えるなど、受け身にならない工夫が必要になる。
専門用語が分からず、聞き返せないまま流してしまう
浩之さんも初回の会議では「短期目標」「区分支給限度基準額」といった言葉の意味が分からず戸惑ったが、聞き返さずに流してしまった。分からない言葉が出てきたら、その場で「それはどういう意味ですか」と聞いて構わない。
サービス担当者会議に臨む前のチェックリスト
伊藤さん夫婦の暮らしは、あの深夜の出来事から半年ほどかけて、少しずつ落ち着きを取り戻していった。浩之さんは今も会議の前夜にノートを開き、その週にあった出来事を書き出す習慣を続けている。「専門家に任せきりにするんじゃなくて、一緒にプランを作っていく場なんだと分かってからは、会議が怖くなくなりました」。そう話す浩之さんの表情には、初回の会議のときにはなかった落ち着きがあった。
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