急な入院・容態悪化時のケアマネ連絡術
緊急時に何を・どの順で連絡するかと、日頃の備え。
ケアマネとの情報共有に医師の所見が役立ちます。認知症を専門とする医師が48時間以内に回答します。初回¥500〜。
相談する中野智子がその電話を受けたのは、夜十一時を過ぎた頃だった。スーパーのパート勤務を終えて風呂上がりにテレビを見ていたところに、義母の様子を見に行った夫から着信が入った。「母さんがトイレの前で倒れてる」。それだけ言うと夫は電話を切ってしまい、智子は数秒、リモコンを持ったまま動けなかった。
駆けつけると、二世帯住宅に同居する義母・中野文枝(82歳、要介護2、アルツハイマー型認知症)は右足を抱えて廊下にうずくまり、「痛い、痛い、、、」と繰り返していた。119番に電話をかけたはいいものの、いざ聞かれると自宅の番地すらとっさに出てこず、指令員に「落ち着いて、まず深呼吸をしてみましょう」と言われるほどだった。救急隊が来るまでの十数分が、体感では一時間ほどに感じられた。
搬送先の病院では大腿骨頸部骨折の疑いと診断され、手術が必要との説明を受けた。ただし、その日のうちには手術室の都合もあり、実際に手術が行われたのは三日後だった。手術自体は無事に終わったが、その晩から文枝は点滴の管を何度も引き抜こうとし、「ここはどこ」「早く家に帰らないと」と大きな声を出すようになった。看護師からは「高齢の方の術後にはよくあることです。せん妄という一時的な混乱状態で、数日から一週間ほどで落ち着くことが多いです」と説明されたが、智子にとっては初めて聞く言葉で、認知症が進んだわけではないと説明されても安心ができなかった。
問題はもう一つあった。手術が終わってほっとしたら漸く初めて「ケアマネさんに連絡しなきゃ」と気付いたが、智子は自分のスマホに担当ケアマネジャーの番号を登録していなかった。冷蔵庫に貼ってあったはずの事業所の連絡先一覧は、去年リビングのリフォームをした時にどこかに紛れてしまっていたが、そもそも緊急番号を使うつもりも無かったので、そのうち機会があればまたお願いしようと思っていた。結局は事業所の代表番号へ電話し、担当の高橋さんにつないでもらった。
高橋さんは少し困ったような声で「実は今日、文枝さんのショートステイのお迎えが来る予定だったんです」と言った。デイサービスも無断キャンセルの扱いとなり、後日あらためて事情を説明しに行く羽目になった。デイサービス側からは「骨折した当日は難しくとも、せめて前日までにご連絡いただけると、、、」とやんわり言われ、智子は返す言葉がなかった。
退院の話が出たときも、智子は病院からの説明だけを頼りにそのまま義母を連れて帰るつもりでいた。しかし高橋さんから「退院前カンファレンスに私も同席させてください。手すりの追加や福祉用具の調整、退院当日のヘルパー手配などが必要になることが多いので」と言われ、そうした準備が要ることを初めて認識した。あわせて、入院先の医療ソーシャルワーカーと高橋さんが「入院時情報提供書」という書式をやり取りし、入院前の生活状況やケアプランの内容が病院側にも共有されていたことも、退院間際になって智子は知った。
退院前カンファレンスの結果、住宅改修(手すりの追加)と歩行器のレンタル手配が整い、文枝は転倒することなく自宅での生活に戻った。ただし、以前のようにひとりでトイレまで歩けるわけではなくなり、リハビリを続けながら室内は歩行器、外出時は車椅子という生活に変わった。高橋さんからは「体力的な状態が変わったので、区分変更の申請も検討しましょう」と言われ、智子は要介護認定の再申請にも向き合うことになった。
この経験に反省して、智子はA4用紙一枚に「緊急連絡カード」を作った。ケアマネジャーの名前と事業所名、携帯・固定電話番号、文枝の要介護度、服薬情報、かかりつけ医の名前などを書き込み、財布とスマホケースの内側、冷蔵庫の見える位置の三か所に貼った。
数か月後、文枝が発熱で救急搬送されたときは、救急車を見送った直後の車内から高橋さんに一報を入れることができた。「デイの利用調整は、こちらで進めておきますね」とすぐに対応してもらえたのは確かに助かったが、退院するときはショートステイの空きがちょうど埋まっていて、退院後数日は智子が仕事を調整して自分で文枝をみる形になった。とはいえ、あの夜のような「誰にも情報を伝えることなく全方向に迷惑をかける」という致命的な行き違いは、少なくとも回避することができた。「やっぱり用意しておくことは大切なのね」と智子は「緊急連絡カード」を眺めながらふーっと息を吐いた。
急な入院・容態悪化時に押さえたい連絡のコツ
まず救急対応、連絡はその直後でいい
救急要請や応急手当が最優先であることに変わりはない。ただし「落ち着いてから」ではなく、救急車を見送った直後や病院の待合室など、少し手が空いた最初のタイミングでケアマネジャーに一報を入れる習慣をつけておくと、サービス調整の初動が大きく変わります。実際には当日中に連絡できないこともあるが、その場合も「翌朝一番」を目安にしておくと後手に回りにくい。
