認定結果に納得できないときの不服申立て
区分変更と審査請求の使い分けと手続きの流れ。
「介護保険はどこから申請する?」「どんなサービスが使える?」を認知症を専門とする医師が整理してお伝えします。
相談する「お母さんは要介護2どころか、もうほとんど一人では何もできないんです」
田村智子さん(47歳)が区の窓口でそう訴えたのは、3月の肌寒い午後のことだった。認定調査の結果通知を受け取ってから一週間、智子さんはその一枚の紙を眺めながら何度目かわからないため息をついた。
母の田村寿美子さん(79歳)はアルツハイマー型認知症と診断されて2年が経つ。今では洗面や着替えに全介助が必要で、夜間も2〜3回起き出しては「家に帰る」と玄関に向かう。先月は転倒して右手首を骨折した。智子さんは週5日、仕事終わりに母のアパートへ通い、週末は泊まり込んでいる。それなのに届いた通知には「要介護1」とあった。
「要介護2でもサービスが足りないと言っているのに、要介護 1、だなんて」
窓口の担当者は「調査員の判断と医師の意見書をもとに審査していますので」と繰り返すばかりだった。智子さんはスマートフォンで「介護認定 納得できない 不服申立て」と検索し始めた。
最初に試みたのが「区分変更申請」だった。ところが窓口で「申請はできますが、認定調査は早くて1か月後になります。それまでは要介護1のままサービスを組んでください」と言われ、智子さんは焦りを覚えた。ケアマネジャーを通じてとりあえず週3回の訪問介護と福祉用具貸与を手配したものの、夜間の見守りまで手が届かない。「このまま1か月待つしかないの?」という焦りと、「もし変わらなかったら?」という不安が重なった。
転機は、智子さんが区の地域包括支援センターに相談したことだった。担当の相談員・梶原さんから「区分変更申請と審査請求、どちらが目的に合うか整理しましょう」と言われたとき、智子さんは初めて「二種類の手続きがある」ことを知った。
「区分変更は『今の状態を新たに評価してほしい』という申請で、審査請求は『今回の認定プロセス自体に問題があった』と異議を申し立てるものです」
梶原さんは、区分変更申請は認定結果を白紙に戻して再調査する手続きであり、介護度が変更される可能性がある一方で、さらに低くなることもある点を率直に話してくれた。審査請求は都道府県の介護保険審査会に申し立てるもので、認定調査の不備や医師の意見書との著しい乖離を主張するケースに向いているという。
智子さんのケースでは、認定調査当日に限って母が「いつもより落ち着いていた」という事情があった。調査員の質問に普段では考えられないほどにはっきり答えていたこと、また骨折前の調査であったため身体機能の評価が現在より高めに出た可能性があること——これらは「新たな調査をすれば変わる可能性がある」状況であり、区分変更申請が適していると判断した。
智子さんは改めて区分変更申請の書類を提出し、同時にケアマネジャーと一緒に「日常の状態を記録したメモ」を作り始めた。午前2時からトイレの介助が必要になること、着替えに20分かかること、コンロの火を消し忘れたこと——こうした具体的な記録が、次の認定調査で役立つ可能性が高いと梶原さんから教わっていたからだ。
約6週間後、再認定の結果は「要介護3」だった。
智子さんは通知を見て、台所の椅子に座り込んだ。安堵して良いものか、あるいは悲しむべきなのかよく分からなかったが、「少なくとももっと早く相談すればよかった」という反省と、もしかしたら母に必要なサービスを組めないかもしれないという不安が解消されたのは確かだった。
区分変更申請と審査請求の使い分け:押さえておくべきポイント
区分変更申請は「現在の状態を再評価してほしい」ときに使う
認定後に状態が変化した場合や、調査時と日常の様子に大きな差があった場合に有効な手段です。要介護度が今より下がるリスクもゼロではないが、状態が明らかに悪化しているときは積極的に活用します。申請は市区町村の介護保険窓口で随時受け付けており、費用は無料。
審査請求は「認定プロセス自体に問題があった」と感じるときに使う
