
他でもない私自身の体験談。
31歳の時に頸椎の手術をするために全身麻酔を受けたが、次の日の記憶があまり、というかほとんどない。
よく外来で「全身麻酔はどうしてもせん妄を引き起こす可能性があります。ご高齢だったり、あるいは認知症があったりするとせん妄を起こす確率に影響します」と説明したりするが、どうやら自分がまさにせん妄を起こしていたかも知れない。
「......待てよ」と青ざめた。
全身麻酔を受ける前の記憶がよみがえる。あの時「せん妄を起こしたら尿道カテーテルを自己抜去したりするのかな、あるいは『ままー、おちんちん、痛い痛いなの』とか看護師さんに叫んで迷惑かけたりしないかな...まあ若いし大...丈...b...ぐーーーZZZ」
不意に頭をよぎっただけの思考だ。だが万が一にもこの思考が間違って外にもれていたらどうしよう。母のことを「まま」と呼んだことは人生で一度もないし、「おちんちん」なんて最後に発音したのは10年以上前である......信じてほしい。
翌朝、意識がしっかり戻ってきて、ストレッチャーで病室に運ばれながら聞いてみた。「昨日ご迷惑をおかけしませんでしたか」と。看護師さんはにっこりと「迷惑だ......なんて思っていませんよ、お疲れ様でした」と優しく微笑んでくれた。
せん妄はまったく本人の記憶に残らないことを私は実体験として思い知った。何か問題を起こしていたとしても本人に悪意は断じて無い。
カルテに「『ままー、おちんちん、痛い痛いなの』と叫んでいる」とは書かないだろうから真相は永遠に闇の中である。