ケアガイド公開 2026年8月21日

遠距離介護でのBPSD対応——電話・訪問だけでできること

離れて暮らす親のBPSDに、電話越しでどう気づき、限られた訪問回数の中で何ができるか。見守りサービスとケアマネ連携の実例から解説します。

Koba MD, PhD

医療監修

Koba MD, PhD

認知症専門外来・在宅訪問診療に従事


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神奈川県横浜市に住む堀内大輔(ほりうち だいすけ、47歳)は、ある夜11時過ぎに秋田県横手市の実家から着信を受けた。電話の向こうで、母のセツ子(83歳、アルツハイマー型認知症、要介護2)が早口でまくし立てていた。「早く迎えに来て。ここ、知らない家なの。駅に行かないと」。


セツ子は生まれてからずっとその家に住んでいる。だが電話越しの声は、まるで見知らぬ場所に迷い込んだ人のように切迫していた。大輔は「お母さん、そこ実家だよ、落ち着いて」と何度も伝えたが、話は噛み合わないまま10分近く続いた。翌朝、心配になって折り返すと、セツ子はいつも通り穏やかな声で「あら、どうしたの」と応じた。前夜のことは覚えていない様子だった。


同じようなことが月に数回起きるようになった。決まって夜、しかも大輔が電話をかけたときより、セツ子から不意にかかってくるときに強く出る傾向があった。大輔は月に一度、片道4時間かけて帰省していたが、日中に顔を合わせるセツ子はいつも通り会話ができ、「何も変わったことはないよ」と本人も言う。電話の異変と、訪問時の落ち着いた様子との落差に、大輔はどう判断していいか分からなくなっていった。


「一人で見ているわけじゃないのに、遠くにいる自分だけが何もできていない気がする」。そう感じた大輔は、セツ子が利用している居宅介護支援事業所のケアマネジャーに連絡を取った。ケアマネジャーは「その時間帯の混乱は、日中の疲れが夕方から夜にかけて表面化する、いわゆる“夕暮れ症候群”に近いものかもしれません。電話だけで様子を判断するのは難しいので、まず情報を共有する仕組みを作りましょう」と提案してくれた。


そこから、月1回の電話でのケアマネ報告に加えて、訪問介護のヘルパーが気づいたことを簡単なメモで共有してもらう体制を整えた。あわせて、人の動きを感知して家族のスマートフォンに通知が届くセンサー型の見守り機器を居間と玄関に設置した。深夜に何度も廊下を歩き回る、あるいは長時間動きがないといった変化を、電話をかけなくてもある程度把握できるようになった。


半年ほど経ったころ、大輔は「電話越しの声だけで一喜一憂しなくなった」と感じるようになった。混乱した電話がかかってきても、「今日は日中どうでしたか」とヘルパーの記録を確認し、必要ならケアマネジャーに相談するという判断の軸ができたからだ。すべての不安が消えたわけではないが、「自分一人で抱え込まなくていい」という感覚は、以前より確かに強くなっていた。


それでも悩みが完全になくなったわけではない。帰省の頻度をどこまで増やすべきか、仕事との両立はどこまで許されるのか、きょうだいとの負担の分担はこれでいいのか——答えの出ない問いは今も残っている。それでも大輔は、「分からないことを一人で抱えず、専門職に聞いていい」と思えるようになったこと自体が、以前とは違う場所に自分を運んでくれたと感じている。


遠距離だからこそ気づきにくいBPSDのサイン


電話は「その瞬間」しか伝わらない → 電話では声のトーンや話す内容の断片しか分からず、症状が出ている時間帯や頻度、日中との落差といった「変化のパターン」を把握しにくい可能性があります。


訪問時は本人が普段以上に気を張ることがある → 久しぶりに会う家族の前では、本人が緊張したり気を張ったりして、普段より落ち着いて見えることがあります。訪問時の様子だけで「大丈夫」と判断すると、実際の状態とずれが生じることがあります。


夕方から夜にかけて症状が強まりやすい傾向がある → 日中の疲労や光の変化が影響し、夕方から夜間にかけて混乱や不安が強まりやすいと言われています。日中の電話だけでは、この時間帯の変化に気づけないことがあります。


「同じ話を繰り返す」変化は、電話越しでは気づきにくい → 会うたびに同じ質問を繰り返す、同じ話を何度もするといった変化は、短い電話のやり取りの中では自然な会話に紛れてしまい、見過ごされやすい傾向があります。訪問時にまとまった時間を過ごすことで、初めて気づけることもあります。


