認知症の暴言・暴力——なぜ起きるのか、家族と施設での対応ガイド
BPSD症状医師査読済 · 2026年7月公開 2026年7月9日更新 2026年8月21日

認知症の暴言・暴力——なぜ起きるのか、家族と施設での対応ガイド

「なぜ怒るの」と叱責するほど症状は悪化しやすくなります。暴言・暴力が起きる医学的な理由、今日から実践できる7つの対応の工夫、施設から退所を求められた・受け入れを断られたときの対処法までを詳しく解説します。

Koba MD, PhD

医療監修

Koba MD, PhD

認知症専門外来・在宅訪問診療に従事


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こんな状態が続いたら

  • 些細なきっかけで怒鳴る、物を投げる、手が出る行動が見られる
  • 入浴・着替え・服薬など特定の場面で決まって攻撃的になる
  • 数週間以上、同じパターンの暴言・暴力が繰り返されている
  • このような状態が続く場合、単なる「性格の変化」ではなくBPSD(周辺症状)の可能性を考えます。一方、数時間〜数日という短期間で急激に攻撃性が強まった場合は、せん妄など別の急性の要因を疑う必要があります。


    なぜ暴言・暴力が起きるのか


    暴言・暴力は「性格が悪くなった」わけではなく、多くの場合は脳の変化と周囲の状況が重なって起きる反応です。背景には主に3つの要因があります。


    前頭葉の損傷による感情制御困難 → 怒りを抑える機能が低下し、些細な刺激で大きな反応が出やすくなります。特に前頭側頭型認知症では衝動制御そのものが障害されやすく、突発的な暴言・暴力として現れることがあります[1]


    介護行為への抵抗としての反応 → 入浴・着替え・排泄介助など、本人にとって「何をされるか分からない」「恥ずかしい」と感じる場面で、防衛的な反応として手が出ることがあります。


    身体的な不快感の表現 → 痛み・便秘・空腹・疲労などを言葉で伝えられず、暴言や暴力という形でしか表出できないケースも少なくありません。行動が急に変わったときは、まず体調面を確認することが対応の出発点になります。


    疾患によって暴言・暴力の出やすさや誘因には傾向があります。


    疾患暴言・暴力の頻度主な誘因
    アルツハイマー型約40%介護への抵抗
    前頭側頭型約60%衝動制御の障害
    レビー小体型約30%幻視への反応

    ※頻度は報告により幅があり、上記はおおよその目安です[1]


    今日からできる7つの工夫


    声のトーンを一段下げる → 高く緊張した声は本人の不安を高めます。ゆっくり低めの声で話しかけると、緊張が和らぎやすくなります。


    急に近づかず、正面から視界に入る → 背後や横から突然触れると驚きや恐怖につながります。まず視界に入り、相手が気づいてから声をかけましょう。


    「なぜ」ではなく「直前に何があったか」を振り返る → 理由を問い詰めるより、声かけ・接触・場所の変化など直前の出来事を振り返ると、引き金が見えてきます。


    興奮が強いときは、いったんその場を離れる → 無理に対応を続けず、距離を取って本人が落ち着く時間を作ることも有効な選択肢です。


    一度に一つの指示・声かけに絞る → 複数の情報が重なると混乱と苛立ちが強まります。「お風呂に入りましょう」のようにシンプルな一文で伝えます。


    日中の活動量を確保する → 過ごす時間にメリハリがないと、些細な刺激への反応が強まりやすくなります。散歩や軽い運動を日課に取り入れます。


    体調不良のサインを先に確認する → 痛み・便秘・発熱・薬の変更がないか、行動が変わったときにまずチェックする習慣をつけます。


    やってはいけないNG対応


    NG対応

    「なぜ怒るの!」と叱責する → 恐怖・羞恥心をかき立て、症状が悪化しやすくなります。

    「また始まった」と無視する → 孤独感が攻撃性をさらに高めることがあります。

    力づくで押さえつける → 本人の恐怖心を強め、防衛的な攻撃をさらに引き起こしやすくなります。

    大人数で取り囲む → 圧迫感が興奮を助長します。対応する人数はできるだけ最小限に絞りましょう。


    田中誠さん(80歳、アルツハイマー型認知症)の場合


    夕方になると些細なことで妻に怒鳴るようになりました。原因を探ると、夕方は疲労がたまりやすく、薄暗い室内で物の輪郭が見えづらくなることが不安を強めていることが分かりました。夕方の照明を早めに明るくし、活動を落ち着いた内容に切り替えたところ、興奮する頻度が目に見えて減りました。


