認知症の帰宅願望——「家に帰りたい」と訴える理由と、家族の対応ガイド
施設や自宅にいても「家に帰らないと」と繰り返す帰宅願望。多くは不安や役割の喪失感の表れです。夕暮れ症候群との関係と、否定せず気持ちに寄り添う対応の工夫を解説します。
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この訴えの多くは、今住んでいる場所そのものへの不満ではなく、不安・孤独感・役割の喪失感の表れです。安全な環境で「役割」「安心感」を作ることが対応の中心になります。実際に外出行動に発展した場合は、徘徊への対応も合わせて参考にしてください。
なぜ「家に帰りたい」と訴えるのか
「家に帰りたい」という訴えは、記憶と見当識のズレ、そして不安の表れであることが多く、単なるわがままではありません[1]。
記憶の見当識のズレ → 今住んでいる場所を「自分の家」と認識できず、若い頃や子育て時代の記憶にある「家」を求めていることがあります。
不安・孤独感の表出 → 慣れない環境や人間関係への不安が、「家に帰れば安心できる」という思考につながります(逆に人間関係がきまずいと感じていると「ここが家じゃないから安心できないに違いないと明後日の結論が導かれてしまいます)。
役割の喪失感 → 「子供が学校から帰ってくる」「夕食の支度をしなければ」など、過去に担っていた役割の意識が呼び戻され、一方で何をするべきか判断できない時に訴えとして現れます。
夕暮れ症候群 → 夕方から夜にかけて症状が強まりやすい生理的なリズムの乱れが関係しているとされています。
| 訴えのパターン | 考えられる背景 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 「子供が帰ってくるから」 | 過去の役割意識 | 「もう大丈夫、任せてください」と役割を引き継ぐ言葉をかける |
| 夕方に強く訴える | 夕暮れ症候群 | 日中の活動量を増やし、夕方は照明を明るくする |
| 荷物をまとめて玄関へ向かう | 不安・孤独感 | 「一緒に行きましょう」と付き添い、気持ちが落ち着いたら方向転換する |
今日からできる7つの工夫
否定せず気持ちに寄り添う → 「そうですね、帰りたいですね」とまず気持ちを受け止めることが混乱を減らす第一歩です。
「送っていきますね」と受け止めてから気をそらす → 一度受け止めた上で一緒に散歩に出るなど、別の行動へ自然に誘います。
温かい飲み物やおやつに誘う → 気持ちを切り替えるきっかけとして、お茶や軽食への誘導が有効なことがあります。
役割を作る → 洗濯物を畳む、テーブルを拭くなど、簡単な役割を担ってもらうことで安心感につながります。
夕方の照明を早めに明るくする → 日中の活動量を増やし、夕暮れ症候群による症状の悪化を軽減します。
なじみの写真・物を置く → 安心できる手がかりを身近に置くことで、落ち着きやすい環境を作ります。家を出て行こうとするときに目に入るような導線に配置することで徘徊のリスクを若干緩和することも期待できます
「ここも安心できる場所」と繰り返し伝える → 相手の価値観を訂正するのではなく、安心感を積み重ねるように言葉かけを続けます。
やってはいけないNG対応
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NG対応
「ここがあなたの家です」と正面から訂正する → 本人の認識と食い違い、混乱や反発を強めることがあります。
「またその話?」と取り合わない → 孤独感・不安を強め、訴えがさらに強くなることがあります。
無理に引き止めたり動きを制止する → 抵抗や興奮を招き、安全上のリスクにもつながります。
一人にして放っておく → 時に有効な手段となることもありますが、最終的に実際の外出行動(徘徊)につながるリスクがあるため、安全確認はお忘れなく。
石田キヨさん(86歳、アルツハイマー型認知症、施設入居中)の場合
夕方になると「夕飯の支度があるから帰らないと」と荷物をまとめる行動が続くようになりました。スタッフが「今日は私たちが用意しますので大丈夫です」と役割を引き継ぐ言葉をかけ、その代わりのお仕事として洗濯物たたみを手伝ってもらうようにしたところ、落ち着いて過ごせる時間が増えました。
渡辺勝さん(81歳、血管性認知症、在宅)の場合
自宅にいるにも関わらず「家に帰る」と繰り返し、玄関に向かうことがしばしばありました。妻の渡辺良子さんは「一緒に少し歩きましょう」と外に付き添い、近所を一周してから「お帰りなさい、今日もお疲れ様です」とかつて仕事から帰ってきた勝さんを出迎えるように声をかけると、どことなく満足げな表情で落ち着きを取り戻します。「無理に引き止めるより効果的でした、私も一緒に歩く習慣が身に付いたので悪くないなあと思っています」と前向きにとらえていらっしゃる。
よくある家族の疑問
Q. 施設にいるのに「家に帰りたい」と言うのはなぜですか?
今いる場所を「自分の家」と認識できていないことが多く、慣れない環境への不安がそのまま訴えとなって表れています。
Q. 訴えるたびに一緒に外に出ても大丈夫ですか?
安全が確保できるなら、短時間の付き添いは有効な対応の一つです。ただし体調や天候、時間帯を考慮し、無理のない範囲で行ってください。
Q. 「もうすぐお迎えが来ますよ」と嘘をついてもいいですか?
露骨な嘘は後で本人を混乱させることがあるため、まずは気持ちを受け止めた上で、別の行動へ自然に誘う対応が推奨されます。
Q. 夕方に特に強くなるのはなぜですか?
夕暮れ症候群と呼ばれる現象で、日中の疲労や光量の変化、生活リズムの乱れが関係していると考えられています。
Q. 帰宅願望が徘徊に発展することはありますか?
訴えの段階から実際に外出する行動に移ることがあるため、玄関の施錠やセンサーの活用など安全対策も並行して検討してください。
Q. 本当の自宅に一時帰宅させた方がいいですか?
状況により有効な場合もありますが、環境の変化がかえって混乱を招くこともあるため、ケアマネジャーや施設スタッフと相談しながら判断してください。
Q. 施設スタッフにどう対応してもらえば安心ですか?
本人の生活歴や役割意識を共有し、スタッフ間で一貫した声かけをしてもらうことで、訴えが落ち着きやすくなります。
Q. 何度説明しても納得しません。無理に理解してもらう必要がありますか?
繰り返し訴えること自体がBPSDの症状であり、無理に納得させる必要はありません。安心できる声かけを繰り返すことの方が効果的です。
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