電話・訪問だけでもできる実践ポイント


ケアマネジャーとの定期連絡日を決めておく → 「何かあったら連絡する」ではなく、月1回など定期的に状況を確認し合う日を先に決めておくと、変化を見落としにくくなります。


訪問介護・訪問看護からの気づきを共有してもらう仕組みを作る → ヘルパーや看護師は日常的に本人と接しているため、家族が気づけない変化に気づいていることがあります。連絡ノートやメールなど、簡単に共有できる方法を相談してみましょう。


見守りサービス・センサー機器を活用する → 人感センサー、電気ポットやドアの開閉を通知するサービス、緊急通報ボタンなど、離れていても生活のリズムを把握できる機器があります。多くは自治体の助成制度の対象になっていることもあるため、地域包括支援センターやケアマネジャーに、利用できるサービスや費用を相談してみるとよいでしょう。


自治体の遠距離介護支援制度を確認する → 一部の自治体では、遠方に住む家族が帰省する際の交通費を助成する制度を設けている場合があります。実家のある市区町村の窓口や地域包括支援センターに、利用できる制度がないか問い合わせてみることをお勧めします。


電話は「決まった時間・決まった質問」で変化を比べやすくする → 毎回違う話題ではなく、「今日の朝ごはんは何を食べたか」など同じ質問を繰り返すことで、答え方の変化に気づきやすくなる場合があります。


帰省時にチェックする項目をあらかじめ決めておく → 冷蔵庫の中身(同じものを買い置きしていないか)、薬の残数、体重の変化、部屋の乱れ具合などをリスト化しておくと、限られた滞在時間でも状態を把握しやすくなります。


近隣の協力者や緊急連絡先を確保しておく → 近所の方や民生委員など、日常的に顔を合わせる人がいると、異変の早期発見につながることがあります。合鍵の管理者や緊急時の連絡先も、あらかじめ決めておくと安心です。


兄弟姉妹や親族間で情報を一元化する → 誰が何を知っているかがバラバラだと、症状の変化を正しく把握できません。共有のメモやメッセージグループなど、情報を集約する場所を決めておくことが助けになります。


よくある失敗・NG対応


電話の声だけで「異常なし」と判断してしまう → 電話越しに落ち着いて話せていても、実際の生活状況(食事、服薬、生活リズムの乱れ)までは分からないことが多く、判断材料としては限界があります。


遠方に住む自分が一人ですべてを背負おうとする → 頻繁に帰省できないことへの罪悪感から、電話やメッセージで細かく指示を出そうとし、かえって本人やケアマネジャー、ヘルパーとの関係がぎくしゃくしてしまうことがあります。


帰省のたびに「今回も大丈夫だった」と安心し、次回まで対応を先延ばしにする → 短い滞在時間の中の一場面だけを見て判断すると、進行や変化のサインを見逃してしまう可能性があります。


本人に「変わったことはない?」と直接聞くだけで満足してしまう → 認知症のある方は、自分の症状や変化を正確に自覚・説明できないことが多く、本人からの回答だけに頼るのは危険です。


きょうだいの誰か一人に任せきりにしてしまう → 実際にケアを担う人と、電話だけで様子を聞く人との間で状況認識にずれが生じやすく、負担や情報が偏る原因になります。役割分担が曖昧なまま時間が経つと、対応が遅れる要因にもなりかねません。


症状の変化を「年のせい」と片付けてしまう → もの忘れや混乱を老化による自然な変化として片付けてしまうと、BPSDのサインを見逃し、対応や受診のタイミングを逃してしまう可能性があります。


遠距離介護でのBPSD対応チェックリスト

  • ケアマネジャーとの定期連絡日をあらかじめ決めているか
  • ヘルパー・訪問看護から気づきを共有してもらう仕組みがあるか
  • 見守りセンサーなど、離れていても状況を把握できる機器を検討したか
  • 帰省時にチェックする項目(薬の残数、冷蔵庫の中身、部屋の様子など)をリスト化しているか
  • 近隣の協力者や緊急連絡先、合鍵の管理者を決めているか
  • きょうだい・親族間で情報を一元化する場所を決めているか

  • 大輔は「電話一本で全部を判断しようとしていたときが、一番苦しかった」と振り返る。「見守り機器やヘルパーさんの記録に頼っていいんだと分かってから、少し肩の力が抜けた気がします」。


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    [1]: 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」より

    [2]: 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(2019年)より

    [3]: NICE「Dementia: assessment, management and support (NG97)」(2018年)より


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    参考文献

    1. [1]日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン2017 (2017)
    2. [2]厚生労働省認知症施策推進大綱 (2019)
    3. [3]NICEDementia: assessment, management and support (NG97) (2018)

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