遠距離介護でケアマネと連携する方法
離れて暮らす家族が情報共有と意思決定を行う段取り。
ケアマネとの情報共有に医師の所見が役立ちます。認知症を専門とする医師が48時間以内に回答します。初回500円。
相談する小林奏太は仙台の実家で独り暮らしを続ける母、寿子と、月に一度、電話で近況を話す程度の関わりしか持てずにいた。東京でシステムエンジニアとして働き、平日は深夜まで会議が続く日々だ。新幹線で片道二時間半とはいえ、頻繁には帰れない。母がアルツハイマー型認知症と診断されたのは二年前。「まだ大丈夫、一人でやっていける」という母の言葉を信じ、介護保険の申請とケアマネジャー選定だけを済ませて、あとはほとんどお任せにしていた。担当者会議の案内が届いても「特に変わりないですよね」と電話で確認して終わりにするのが常で、実際に会議へ出席したことは一度もなかった。
異変に気づいたのは、ケアマネジャーの佐藤真理子さんからの着信を三度も見逃した夜のことだった。夜十一時、もしかしたら明日の方が良いかもな、そう思いながらようやく折り返すと、佐藤さんはすぐに出てこう言った。「奏太さん、寿子さん、先週から訪問介護の日を何度も忘れてしまって、ヘルパーさんが訪ねても鍵を開けてもらえないことが続いています。それと、冷蔵庫の中に同じ食材が十個近く溜まっていました」。奏太は言葉を失った。担当者会議の案内メールも届いていたはずだが、仕事のメールに埋もれて開いてすらいなかった。「すみません……正直、母の認知症がそこまで進んでいるとは思っていませんでした。電話では、いつも通り元気そうに話していたので」。佐藤さんは静かに続けた。「電話だと、寿子さんも身構えて『大丈夫よ』としか言わないことが多いんです。実際の様子は、訪問した私たちの方が詳しく分かっているかも知れません」。
次の週末、会社に無理を言って半休を取り、佐藤さんとオンラインで面談する時間を作った。「電話だと、良いことも悪いことも同じ数分で終わってしまって、結局印象に残った話しか覚えていなかったんです。今日まで担当者会議も『特に問題ないですよね』の一言で済ませていました」と正直に伝えると、佐藤さんは「こちらこそ、平日の夜にお電話してすみませんでした。実は同じ状況のご家族はとても多いんです。でも遠くにいても、情報の共有の仕方を工夫すれば十分に連携できます」と、具体的な提案をいくつも出してくれた。
奏太はその提案をひとつずつ実行に移した。まず、ケアマネと家族専用のLINEグループを作り、訪問介護やデイサービスでの様子を写真つきで共有してもらうようにした。担当者会議は仕事の合間にビデオ通話で参加し、議題は前日までに佐藤さんから箇条書きで送ってもらう形に変えた。緊急時の連絡ルールも「まず佐藤さんの携帯、つながらなければ事業所の代表番号、それでも無理なら近所に住む叔母」と順番を決め、家族LINEにピン留めした。それまでは、東京と静岡に住む妹二人がそれぞれ別々にケアマネへ連絡していたため、佐藤さんも誰にどこまで伝えたかを把握しきれず、同じ説明を三度繰り返させてしまっていたことも、このとき初めて知った。
三か月後、母の物忘れがさらに進んでしまったのか、玄関の鍵を紛失しかけることが何度となく報告された際も、LINEグループでの相談からわずか二日で暗証番号式の鍵を設置してみようと決まり、大きな混乱なく乗り切ることができた。以前の奏太なら、帰省して初めて異変に気づき、そこから対応を考え始めていただろう。「佐藤さんには感謝の気持ちしかありません」と奏太は振り返る。
遠距離でもケアマネと連携し続けるための実践ポイント
記録が残る連絡手段を電話と併用する
電話だけに頼らず、LINEやメールなど文字と写真で残る手段を決めておくと、後から見返せて家族間の共有もしやすい。奏太が佐藤さんと作った家族専用LINEグループは、訪問時の様子を写真つきで送ってもらう場として今も機能している。やはり文章で説明されるだけではなく画像が見られると状況がはっきり把握しやすい。
