認知症とせん妄——一人暮らしの母が深夜に110番通報したときの話
一人暮らしの母が脱水由来のせん妄で「知らない男がいる」と警察に通報。遠方の家族が知らないところで起きた混乱と、一人暮らし特有のリスクへの備えを、実際の体験から解説します。
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埼玉県で働く鈴木涼子さん(48歳)のスマートフォンが鳴ったのは、真夜中の2時を過ぎた頃だった。こんな時間に何だろう、良くない胸騒ぎを覚えて恐る恐る電話を取ってみると、電話の向こうの警察官は栃木県警を名乗り、落ち着いた声でこう言った。「お母様の文枝さんから、玄関に知らない男が立っているという通報がありました。今、救急隊と一緒にご自宅にいます」。
母の鈴木文枝さん(82歳、アルツハイマー型認知症、要介護1)は、栃木県の実家で一人暮らしを続けていた。もの忘れはあっても身の回りのことは自分でこなせており、涼子さんは月に一度の帰省と、週末の電話で様子を確認するだけで十分だと思っていた。
その夜、猛暑が続いた後の熱帯夜、文枝さんは水分をほとんど摂らないまま眠りについていた。深夜、突然「玄関に誰か立っている」という強い不安に襲われ、震える手で110番した。駆けつけた警察官が家の中を確認しても不審者はいない。しかし文枝さんの受け答えはどこかちぐはぐで、呂律も怪しかった。不審者対応から一転、警察官はただちに救急要請に切り替えた。
涼子さんは電話を切った後、「母がおかしくなった」「もう一人暮らしは無理かもしれない」という焦りと、「近所に迷惑をかけてしまったのでは」という恥ずかしさや不安感やらで頭がいっぱいになった。だが翌朝、病院に駆けつけた涼子さんに医師はこう説明した。「脱水によるせん妄です。点滴で数日以内に良くなりますよ。認知症そのものが急に進行したわけではありません」。
実際、文枝さんは2日間の点滴治療でせん妄症状が消え、110番通報の記憶自体をほとんど覚えていなかった。涼子さんは「熱中症でまさかせん妄になるなんて思っておらず、もし『認知症が進んだ』と決めつけて施設探しを急いでいたら、ともすれば生命の危機だったかも知れなかった」と安心すると同時に「母の一人暮らしという選択肢について考えていく良い機会になった」と振り返る。
なぜ一人暮らしだとせん妄が見逃されやすいのか
変化に気づく人がそばにいない → 食事量や水分摂取の減少といった初期のサインは、仮に同居している家族なら気づけても、一人暮らしでは発見が遅れがちです。
発覚のきっかけが「非日常的な経路」になりやすい → 家庭内で気づかれるのではなく、今回のように警察・救急という形で初めて事態が判明することがあります。
近隣との関係が薄いと誤解を受けやすい → 事情を知らない近隣住民や関係機関からは「困った・危ない高齢者」という見え方をされてしまうリスクもあります。
一人暮らしの家族ができる備え
訪問頻度や見守り手段を増やす → 定期訪問に加え、電話・センサー・見守りサービスなど複数の手段を組み合わせておくと変化に気づきやすくなります。
最寄りの交番・地域包括支援センターに事前に伝えておく → 「一人暮らしの高齢の家族がいる」と知られているだけで、いざというときの対応が変わります。
水分摂取を見守れる仕組みを作る → 高齢者で良く起こる熱中症対策。電話でのこまめな声かけや、見守りアプリのリマインド機能などを活用し、脱水を未然に防ぎましょう。
緊急連絡先を分かりやすい場所に掲示する → 電話のそばや冷蔵庫など、本人だけでなく駆けつけた第三者にも分かる場所に貼っておくと、有事の連絡がスムーズです。
よくある失敗パターン
「様子がおかしい=認知症が進行した」と即断してしまう → せん妄の可能性を考えず、施設入所などの決断を急いでしまうなど優先順位を間違えると取り返しがつかない事になる可能性が。
警察対応を恥ずかしいことと捉え、詳しい事情を共有しないで抱え込む → 誤解が解けないまま「困った高齢者」という印象だけが残ってしまいます。自分ひとりの限界はたかが知れているので、周囲の協力は頼りにしたいところ。
通報や搬送の経緯を関係者で共有しましょう → 次に同じようなことが起きたとき、また一から事情を説明することになります。対応が後手に回らないようにしたい。
一人暮らしの家族が備えておきたいチェックリスト
涼子さんはあの夜をきっかけに、月1回の帰省に加えて週2回の電話、そして見守りセンサーを実家に導入した。「あの夜のことがなければ、母の一人暮らしのリスクにここまで真剣に向き合わなかったと思う」と涼子さんは話す。文枝さんは今も住み慣れた実家で一人暮らしを続けている。
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その様子、せん妄かもしれません
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[1]: 日本老年医学会「高齢者せん妄ケアガイドライン」より
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