認知症の弄便——排泄物を触ってしまう理由と、家族の対応ガイド
BPSD症状医師査読済 · 2026年7月公開 2026年7月10日更新 2026年7月23日

認知症の弄便——排泄物を触ってしまう理由と、家族の対応ガイド

おむつの中の便に触れてしまう弄便は、決してわざとではなく、排泄後の不快感や便秘など身体的な理由が背景にあることがほとんどです。原因の見極め方と対応の工夫を解説します。

Koba MD, PhD

医療監修

Koba MD, PhD

認知症専門外来・在宅訪問診療に従事


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こんな状態が続いたら

  • おむつの中の便を手で触れたり、周囲に広げてしまう行動が見られる
  • 便で汚れた手でものを触ったり、壁や衣類を汚してしまう
  • 本人は不快感や羞恥心よりも「気になる」「取り除きたい」という感覚で動いていることが多い
  • 弄便(ろうべん、と読みます便を弄る(いじる)ことです)は頻度としては多くないものの、介護者の心理的負担が非常に大きい症状です。多くの場合、排泄の不快感や便秘・下痢といった身体的な理由が背景にあり、決して「わざと困らせている」わけではありません。むしろご本人が困っていることもあります。


    なぜ弄便が起きるのか


    弄便は、排泄に伴う不快感を自分なりに取り除こうとする行動であることが多く、身体的な要因が深く関わっています[1]


    排泄後の不快感を取り除こうとする行動 → かゆみや湿り気、違和感を手で取り除こうとした結果として起きることがあります(お尻がかゆくて搔こうとしたら便が出ていることに気が付かなかったor今なお気が付いていない)。


    便秘・下痢による腹部の不快感 → 排便のコントロールがうまくいかないことへの不快感が、行動として現れることがあります。


    言葉で伝えられないことによる自己対処 → 排泄のタイミングやトラブルを言葉で伝えられず、自分で何とかしようとした結果として起きることがあります。


    認知機能低下による失認 → 便を便として認識できず、単なる「触れる対象」として扱ってしまうことがあります(例えば我々がスライムを興味本位で触ろうとするのと同じです)。


    皮膚トラブル → かゆみやかぶれがある場合は、それ自体への対処も並行して必要です。


    今日からできる7つの工夫


    排泄のパターンを記録し先回りする → 排便の起きやすい時間帯を記録し、その時間にトイレへ誘導することで弄便の機会自体を減らせます。


    おむつをこまめに交換する → 排泄後の不快感をできるだけ早く取り除くことで、行動のきっかけを減らします。


    便秘・下痢の管理をする → 水分摂取、食物繊維、整腸剤の使用など、排便状況を医師と相談しながら整えます。


    皮膚のかゆみ・かぶれを確認する → 必要に応じて皮膚科的なケアを取り入れ、不快感の元を減らします。


    直接便に触れにくい衣類の工夫を取り入れる → つなぎタイプの衣類など、手が直接おむつに届きにくい服装を検討することもありますが、つなぎはいわゆる身体拘束のひとつと見なされ、つなぎを着せることを許容していない病院や施設は珍しくありません。


    発見時は静かに片付ける → 感情的にならず、淡々と片付けて清潔にすることで、本人の羞恥心を刺激しないようにします。あえて本人に現実を突きつけたくなる気持ちは分かりますが、残念ながらそれは解決にならないどころか、むしろ症状が悪化する原因を作っています。


    こまめな見守り・声かけを続ける → 排泄リズムが整うまでは、見守りの頻度を増やして早期に気づける体制を作ります。


    やってはいけないNG対応

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    NG対応

    強く叱責する・嫌悪感をあらわにする → 羞恥心を強め、症状の悪化や排泄の失敗を隠そうとする行動につながることがあります。

    長時間放置しておむつ交換を怠る → 不快感が強まり、弄便のきっかけを増やす可能性があります。

    家族だけで抱え込み誰にも相談しない → 精神的負担が非常に大きい症状のため、ケアマネジャーや医師との情報共有が重要です。

    必要以上に拘束的な対応をする → 本人の尊厳を損ない、他の抵抗行動を招くことがあります。


    岡本セツさん(87歳、要介護4)の場合


    排便後、じっとしていられずおむつの中に手を入れてしまうことが続きました。ケアマネジャーに相談し、排便リズムを記録したところ毎朝食後30分前後に排便があることが分かり、その時間に合わせてトイレ誘導するようにしたところ、弄便の頻度が大きく減りました。


    藤井義男さん(85歳、アルツハイマー型認知症)の場合


    便秘がちで、下腹部の不快感から夜間に弄便が見られました。医師に相談し整腸剤と水分摂取量や時間帯の見直しを行ったところ、便通が整い、夜間の行動が落ち着きました。


    よくある家族の疑問


    Q. 弄便はどのくらいの頻度で起きますか?他の症状と比べて珍しいですか?

    暴言や徘徊に比べると発生頻度は高くありませんが、起きた際の介護者への心理的負担は非常に大きい症状として知られています。


    Q. なぜうちの家族だけこんな行動をするのでしょうか?

    決して特別なことではなく、排泄の不快感や便秘・失認など身体的・認知的な要因が重なった結果として起きる、BPSDの一つです。


    Q. 発見したときはどう対応すればいいですか?

    感情的にならず、静かに片付けて清潔にすることを優先してください。叱責は逆効果になりやすい点に注意が必要です。


    Q. 予防する方法はありますか?

    排便パターンの記録とタイミングを合わせたトイレ誘導、こまめなおむつ交換、便秘・下痢の管理が予防の基本になります。


    Q. 便秘薬や整腸剤は自己判断で使ってもいいですか?

    自己判断での使用は避け、必ず医師に相談してから使用してください。排便状況の記録を持参すると診察がスムーズです。


    Q. 施設に相談しても対応してもらえますか?

    はい。多くの施設で排泄ケアの専門的な対応が可能です。家庭での状況やうまくいった工夫を共有すると連携がしやすくなります。


    Q. 家族が精神的につらいときはどうすればいいですか?

    一人で抱え込まず、ケアマネジャーや医師、地域包括支援センターに相談してください。介護者自身のケアもご本人に対するケアと同等に重要です。


    Q. 弄便は認知症が進行しているサインですか?

    進行度と直接結びつくわけではなく、経験的にも排泄環境や身体状況の調整で改善するケースが多くあります。精神的に負荷の高いBPSDであることは間違いないですが、将来や認知症の進行速度などを過度に悲観する必要はありません。


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    本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年7月

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    公開日: 最終更新日:

    参考文献

    1. [1]日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン2017 (2017)
    2. [2]日本老年医学会高齢者の排泄ケアガイド (2018)
    3. [3]NICEDementia: assessment, management and support (NG97) (2018)

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