認知症の幻視——「テレビの中の人が家にいる」と怖がる母への対応
レビー小体型認知症の幻視は、テレビの映像そのものが引き金になることがあります。視聴を禁止すべきか悩んだ家族の体験と、生活の楽しみを奪わない工夫を解説します。
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福岡県に住む佐藤直樹さん(45歳)は、母のハツさん(80歳、レビー小体型認知症、要介護2)と同居している。ハツさんの一番の楽しみは、夕方に放送される時代劇を見ることだった。ところがある日、画面を見ていたハツさんが突然「侍が部屋に入ってきた」と怯え、隣の部屋に逃げ込んでしまいました。
直樹さんは最初、「テレビを見せなければ安全だろう」と考え、ハツさんが楽しみにしていたテレビ視聴の時間をす取り止めてしまいましたが、ハツさんは日中の楽しみを失ったためか、ふさぎ込んで過ごす時間が増えていきました。表情が乏しくなった母を見て、直樹さんも「これで本当に良かったのか」と罪悪感を抱くようになります。
かかりつけ医に相談すると、こんな説明を受けた。「レビー小体型認知症では、視覚情報を処理する脳の働きに変化があり、テレビの映像そのものを“現実”と混同しやすくなることがあります。ただ、テレビを一律に禁止する必要はなく、見る時間帯や番組、部屋の環境を工夫することで軽減できる場合が多いですよ」。
直樹さんは、動きの激しい場面や暗い場面の多い時代劇を避け、明るい歌番組や自然番組を中心に見せるようにしてみました。あわせて部屋の照明を明るく保ち、テレビと椅子の距離を離して画面が大きく迫って見えないよう配置も工夫してみました。すると数週間後、ハツさんは再びテレビの前で穏やかに過ごせるようになり、「怖い侍」なと幻視の訴えもめったに無くなりました。
なぜテレビの映像が幻視の引き金になるのか
視覚野の機能変化 → レビー小体型認知症では動く映像や複雑な画像を「現実」と誤認しやすくなることが知られています。
映像の内容が誤認を左右する → 暗い場面・激しい動き・大きな音を伴う映像は、特に誤認を招きやすい傾向があります。
部屋の明るさとの組み合わせ → 部屋が暗く、テレビの光だけが際立つ環境も、誤認を助長しやすくなります。
テレビをこれからも楽しめる工夫
動きが激しい・暗い場面の多い番組を避ける → 明るく落ち着いたトーンの番組を優先的に選んでみましょう。
部屋の照明を明るく保つ → テレビの光だけが強調されないよう、部屋全体の明るさを確保します。
視聴距離・角度を工夫する → テレビとの距離を離し、画面が大きく迫って見えないよう配置を見直します。
幻視が出た番組・時間帯を記録する → どんな内容・時間帯に幻視が出やすいか記録しておくと、番組選びの参考になるかも知れません。
よくある失敗パターン
「安全のため」とテレビ視聴を一律に禁止してしまう → 本人の生活の楽しみを奪い、気分の落ち込みにつながることがあります(レビー小体病では特に気分の落ち込みが見られることがあります)。
「テレビの中の人でしょ」と説明・説得しようとする → 本人には現実の体験であり、説得はかえって混乱や不信感を招くことがあります。
一度の失敗で「もう見せられない」と諦めてしまう → 番組や環境を変える工夫を試す前に選択肢そのものを手放してしまうのはもったいないかも知れません。
テレビの幻視への対応チェックリスト
直樹さんは「テレビを取り上げることが正解だと思い込んでいたけれど、工夫次第で母の楽しみを守れると知れて良かった」と振り返る。今では母子で一緒に明るい歌番組を見る時間が、以前より穏やかなひとときになっているという。
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[1]: McKeith IG, et al. "Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies" (Neurology, 2017) — レビー小体型認知症の視覚処理の変化について
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