薬を嫌がる・飲み忘れる時の工夫
拒否・飲み忘れの背景別に使える具体的な対処。
「薬を飲んでくれない」「どう管理すればいい?」という医療的な疑問を認知症を専門とする医師に相談できます。初回500円。
相談する母が薬を口の中でためて、こっそり捨てていた。そのことに気づいたのは、ゴミ箱を蹴とばしてひっくり返したときだった。
林道子は、80歳になる母・清江を自宅で介護している40代の会社員だ。母はアルツハイマー型認知症と診断されて2年が経ち、血圧の薬と認知症の進行を抑える薬の2種類を毎朝飲んでいた。
最初の半年ほどは問題なかった。ところがある日、母が「これは毒だ」と言いながら薬を床に投げつけた。林道子は驚いて声を荒げてしまい、母はそれ以来というもの薬を見るだけで顔をこわばらせるようになった。
「もうどうすればいいのか」と思いつめた林道子は、担当のケアマネジャーに相談した。するとケアマネジャーは「お母さんが薬を嫌がる『理由』を考えてみましょう」と言った。怖いから? 苦いから? それとも、もう飲んだと思っているから?
少しずつ母と薬について話してみると、母の場合は「なぜ飲まなければいけないかが理解できなくなっている」ことと、「錠剤が大きくて飲み込みにくい」ことが重なっているのかも知れないと思い至った。
道子は主治医に相談し、錠剤を粉砕できるかどうか確認した。粉砕可能と分かった薬はゼリーに混ぜて出すようにした。声かけも変えた。「薬よ」ではなく、「食後のお茶とゼリーですよ」と言うだけにした。
拒否が激しかった日々が、3週間ほどで落ち着いた。今でも気分のむらはあるが、母は毎朝「ゼリーの時間」を楽しみにしている。林道子は「『大切なお薬だからね』とゼリーの中に内服薬が入っていることは理解している様なので、やはり大きくて飲み込み難いということが拒否の根っこにあったんだ」と実感している。
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「嫌がる」背景別の分類
薬の拒否には必ず何らかの理由があります。怒鳴っても説得しても改善しないのは、その根本にある背景を見落としているからであることが多いです。
「怖い・危ない」という感覚
認知症が進んで、見慣れているはずの錠剤が「知らないもの」に見えているかも知れません。「毒を飲まされる」「殺される」という妄想的な恐怖は認知症でよく聞かれる訴えの一つです。本人は本気で怖がっているため、「大丈夫」という言葉だけでは安心させるのが難しいです。
苦い・飲み込みにくい
嚥下機能が低下していると、錠剤が喉に引っかかる感覚が不快で、やはり拒否につながります。また、苦い薬や独特のにおいのある薬も数多く、一度嫌な体験をするとそうでない内服薬も条件反射的に拒否するようになってしまいます。
たとえば痛み止めのカロナールは口の中で少し溶けるとやや甘いことをご存じでしょうか。一方で同じく痛み止めのロキソニンの苦みったらありません。「味」というのは内服をしている本人の意識にしかあがらないことがあり、思わぬ落とし穴になることも。
もう飲んだと思っている
短期記憶が失われると、「さっき飲んだ」という確信が生まれることがあります。本人は嘘をついているわけではなく、本当にそう記憶しているため、「飲んでいない」と言い張っても溝が深まるだけです。
薬の意味が理解できない
「なぜ飲まなければいけないのか」が分からなくなると、強要されることへの抵抗感が生まれます。認知症の中核症状として、物事の必要性を論理的に理解することが難しくなっています。
以前の嫌な体験が残っている
無理に口をこじ開けられた、強い口調で怒られた、などの体験は記憶に残りやすいです。次からは薬を見ただけで身構えるようになり、拒否がさらに強まる悪循環に陥ります。
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嫌な気持ちを和らげる具体的な工夫
タイミングを見計らう
認知症の人は、一日の中で調子のよい時間帯(多くは午前中)と、混乱しやすい時間帯があります。機嫌のよいタイミングを日記に記録し、そこに合わせるだけで成功率が大きく変わります。
あえて「薬」という言葉を使わない
「お薬の時間です」という言葉が拒否反応の引き金になっている場合はあえて「お薬」という単語を宣言する必要は無いかも知れません。「食べ終わったらお茶にしましょう」など違和感のない声掛けを習慣の一部として認識できるまで繰り返してみましょう(認知症があっても何度も同じ動作を繰り返すことで、例えば食事の後には必ずお茶やデザートと一緒に内服をするという習慣が、当たり前の日常にとけこむようになります)。