都道府県に設置された介護保険審査会に対し、処分(認定結果)の取り消しや変更を求める手続き。処分を知った日から3か月以内に申し立てる必要がある(介護保険法第183条)。調査票の記録と実態が食い違う、主治医意見書の内容が誤っているといった場合に向いている。
区分変更申請と審査請求は原則として同時に進めることができる
どちらを選ぶか迷ったら、まず区分変更申請を出してしまうことも一つの判断だ。審査請求は3か月の時効があるため、並行して手続きを進めることで時間を無駄にしない。ただし審査請求の結果が出るまでに数か月かかることも多く、その間に区分変更申請の再認定が先に出ることもある。
認定調査時の様子を記録・同席することが最大の準備
認定調査当日、本人が「いつもより調子が良い」ことは珍しくない。家族が同席して補足説明をすることが重要だ。日常の介護場面を事前に文章で記録し、調査員に渡す補足資料を用意するだけで結果が変わるケースもある。
ケアマネジャーや地域包括支援センターを必ず巻き込む
手続きの方針を一人で判断するのは難しく、専門職のサポートが不可欠だ。ケアマネジャーは再調査に向けた情報整理や書類作成の補助ができる。まだケアマネジャーがいない場合は、地域包括支援センターが無料で相談に乗ってくれる。
再認定の結果が届くまでの空白期間もサービスは継続できる
区分変更申請中であっても、認定有効期間内であれば従来の介護度でサービスを継続利用することが可能だ。「手続き中はサービスが止まる」と誤解して申請をためらう必要はない。
よくある失敗パターン
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「まず窓口に電話して様子を見よう」と先延ばしにする
審査請求には処分を知った日から3か月という期限がある。「とりあえず様子見」を続けているうちに期限を過ぎてしまい、選択肢が区分変更申請だけになるケースも少なくない。気になった時点で動くことが、後悔を防ぐ最大のポイントです。
区分変更申請を出せば必ず介護度が上がると思い込む
区分変更申請は「再評価」の申請であり、結果として今の認定が維持されたり、下がる可能性もゼロではない。特に状態が安定しているときや、前回の調査員が丁寧に記録していたと思われるケースでは、区分変更申請を提出すべきか慎重に検討することが大切かも知れません。
認定調査当日に本人だけで対応させてしまう
認知症の方は調査時に「しっかりして見える」ことが多く、日常の困難が伝わりにくい場合がある。家族が同席して「普段はこういう場面で介助が必要です」と具体的に補足することが、実態に即した認定につながります。仕事等で同席が難しい場合は、書面での補足説明資料を調査員に渡すことも考えましょう。
主治医意見書の内容を確認していない
認定審査には主治医の意見書が大きく影響するが、家族は通常その内容を確認できません(ただし認定後に開示請求をすることは可能)。意見書の内容が実態と大きく乖離している場合、それを根拠に審査請求の主張を組み立てることができます。
再申請の準備を何もしないまま調査当日を迎える
区分変更申請が受理されても、再調査で何も準備していなければ同じ結果になる可能性がある。直近1〜2週間の介護日誌や夜間の状況・転倒リスク・服薬管理の困難さなどをまとめた資料を事前に用意することが最も確実な方法です。
不服申立てに向けた準備チェックリスト
要介護3の認定が下りてから、智子さんは週2回の夜間対応型訪問介護と、昼間の通所介護を組み合わせたケアプランを作ることができました。母の寿美子さんは「知らない人が来るのは嫌だ」と最初こそ抵抗したが、担当ヘルパーさんの顔を覚えてからは玄関で笑顔で迎えるようになったという。「お母さん、今日どうだった?」と電話で聞くと「楽しかった」という返事が返ってくる回数も増えた。介護認定の結果は、一度出たら変えられないものではない。そもそも認定プロセスが必ずしも完璧ではないから、制度として不服申立ての仕組みが存在しているのだ。ケアマネと一緒に本人に合ったサービスを考えてみましょう。
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