地域包括支援センターの使い方
ケアガイド医師査読済 · 2026年7月公開 2026年7月4日更新 2026年7月23日

地域包括支援センターの使い方

認知症の相談はすべて地域包括支援センター。 医療機関との連携もしており、診断後の生活設計を一緒に考えてくれる場所です。

Koba MD, PhD

医療監修

Koba MD, PhD

認知症専門外来・在宅訪問診療に従事


「介護保険はどこから申請する?」「どんなサービスが使える?」を認知症を専門とする医師が整理してお伝えします。

相談する

宮本早苗さん(54)が地域包括支援センターの存在を初めて知ったのは、スーパーの掲示板だった。「認知症の心配がある方も、まずはご相談を」という手書きのチラシを見かけたのは、義母・文枝さん(79)が「今日は何曜日だったかしら」と毎朝のように聞くようになって、もう3ヶ月が経った頃のことだった。


それでも早苗さんはすぐには動けなかった。「まだ病院に行くほどでもないかな」「忙しくて時間が取れない」と先延ばしにしているうちに、文枝さんがガスの火をつけたまま外出するという事態が起きた。帰宅した早苗さんが台所のコンロに小鍋が焦げついているのを見つけたのは、夕方6時過ぎのことだった。「お義母さん、火をつけたまま出かけてたんですよ」と夫に電話したとき、声が震えた。「何かあってからじゃ遅い」――そう思ってようやく、チラシに書いてあった番号に電話をかけた。


電話口に出た相談員の女性は、早苗さんが名前を言い終わらないうちに「まずはゆっくりお話を聞かせてください」と言った。「今すぐ受診しなければいけないということはありません。いろんな状態の方がいらっしゃいますので」。その一言に、早苗さんは肩の力が少し抜けるのを感じた。


翌週、早苗さんは文枝さんを連れずに一人でセンターを訪れた。担当についた相談員の田村さんという40代の女性は、文枝さんの日常の様子を丁寧にメモしながら聞いた。「最近ガス火をつけっぱなしにしたこと、何曜日か分からなくなること、同じ話を1日に何度もすること」——早苗さんが箇条書きにしてきた紙を見て、「よくここまでまとめてくださいました」と言ってくれた。


ところが最初の相談では、早苗さんは大切なことを一つ勘違いしていた。「介護保険を使うには、まず要介護認定を受けてから、そこで初めていろいろ動き出せるんだろう」と思い込んでいたのだ。田村さんに「今すぐ認定を申請しなくても、認知症専門の物忘れ外来への紹介状を書いてもらうことも、日常の安全対策の相談も、今日からできますよ」と教えてもらったとき、早苗さんは「そんな使い方があったんですか」と思わず声を上げた。


センターから紹介してもらった近隣の「もの忘れ外来」に文枝さんと一緒に行ったのは、それから2週間後のことだった。診断の結果は「アルツハイマー型認知症の軽度」。ショックではあったが、「今の段階で分かって良かった」という気持ちのほうが大きかった。田村さんはその後も定期的に連絡をくれて、要介護認定の申請書類の書き方を一緒に確認してくれた。文枝さんの認定結果は「要支援2」。ケアマネジャーは地域包括支援センターが直接担当できることも、このときに初めて知った。


あのスーパーのチラシを見てから4ヶ月。早苗さんは「もっと早く行けばよかった」と今もそう思う。


地域包括支援センターの賢い使い方


まず「何でも話せる場所」として気軽に使う

地域包括支援センターは、介護保険の申請窓口だけでなく、「認知症かどうか分からない段階」でも相談できます。電話相談だけで完結することも多く、「今すぐ動く必要があるかどうか」の判断自体を相談員に委ねてよいでしょう。早苗さんのように一人で訪問してもまったく問題ありません。


初回相談前に「気になること一覧」を紙に書き出す

相談の場では話が広がりやすく、肝心なことを言い忘れがちです。「いつ頃から」「どんな場面で」「どれくらいの頻度で」という形で、気になる言動を箇条書きにして持参すると、相談員が状況を整理しやすくなります。田村さんのように「よくまとめてくれました」と言ってもらえる一方、書けていなくてもその場で一緒に整理してくれるので心配無用です。


