介護離職を防ぐ働き方と制度活用
介護休業・時短など、仕事と介護を両立する制度の使い方。
「これ以上続けられない」と感じたとき、医師の立場から介護体制の見直しや施設選びの視点を提供します。初回500円。
相談する仕事が終わるたびに、梅田恵子は職場のトイレで泣いていた。
52歳、製造会社の営業事務。認知症と診断された母の一人娘で、頼れる兄弟もいない。朝7時には母を施設のデイサービスへ送り出し、夕方6時にはダッシュで迎えに行く。だが急な残業やトラブル対応で、「今日も間に合わない」と焦る日が月に何度もあった。
「もう辞めるしかないかな」と、恵子は何度も思った。上司には「介護で大変です」と一言漏らしたことがあったが、具体的な相談はできなかった。職場の空気が読めなかったし、「特別扱いされている」と思われたくもなかった。
そんなある日に、かかりつけの地域包括支援センターの担当者がひと言声をかけてくれたことがまさに転機だった。「会社の介護休業制度、使ってみましたか?」
恵子は聞き返した「介護休業精度...ですか?そんな制度があるのか。今さらながらに会社の就業規則を引っ張り出し、人事に相談したところ、なんと3週間の介護休業を取得することができた。その間に要介護認定の見直し、ケアマネジャーとの面談、自宅のバリアフリー改修の段取りをつけた。
育休を取る同僚を見てきたのに、「介休暇なんて聞いたことはないし、その手の福利厚生は自分には関係ない」と勝手に思い込み、介護休業の存在を知らずに過ごしていた。しかし実際に使ってみると、「これをもっと早く知っていれば」と悔やむほど使い勝手のいい制度だった。
その後、時短勤務に切り替えて働き続けている。給与は下がったが、職を失う不安からは解放された。「あの時、辞めなくてよかった」と、今は心からそう思っている。
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介護離職の実態と影響
日本では年間約10万人が介護を理由に離職しているとされ、そこには明らかな性差があり、介護離職のうち女性が約8割を占めると言われています。40代後半から50代にかけて、職場でのキャリアがピークを迎える時期と親の介護が重なるケースが多いのです。
離職によって失うものは、給与だけではありません。
厚生労働省の調査では、介護離職した人の多くが「介護離職を避けるための制度があることを知らなかった」「そもそも職場に相談できなかった」と答えています。つまり、本当に「続けられない状況」だったのではなく、「続け方を知らなかった」ケースが相当数含まれているのです。
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使える制度の一覧と使い方
介護休業
対象家族1人につき、通算93日まで取得できます。3回まで分割して取ることが可能で、まとめて93日使う必要はありません。「入院中の付き添い」「施設探しの集中期間」など、局面ごとに小出しに使うのが現実的です。
雇用保険の介護休業給付金が支給され、休業前賃金の67%相当が補填されます(所得税は非課税)。申請は会社経由でハローワークが行います。
介護休暇
年5日(対象家族が2人以上なら10日)を時間単位または1日単位で取得できます。突発的な通院付き添いや急変対応に使いやすいです。無給でも取得権は保障されており、会社が拒否することはできません。
短時間勤務(所定労働時間の短縮)
要介護状態の家族を介護する場合、1日の所定労働時間を6時間以下に短縮できます。適用期間は会社の就業規則によって異なりますが、法律上の義務は3年以上とされています。
所定外労働の免除
残業・休日出勤を断る権利を法的に持てる制度です。介護が必要な状況にある従業員は、会社に申し出ることで超過勤務を免除してもらえます。
手続きの要点
就業規則の介護関連条項を必ず確認します(福利厚生に恵まれている会社では法定を上回る場合もあります)
休業開始の2週間前までに会社へ書面で申し出ます(介護休業)
対象家族の要介護状態を証明する書類(介護保険被保険者証のコピーなど)を準備します
給付金申請は会社の人事・総務が行うため、連携して進めます
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職場への伝え方と相談の仕方
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「介護の話を職場でするのは気が進まない」「弱点を見られたくない」——そう感じて相談をためらう人が存外います。しかし、相談しないまま突然パフォーマンスが落ちたり、欠勤が増えたりするほうが、職場としては困ります。
上司への切り出し方
以下の3点を簡潔に伝えると話がまとまりやすいかと思います。
現状(親が要介護認定を受け、日常的なサポートが必要になっています)
希望(介護休業を数週間取りたい、または時短勤務への切り替えを検討しています)
仕事の引き継ぎについての考え(周囲への負担を最小限にするための提案)
感情的な話から入るよりも、「制度を使いたい」という具体的なリクエストから入るほうが、就業規則に則って対応すれば良いことが分かるので、相談を受ける上司の負担が軽くなります。
人事部門への相談
上司への相談と並行して、人事部門に「介護休業の申請を検討しています」と伝えることも重要です。人事担当者は制度手続きのプロであり、申請書類や給付金申請のサポートをしてくれます。社内規則の詳細(有給の介護休暇があるかなど)も確認できます。
言いにくい理由への対処
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よくある失敗パターン
制度の存在を知らないまま辞表を出す
「もう限界です」と上司に告げて退職した後、「実は介護休業が使えたと後から知った」という例は少なくありません。辞表を出す前に、必ず人事部門か社外の無料相談窓口(都道府県労働局、労働条件相談ホットラインなど)に問い合わせることを覚えておきましょう。
93日をまとめて消化しようとする
介護休業の93日は複数の局面で使えるよう分割が認められています。最初の危機的状況で全部使いきってしまうと、その後の様々な場面で使えなくなってしまいます。計画的に分割して取得するようにしましょう。
時短勤務を「気が引ける」と辞退してしまう
法律が定める権利である以上、「申し訳ないから」と使わないのはその権利を放棄するのと同義です。時短に切り替えても、評価への影響が気になる場合は、成果の見える化(完了した業務の記録、進捗報告の頻度を上げるなど)で補うなど、上司や会社と事前の対応について協議しておきましょう。
介護とケアマネジャーの関係を職場に一切説明しない
突然の欠勤や遅刻が繰り返されると、職場としては「何があったのか」が把握できずに困惑します。1から10まで全部話す必要はありませんが、「ケアマネジャーとの調整が月に数回必要」「急変時は早退することがある」など、最低限の情報共有は社会人として信頼関係を保つ上で重要です。
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家族が知っておきたいチェックリスト
介護は突然始まり、終わりが見えないまま続きます。だからこそ、一人で抱え込まず、職場と制度の両方を味方につける視点が必要です。「相談するのが遅すぎる」ということは決してありません——今日この記事を読んだことが、最初の一歩になればと思います。
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