伝えるべきは「何が・どこで・今どうなっているか」
発生状況、搬送先の病院名など現在の状況をしっかり伝えれば、ケアマネジャーは事業所への連絡やサービス停止手続きをその場で動かしてくれる。
緊急連絡カードを複数箇所に置く
ケアマネジャーの名前・事業所名・電話番号を記した紙を財布、スマホケース、冷蔵庫など見える場所に複数用意しておく。スマホで十分かと思いきや、肝心な時に限って故障・充電切れや紛失、あるいは混乱して操作に戸惑うなんてことも。アナログ的に情報にたどり着けるようにもしておこう。
入院中のサービス停止・再開はケアマネジャー経由で
デイサービスやショートステイは無断キャンセルになると事業所側に迷惑がかかり、後日の説明にも手間がかかる。入院の一報さえ入れば、こうした調整はケアマネジャーが代行してくれる領域である。
入院時情報提供書の存在を知っておく
ケアマネジャーは病院側と「入院時情報提供書」と呼ばれる書式でこれまでの生活状況やケアプランを共有できる。家族が細かく説明しなくても、医療者側にある程度の背景情報が伝わる仕組みがあることを知っておくと、入院直後の混乱時に安心材料になる。
退院前カンファレンスへの同席を依頼する
退院時は住環境の見直しや福祉用具の手配、退院当日のヘルパー調整など、在宅生活再開に必要な準備が発生しやすい。病院の医療相談員だけでなく、ケアマネジャーにも早めに退院時期を伝え、カンファレンスへの参加を依頼したい。
入院・手術後は「要介護度が変わりうる」ことも視野に入れる
骨折などをきっかけに体力やADLが低下し、入院前と同じ要介護度では生活が回らなくなることがある。退院後の様子を見て、区分変更申請が必要かどうかケアマネジャーに相談しておくと、必要な支援が遅れずに済む。
家族内の連絡窓口を一本化しておく
誰がケアマネジャーへの主連絡担当かを事前に決めておくと、複数の親族からバラバラの情報が伝わる混乱を防げる。
よくある失敗パターン
この記事についてもっと詳しく知りたい方へ
記事の内容についての疑問や、ご自身・ご家族の状況に合わせた相談を、認知症を専門とする医師に直接お聞きいただけます。
初回500円・48時間以内に医師が回答
「落ち着いてから連絡すればいい」と先延ばしにする
気付けばうっかりと連絡をせずに過ごしてしまい、予定されていたサービスが無断キャンセル扱いになってしまうなど、後始末の手間が増えてしまう。
ケアマネジャーの連絡先をスマホにしか保存していない
上記のケースでは何とスマホにも番号を保存していなかったが(!)、いざスマホに保存してあっても、スマホの故障や充電切れ、あるいは慌てて自宅に忘れるといった事態で、肝心なときに連絡先そのものにたどり着けなくなってしまうことが。
家族それぞれが個別にケアマネジャーへ連絡し、情報が食い違う
搬送先の病院名や本人の状態について複数の情報が重なって報告されると、まさに今、電話連絡や調整などあちらこちらに奔走しているケアマネジャーの対応にブレーキをかけてしまうことに。
退院日をケアマネジャーに知らせないまま自己判断で自宅に戻す
手すりや福祉用具の手配が間に合わず、退院直後に再び転倒や体調悪化を招くケースが少なくない。
入院中のサービス利用状況を放置する
ショートステイやデイサービスの予約がそのまま残り、キャンセル料や事業所とのトラブルにつながることがある。
退院後の状態変化を「元に戻るはず」と思い込む
骨折や手術、せん妄などをきっかけに、入院前より介助が必要になるケースは珍しくない。以前と同じ前提でサービス量を組むと、家族の負担が急に増えることがある。
緊急時 ケアマネ連絡チェックリスト
ケアマネジャーの氏名・事業所名・電話番号を財布とスマホの両方に保存しておくと安心
冷蔵庫など家族の目に留まる場所にも緊急連絡先を掲示しておこう
救急搬送後、遅くとも翌朝までには一報を入れる段取りを家族間で共有しておくと良い
伝える内容(発生状況・搬送先など)を紙にまとめておくのも良し。
退院時期が決まったら早めにケアマネジャーへ連絡し、カンファレンス同席を依頼しましょう
退院後にADLや要介護度が変わりうることを想定し、区分変更の要否を相談しておく
文枝は骨折からのリハビリを経て、今は歩行器を使いながら智子たちと暮らしている。以前のようにひとりで動き回れるわけではないが、それも含めて今の暮らし方だと智子は感じている。あの夜の混乱を経験してから、智子はケアマネジャーを「例えどんな変化でも、まず一報を入れる人」に変わった。緊急連絡カードは今日も財布の中にあり、次に何が起きても、少なくとも「誰に連絡して良いのかわかRらない」という最悪の事態だけは避けられるはずだ。
この記事についてもっと詳しく知りたい方へ
記事の内容についての疑問や、ご自身・ご家族の状況に合わせた相談を、認知症を専門とする医師に直接お聞きいただけます。
初回500円・48時間以内に医師が回答
コメント
まだコメントはありません。最初のコメントを投稿しましょう。