BPSD症状医師査読済 · 2026年7月公開 2026年7月22日

認知症の易怒性——なぜ「長男の嫁」にだけ強く当たるのか

同居する家族の中でも、特定の一人にだけ強い易怒性・拒絶が向けられることがあります。長男の嫁という立場で10年間介護を担った家族の体験と、その背景にある心理を解説します。


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静岡県に住む吉田由美さん(52歳)は、夫の母・トキさん(83歳、血管性認知症、要介護3)と10年前から同居し、食事から入浴まで介護の中心を担ってきました。しかしここ数年、トキさんは夫や孫には比較的穏やかに接するのに、由美さんに対してだけ「あんた誰、勝手に家に入るな」「出て行け」と強く拒絶し、時には物を投げつけることもありました。


由美さんは、最も長く、最も近くでトキさんを支えてきたはずの自分にだけ厳しく当たられることに深く傷ついていました。「私が何か悪いことをしたのだろうか」「嫌われているのだろうか」と、夜中に一人で考え込む日が続きました。夫に相談しても「母さんがそんなことをするはずない、何かお前が母さんを不愉快な気持ちにさせているんじゃないか?」と取り合ってもらえず、孤立感はさらに深まるばかり。


見かねたケアマネジャーが医師との面談を勧めてくれまし。医師の説明はこうだった。「毎日長時間接する介護者ほど、些細な変化や本人の疲労のサインに接する機会が多く、感情のはけ口になりやすいことが知られています。また、人物誤認によって“よその人”と認識され、警戒心が強まっている可能性もあります」。実際、トキさんは由美さんを、若い頃に近所に住んでいた「知らない女性」と混同している様子が見られた。


その説明を聞いて、由美さんは初めて「自分の対応が悪いから拒絶されているわけではない」と思えるようになった。そこから、介護の一部を訪問介護やデイサービスに任せる時間を増やし、トキさんと顔を合わせる時間そのものを意識的に減らす工夫を始めた。また、トキさんが由美さんを拒絶したときは無理に説明しようとせず、いったん夫や他の家族に対応を代わってもらうようにしたのです。


なぜ特定の一人にだけ強く出るのか


接触時間が長いほど感情のはけ口になりやすい → 介護の中心を担う人ほど、本人の疲労や不快感のサインに接する機会が多く、感情が向けられやすい傾向があります。


人物誤認により警戒心が強まる → 見知らぬ人と認識されることで、拒絶や攻撃性が強く出ることがあります。


気を使わなくてよい相手ほど感情が出やすい面もある → 立場上の遠慮が少ない相手には、感情のコントロールがより難しくなることがあります。


「一番身近な人ほど強く当たられる」不条理への向き合い方


自分の対応が悪いからではないと知ることが出発点 → 背景にある要因を理解することで、自分を責める気持ちが軽くなります。


接触時間や役割を家族内で見直す → 一人に負担と攻撃が集中しない体制を、家族内で意識的に作ることが大切です。


対応を一人で背負わず、交代できる仕組みを作る → 拒絶されたときに代わってもらえる人を、あらかじめ決めておきます。


実際に効果のあった工夫


デイサービス・訪問介護で接触時間を意識的に分散させる → 由美さんとトキさんが顔を合わせる時間を減らすことで、衝突の頻度が下がりました。


拒絶されたときは無理に対応を続けず、他の家族に交代する → その場を離れることで、双方の感情がエスカレートするのを防げます。


名前や写真を使った見当識サポートを試す → 「私は由美です」と名乗る、写真付きの札を活用するなど、誤認を減らす工夫も効果があります。


よくある失敗パターン


「自分の対応が悪いから」と一人で抱え込む → 我慢を続けることで心身が疲弊し、対応の余力そのものが失われます。


家庭内だけで解決しようとし、誰にも相談しない → 孤立感が深まり、状況を客観的に見る視点を失いやすくなります。


拒絶されるたびに感情的に言い返す → お互いの感情がぶつかり合い、関係がさらに悪化しやすくなります。


特定の家族にだけ強く出る易怒性への対応チェックリスト

  • 自分を責める前に、人物誤認や接触時間の偏りなど背景要因を考えてみる
  • 介護の役割・接触時間を家族内やサービスで分散させる
  • 拒絶されたときの「交代要員」を家族内で決めておく
  • 名前や写真を使った見当識サポートを試してみる
  • つらさを一人で抱えず、ケアマネジャーや医師に相談する

  • 由美さんは「自分が嫌われているわけじゃないと分かってから、少し心が軽くなった」と話す。介護保険サービスをうまく取り入れながら、今はトキさんと適度な距離を保ちつつ、無理のない範囲で介護を続けている。


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    [1]: 日本老年精神医学会「BPSDの薬物治療ガイドライン」より

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    本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年7月

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    公開日:

    参考文献

    1. [1]日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン2017 (2017)
    2. [2]日本老年精神医学会BPSDの薬物治療ガイドライン (2016)
    3. [3]NICEDementia: assessment, management and support (NG97) (2018)

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