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「せん妄」と「記憶の空白」
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「せん妄」と「記憶の空白」
📝 コラム2026年6月17日更新 2026年7月2日医師査読済 · 2026年6月1

「せん妄」と「記憶の空白」

他でもない、私自身の体験談。


31歳のとき、頸椎の手術のために全身麻酔を受けたのだが、翌日の記憶がほとんどない。

よく外来で「全身麻酔はどうしてもせん妄を引き起こす可能性があります。ご高齢だったり、あるいは認知症があったりするとせん妄を起こす確率に影響します」と説明したりするが、どうやら自分がまさにせん妄を起こしていたかも知れない。


「……待てよ」と青ざめた。

全身麻酔を受ける前の記憶がよみがえる。あのとき「せん妄を起こしたら尿道カテーテルを自己抜去したりするのかな、あるいは『ままー、おちんちん、痛い痛いなの』とか看護師さんに叫んで迷惑をかけたりしないかな……まあ若いし大……丈……b……ぐーーーZZZ」


不意に頭をよぎっただけの思考だ。だが万が一にも、この思考が間違って外に漏れていたらどうしよう。母のことを「まま」と呼んだことは人生で一度もないし、「おちんちん」なんて言葉を最後に発音したのは10年以上前のはずである……信じてほしい。


翌朝、意識がしっかり戻ってきて、ストレッチャーで病室に運ばれながら聞いてみた。「昨日、ご迷惑をおかけしませんでしたか」と。看護師さんはにっこりと「迷惑だ……なんて思っていませんよ、お疲れ様でした」と優しく微笑んでくれた。


せん妄はまったく本人の記憶に残らないのだということを、私は実体験として思い知った。何か問題を起こしていたとしても、本人に悪意はまずない。


カルテに「『ままー、おちんちん、痛い痛いなの』と叫んでいる」とはさすがに書かないだろうから、真相は永遠に闇の中である。

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