    佐藤久美子さん(76歳、前頭側頭型認知症)の場合


    入浴時に必ず抵抗し、時に手が出ることがありました。介助者が入浴前に「今から何をするか」を短い言葉で先に伝え、「先に足だけ」「後で全身」といった選択肢を渡すようにしたところ、抵抗が徐々に減っていきました。


    施設から退所を求められた・受け入れを断られたとき


    暴力・暴言をきっかけに、入所中の施設から「退所」を打診されたり、新規の入所・ショートステイの受け入れを断られたりするケースは少なくありません。


    まず現状を正確に共有する

    どんな場面で、何がきっかけで、どのくらいの頻度で起きているかを、ケアマネジャーと施設側に具体的に共有しましょう。「困った利用者」という曖昧な印象のままだと、施設側も対応の打ち手を検討しづらくなります。


    医師の診察・診断を早めに受ける

    暴力の背景にせん妄・体調不良・薬の副作用などが隠れていないか、医師の診察で確認することが第一歩です。診断や治療方針が明確になることで、施設側も受け入れ体制を検討しやすくなります。


    退所・受け入れ拒否は最終手段であることが多い

    多くの施設は、退所や受け入れ拒否をいきなりの結論とはせず、対応方法の見直しや専門医への紹介、一時的な精神科医療機関との連携などを提案してくれる場合があります。まずは施設・ケアマネジャーと「他に手段はないか」を一緒に検討する姿勢が大切です。


    転所・他施設探しが必要になった場合

    やむを得ず転所が必要になった場合は、地域包括支援センターやケアマネジャーに、認知症のBPSD対応の実績がある施設を紹介してもらうことができます。受け入れ先には、暴力が起きる状況・工夫している対応をあらかじめ共有しておくと、環境が変わってからの再発を防ぎやすくなります。


    よくある家族の疑問


    Q. 暴力を振るわれたとき、やり返してもいいですか?

    いいえ。力で対抗すると本人の恐怖・興奮をさらに強め、悪循環になります。安全が確保できない場合は、まずその場を離れることを優先してください。


    Q. なぜ自分(介護している家族)にだけ攻撃的になるのですか?

    最も長い時間接し、介助を行う相手だからこそ、抵抗や不安のはけ口になりやすい面があります。「嫌われている」わけではなく、関係が近いために出やすい症状だと理解することが助けになります。


    Q. 薬で暴言・暴力を抑えることはできますか?

    向精神薬が検討される場合もありますが、まずは環境調整・声かけの工夫を優先することが基本方針です。薬物療法は高齢者では過鎮静・転倒リスクが上がるため、医師と相談しながら慎重に進める必要があります[2]


    Q. 前より暴力の頻度が急に増えました。進行のサインですか?

    数週間〜数か月かけての変化なら進行に伴うBPSDの可能性がありますが、数時間〜数日で急激に悪化した場合はせん妄など別の急性要因を疑い、早めの受診をおすすめします。


    Q. 施設のスタッフに暴力を振るってしまい、退所を求められそうです。どうすればいいですか?

    まずケアマネジャーや施設と、暴力が起きる場面・きっかけを共有し、対応方法を一緒に見直すことが第一歩です。医師の診察により、薬物療法や環境調整の選択肢が広がることもあります。


    Q. 子どもや孫の前で暴言が出てしまいます。会わせない方がいいですか?

    無理に避ける必要はありませんが、興奮しやすい時間帯や状況を把握し、落ち着いている時間帯に短時間から様子を見るなど、段階的に調整することをおすすめします。


    Q. 暴言・暴力が出るたびに自分を責めてしまいます。

    対応の工夫で軽減できる部分はありますが、すべてを介護者の責任にする必要はありません。一人で抱え込まず、ケアマネジャーや医師に状況を共有し、負担を分散することが大切です。


    Q. 易怒性(怒りっぽさ)とは何が違いますか?

    易怒性は身体的な攻撃を伴わない、継続的な感情の不安定さを指します。暴言・暴力は実際の攻撃的行動を伴う点で区別されますが、背景にある前頭葉機能の低下は共通していることが多くあります[3]


    関連コンテンツ


  • 体験談: 攻撃的な言動への対応
  • 体験談: 施設入所への段階的アプローチ
  • Tips: 怒りや暴言の裏にある不安や苦痛を察する
  • Tips: 目線を合わせ、穏やかな表情で接する
  • 知識: 前頭側頭型認知症について
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    本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年7月

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    公開日: 最終更新日:

    参考文献

    1. [1]日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン2017 (2017)
    2. [2]NICEDementia: assessment, management and supportNICE guideline NG97 (2018)
    3. [3]日本老年精神医学会BPSDの薬物治療ガイドライン (2016)

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