区分変更申請はいつ・どうする?
状態が変わったときの区分変更のタイミングと申請手順。
「介護保険はどこから申請する?」「どんなサービスが使える?」を認知症を専門とする医師が整理してお伝えします。
相談する橋本律子さん(52)が「区分変更」という言葉を初めて聞いたのは、義父・幸雄さん(79)がデイサービスから帰宅した夜のことだった。
夕方6時を過ぎ、送迎バスを降りた幸雄さんがいつものように玄関で靴を脱ごうとしていた。ところがその日は左足を上げたまま動作が止まってしまい、危なっかしく見かねた律子さんが壁に手をつかせてもよろよろと体が揺れ、結局律子さんが自分より体の大きい幸雄さんの両脇を抱えて何とか靴を脱がせた。夕食時も「ご飯はまだか」「今食べてるでしょう?」あるいは「もう食べましたよ」というやりとりが少なくとも5回は繰り返された。3ヶ月前ならせいぜい1、2回だった。
その様子を聞いた担当の介護支援専門員(ケアマネジャー)の野口さんから翌朝電話があり、「最近かなり進行が見られるようですね。区分変更を申請されてはどうでしょうか」と提案があった。
当時、幸雄さんの要介護度は要介護2だった。月に使えるサービスの支給限度額は20万円弱で、週3回のデイサービスと月2回の訪問介護を組み合わせるとほぼ上限に達していた。夜間の見守りや入浴介助の回数を増やしたいとは思っても、すでに枠がない状態だった。
「区分変更って、もう一度認定調査を受けるということですか?また何か月も待つんですか」
律子さんは要介護認定を初めて申請したときの記憶を思い出し、思わず聞いた。あのときは申請から認定通知書が届くまで2ヶ月以上かかり、その間はサービスを使えずに夫と交代で仕事を早退し続けた。
野口さんは「タイミングの問題があるのでご説明しますね」と丁寧に答えてくれた。それでも律子さんは電話を切った後、何をどこに持っていけばいいのやら、とため息をついた。
区役所の窓口に行ったのは2日後だった。律子さんが想像していたより簡単で、「区分変更申請書」という1枚の用紙に、氏名・住所・被保険者番号・申請理由を書いて提出するだけで受け付けてもらえた。窓口での手続き自体は10分もかからなかった。
その後、認定調査員が幸雄さんの自宅を訪問したのは申請から18日後だった。調査員が幸雄さんに「今日は何月何日ですか」「この絵の名前を言えますか」と聞くたびに、幸雄さんはしゃんと背筋を伸ばして質問に答えようとしていましたが、律子さんは野口さんから事前に「普段の状態と調査日の状態が違うことがあるりますので、日ごろのお困りごとを書いたメモを調査員の方に渡してください」とアドバイスをもらっていたので、A4用紙2枚にまとめた「生活上の困りごとリスト」を調査員にそっと手渡した。夜間少なくとも2〜3回はトイレ誘導を行うこと、食事中に同じ質問を繰り返すこと、入浴を嫌がるが衛生的に問題があると伝えてもむしろ怒ってしまうこと、週1回程度の外出時に迷子になるリスクが高くGPSを携帯させていること(本人が覚えているかは定かではないが)——など具体的なエピソードと頻度を書き込んでおいた。
「そういう情報共有があると主治医意見書と合わせて実態に近い判定が出やすいんです1」と野口さんは言っていた。その言葉通り、約45日後に届いた認定通知書には「要介護3」と記されていた。
支給限度額は27万0480円に上がった。律子さんはすぐに野口さんと新しいケアプランを作り直し、週3回だったデイサービスを週5回に増やし、月4回の訪問入浴も加えた。何より大きかったのは、「特別養護老人ホームへの入居申込みができる要件(原則要介護3以上)」を満たしたことで、すぐに申込みが通るわけではないが、「いざという時の選択肢が増えた」と律子さんは感じた。
区分変更申請で押さえるべきポイント
1. 申請できるタイミングは「有効期間中」ならいつでも
区分変更は、現在の認定有効期間が終わるのを待たなくてもいつでも申請できる。「状態が明らかに変化している」と感じたタイミングが申請の合図。
2. 申請先は市区町村の介護保険担当窓口(またはケアマネジャーが代行可能)