担当者会議はビデオ通話での参加を前提にする
帰省のたびに休暇を使う必要はなく、事前に議題を箇条書きでもらっておくなどして、限られた時間でも要点を逃さず話し合える。奏太は会議の三十分だけ会社のカレンダーを非公開の予定でブロックし、継続的に担当者会議に参加している。
緊急連絡の優先順位をあらかじめ家族で共有しておく
「まずケアマネ、次に事業所、最後に近所の親族」のように順番を決め、誰が見ても分かる形で書き出しておくと、いざという時に迷わず動ける。順番を決めていなかった頃は、誰に連絡して、誰が担当す00べきか家族間で押し付け合いになることもあった。
帰省時に確認する項目をリスト化しておく
冷蔵庫の中身、薬の残数、郵便物の滞留、体重の変化など、短時間の訪問でも見落としを防げるチェック項目をスマートフォンにメモしておくと、限られた滞在時間を有効に使える。奏太は帰省前に佐藤さんへ「今回確認しておいた方がいいことはありますか」と一言送るようにしてから、滞在の使い方が格段に効率的になった。
きょうだいや親族との役割分担を明確にする
金銭管理は誰が、医療機関への同行は誰がと決めておくことで、ケアマネからの連絡が特定の一人に集中しすぎるのを防げる。奏太の場合は、静岡に住む妹が書類関係、東京在住のもう一人の妹が薬の管理確認、奏太自身が緊急対応の窓口という三人での分担にしてから、負担の偏りがぐっと減った。窓口を一本化したことで、佐藤さんも「まず奏太さんに連絡すればいい」と迷わずに済むようになったという。
年に数回は実際に訪問し、五感で状態を確認する
報告書や写真だけでは分からない部屋の匂いや母本人の声の張り、表情の変化に気づけるのは、やはり直接会ったときだ。オンラインでの連携が充実するほど、実際に足を運ぶ時間の質も上がっていく。
よくある失敗パターン
この記事についてもっと詳しく知りたい方へ
記事の内容についての疑問や、ご自身・ご家族の状況に合わせた相談を、認知症を専門とする医師に直接お聞きいただけます。
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本人の「大丈夫」という言葉をそのまま信じてしまう
認知症の本人は自分の困りごとを正確に説明できないことが多く、電話越しの「大丈夫よ」を鵜呑みにすると、冷蔵庫の中身や鍵の管理といった実際の異変の発見が遅れてしまう。
緊急連絡先や鍵の管理方法を更新しないまま放置する
電話番号の変更や引っ越し、鍵の交換があっても伝え忘れ、いざという時に連絡が取れない、家に入れないというケースは少なくない。
ケアマネからの連絡を後回しにしてしまう
仕事優先で折り返しを先延ばしにするうちに、状態悪化のサインを見逃し、対応が後手に回ってしまうことがある。
きょうだい間で連絡窓口を決めず、ケアマネに個別に連絡してしまう
帰省のたびに一からケアマネに事情を説明させてしまう
直近の経過を共有する仕組みがないと、限られた面会時間や会議の時間が状況説明だけで終わってしまい、本来話すべき今後の方針の議論に至らない。
また誰がいつ何を伝えたか分からなくなり、ケアマネ側が同じ説明を何度も求められたり、家族間の意見の食い違いに巻き込まれたりする原因になる。
遠距離介護チェックリスト
半年が経ち、奏太は月に一度の電話に加え、LINEグループでの短いやり取りを毎週欠かさないようにしている。先日の帰省では、母が「奏太、ヘルパーさんとよく写真とってるの、見てる?」と笑って話しかけてきて、遠く離れていても母の日常に加われている実感が持てたという。妹たちとも役割分担を決めてからは、誰が何をケアマネに伝えたか分からなくなる混乱もなくなった。ケアマネとの連携は、離れて暮らす家族にとって、安心して見守り続けるための生命線だと、奏太は強く感じている。
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