一緒に飲む
「私も一緒に」と言って、サプリメントやお茶を隣で飲むようにします。孤独感がなくなり、「みんながやること」という安心感が生まれます。
食べ物・飲み物に混ぜる(ただし要注意)
アイスクリームやゼリー、ジュースに薬を混ぜる方法は有効なことが多いです。ただし、薬によっては食べ物の成分と相互作用したり、粉砕できないものもあります。必ず主治医か薬剤師に確認してから行うようにしましょう(なお薬によっては食べ物の成分と相互作用することを逆手にとって、あえて特定の食品と一緒に内服をしたりすることもありますが、これは上級者向きで一般にはおすすめできません)。
剤形を変える相談をする
錠剤から口腔内崩壊錠(口の中で溶けるタイプ)や貼り薬、液剤に変更できる場合もあります。嚥下機能が落ちて錠剤が飲みにくくなった場合など、積極的に医師に相談してみましょう。
成功体験を積み重ねる
無理強いをやめてまずは優先度の高い1粒だけにする、嫌がる薬を後回しにして好きな飲み物と最後に一緒に出すなど、小さな成功を積み上げることで「薬の時間」への警戒心が薄れていきます。
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飲み忘れを防ぐ仕組みの作り方
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一包化を薬局に依頼する
複数の薬を朝・昼・夕・就寝前ごとにまとめて1袋にする「一包化」は、多くの保険薬局で対応しています。袋に日付と時間帯を印字することもできるので、「飲んだかどうか」が袋の残りを見るだけで確認できます。薬局に相談するだけでOKです。
お薬カレンダーを使う
壁掛けタイプのお薬カレンダーは、ポケットに薬を入れておき、飲んだらポケットが空になる仕組みです。介護者が薬をセットしておけば、空き具合を見るだけで服薬状況が把握できます。
声かけルーティンをつくる
毎朝の食事後すぐ、同じ人が同じ言葉で声をかけるルーティンをつくります。「ご飯のあとはゼリーの時間」などの習慣化は、手続き記憶(体で覚えた記憶)として残りやすいです。
訪問看護・ヘルパーへの服薬介助を組み込む
週に数回の訪問介護や訪問看護のスケジュールに服薬介助を組み込むと、第三者の声かけが効いて自然に飲んでもらえることが多いです。「家族の言うことは梨のつぶてだが、ヘルパーさんの言うことはしっかり聞く」ケースは珍しくありません。
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よくある失敗パターン
強引に飲ませようとして拒否が強まった
「飲まないと死ぬよ」「先生に怒られるよ」という脅し文句や、口を無理に開けようとする行為は、身体的・心理的な恐怖として記憶されます。次からはより強い拒否が起き、服薬介助そのものが困難になります。どうしても飲まない日は、無理をせず医師に相談することが先決です。
飲んだかどうか確認できず、二重投与してしまった
「さっき飲ませた気がするけど、飲んでいないと言うから…」という状況で二度渡してしまうのは、服薬管理の中で最も危険なミスの一つです。一包化やお薬カレンダーで「飲んだ/飲んでいない」を確認できる仕組みを作ることが根本的な対策になります。
「飲んだと思っている」本人と口論になった
「飲んでいない」「飲んだ」と繰り返し言い合うのは、双方にとって消耗戦になります。本人は本当にそう信じているため、論争しても解決しません。「そうだったかしら、一緒に確認しましょう」と柔らかく切り替え、お薬カレンダーや一包化の袋を確認して勘違いを自然に気づいてもらえると効果的です。
嫌な体験を引きずったまま毎日同じ方法を繰り返した
「昨日ダメだったから今日は飲んでもらえない」と決めつけず、毎日リセットして試みることは大切です。一方で、明らかに苦しそう、飲み込めていない、副作用が出ているなどの場合は、方法を変えずに繰り返すのは危険です。迷ったら薬剤師や主治医に相談してみることを忘れずに。
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家族が知っておきたいチェックリスト
薬を嫌がる行動の裏には、本人なりの理由が必ずあります。その理由を一つずつ丁寧に探ることが、解決への最短ルートです。強引に飲ませても大抵の場合は逆効果なので、困ったときは一人で抱え込まず、主治医・薬剤師・ケアマネジャーに早めに相談してほしい。
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