律子さんは自分で区役所に行ったが、野口さんのようなケアマネジャーや地域包括支援センターが代理申請を行うことも。書類は「要介護・要支援認定申請書(区分変更)」1枚と、被保険者証のみでよい。
3. 申請から認定まで原則30日、実態は40〜60日前後を見ておく
法令上の目安は申請日から30日以内に通知することとされているが、調査員の訪問調整や主治医意見書の返送を待つ期間など、実際には40〜60日かかるケースが多い。緊急度の高い場合は窓口で「早急な調査をお願いしたい」と理由を伝えると便宜を図ってもらえることも。
4. 認定調査当日の状態だけで判定されるわけではない——「生活状況の共有」が鍵
調査員は約1時間で74項目を評価しています。しかし調査日がたまたま調子の良い日だと、実態より軽い判定が出ることがある。日ごろの困りごと・介助の頻度・夜間の状況を具体的に書いたメモを用意し、調査員に渡すことで主治医意見書と合わせて実態に即した判定につながりやすい。
5. 主治医意見書の担当医にも事前連絡を入れる
認定調査と並行して、市区町村は本人の主治医(かかりつけ医)に意見書の作成を依頼する。主治医(かかりつけ医)が最近の変化をあまり十分に把握していない可能性がある場合には、事前に「この3か月でかくかくしかじかの変化があり区分変更を申請します」と伝えておくと意見書の内容に反映されるはずです。
6. 変更後の認定は申請日にさかのぼって効力が発生する
区分変更の認定が下りると、有効期間の開始日は「申請した日」になる。つまり認定通知書が届く前でも、申請日以降のサービス利用は新しい区分の支給限度額の範囲で精算される。申請後すぐに暫定プランを組んでもらえるかケアマネジャーに相談しておくとよいでしょう。
よくある失敗パターン
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「次の更新まで待てばいい」と思って変化を放置してしまう
律子さんも最初はそう考えていましたが、更新まで数か月残っている場合、その間ずっと不足したサービスで過ごすことになる。「まだ有効期間中だから申請できない」という制度上の縛りはないので、状態変化に気づいたら早期に申請するのが鉄則。
調査当日に本人が「頑張ってしまう」
認知症の方は、知らない人(調査員)の前で普段より緊張して受け答えが良くなることがある。律子さんの義父・幸雄さんもこのパターンで、一度目の更新申請では実態より軽い判定が出てしまいました。当日の様子だけに委ねず、生活状況メモで平常時を補足することが重要です。
ケアマネジャーへの相談が遅れ、暫定プランを組めないまま時間が経つ
区分変更を申請しても認定が出るまでは現在の支給限度額で動くことになる。ただしケアマネジャーにあらかじめ相談しておけば「暫定ケアプラン」として新しい区分を前提に動き出し、認定後に精算する方法が取れる場合がある。「申請してから相談する」ではなく「相談してから申請する」順番が望ましい。
申請理由を「なんとなく悪くなった」と書いてしまう
申請書の「申請理由」欄は短くてよいが、「歩行時のふらつきと転倒リスクが増した」「夜間の排泄介助が週5回以上になった」など具体的な変化を書く方が、以降の調査がスムーズになる。
区分変更後のケアプラン見直しを忘れる
要介護度が上がれば支給限度額は上がるが、ケアプランを変更しなければ実際のサービスは増えません。認定通知書が届いたらすぐにケアマネジャーに連絡して、新しいプランへの切り替えを依頼することが必要です。
区分変更申請 行動チェックリスト
それから約4ヶ月が経った今、幸雄さんは週5回デイサービスに通い、月4回の訪問入浴を利用しています。律子さんは「介護で仕事を早退する回数が月3回から月1回以下に減りました」と話す。完全に楽になったわけではないが、「選べるサービスが増えたことで、私自身に少し余裕が生まれた」という。区分変更という手続きが、その余裕を作る最初の一歩となった。介護の質を大きく左右するので遠慮なく相談してほしいとケアマネの野口さんからもメッセージあり。
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