要介護認定の申請窓口として使う

要介護・要支援の認定申請はセンターで代行してもらえます。必要書類は「介護保険被保険者証」(65歳以上の方には市区町村から交付)と「主治医の氏名・医療機関名」の2点が基本です。申請後は市区町村の調査員が自宅に来て聞き取り調査(認定調査)が行われ、おおむね1〜2ヶ月で結果が届きます。


「要支援」段階ではセンターが直接ケアマネジャー役を担う

要支援1または要支援2と認定された場合、介護予防サービスの調整はケアマネジャー事業所ではなく地域包括支援センターが直接担当します。文枝さんのケースがそれにあたり、早苗さんは別途ケアマネジャーを探す手間が省けました。要介護1以上になってから初めてケアマネジャー事業所へ移行する流れになります。


認知症の専門医・社会資源への「橋渡し役」として使う

物忘れ外来・認知症疾患医療センター・成年後見制度・権利擁護相談——これらはいずれもセンターが紹介先を持っています。「どこに行けばいいか分からない」という段階でも、センターを起点にすれば次の一手が見えてきます。


介護者自身のSOSも受け付けてくれる

「自分が疲れてしまっている」「このまま続けられるか不安」という介護者側の悩みも、センターの重要な相談テーマです。介護者向けの家族教室や認知症カフェの情報もここから得られることが多いです。


よくある失敗パターン

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「介護認定を取ってから相談に行く」と思い込む

早苗さんも最初はそう考えていました。実際には認定前・診断前の段階こそセンターが力を発揮します。「何もまだ決まっていない」状態での相談を遠慮する必要はまったくありません。


本人を連れていかなければいけないと思う

初回は家族だけでの相談で十分対応してもらえます。むしろ本人の前で話しにくい内容(財産管理の心配、暴言が出てきたなど)は家族だけで先に整理しておくほうがスムーズなことも多いです。


「一度相談したら終わり」と思って連絡しなくなる

センターとは一度つながれば継続的に相談できる関係になります。状況が変わったとき、新しい困りごとが出たとき、「前に話した田村さんにまた聞いてみよう」という感覚で使い続けてよいでしょう。田村さんが文枝さんの認定後も連絡をくれたのは、こうした継続関係が前提にあるからです。


営業時間と担当地区を確認しないまま遠くのセンターに電話する

地域包括支援センターは中学校区を目安に設置されており、担当地区が決まっています。市区町村の広報サイトや「地域包括支援センター 〇〇市」で検索すれば担当センターが確認できます。遠方のセンターに電話しても担当外として別の番号を案内されるだけなので、最初から住所に対応するセンターを調べてかけるほうが早いです。


「深刻な状態になってから」と先延ばしにする

センターの相談員が最も力を発揮できるのは、まだ選択肢が多い「軽度・初期の段階」です。要介護度が重くなるほど選べるサービスの数は増えますが、逆に本人の意思確認が難しくなることもあります。早いほど、先手を打てます。


初回相談に持参・準備したいチェックリスト

  • 気になる言動をメモした紙(いつ・どんな場面・どれくらいの頻度)
  • 介護保険被保険者証(65歳以上の方には市区町村から交付済みのはず)
  • かかりつけ医の名前と医療機関名(要介護認定の申請時に必要になる)
  • 本人・家族の状況を伝えられる人(初回は家族だけでも可)
  • 「今すぐどうしたいか」よりも「何が一番心配か」を言葉にしておく

  • あの焦げた小鍋の一件から半年が過ぎた今、早苗さんの台所のコンロはIHに替わっています。田村さんのアドバイスで申し込んだ介護予防デイサービスに週1回通うようになった文枝さんは、「お友達ができた」と嬉しそうに話すようになりました。早苗さん自身も、センターから紹介された家族介護者のつどいに月1回顔を出すようになりました。「相談していいことだったんだ」と気づいたあの電話が、すべての始まりだったと早苗さんは振り返ります。地域包括支援センターは、困り果ててから駆け込む場所ではなく、「困り始めた瞬間」に扉を開けていい場所なのです。

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