デイサービス・ショートステイでBPSDが出たとき——施設と家族の連携のしかた
デイサービスやショートステイの利用中にBPSDが出たとき、環境の変化が引き金になっていることがあります。家族と施設スタッフがどう情報を共有し合えば良いか、体験談とチェックリストで解説します。
医療監修
Koba MD, PhD
認知症専門外来・在宅訪問診療に従事
ケアマネとの情報共有に医師の所見が役立ちます。認知症を専門とする医師が48時間以内に回答します。お試し相談¥1,000〜。
岐阜県に住む野村涼子さん(53歳)は、母のトシ子さん(81歳、アルツハイマー型認知症、要介護3)と二人暮らしをしている。仕事と介護の両立が難しくなってきたため、半年前からトシ子さんは週3回デイサービスに通うようになった。最初の数ヶ月は「今日は楽しかった」と笑顔で帰ってくる日が多く、涼子さんもようやく息をつける時間ができたと感じていた。
ところがある日の夕方、デイサービスの生活相談員から電話がかかってきた。「今日、トシ子さんと他の利用者さんとの間でちょっとしたトラブルがありまして……」。話を聞くと、レクリエーションの時間にトシ子さんが急に大声を出し、隣に座っていた利用者を突き飛ばしそうになったという。スタッフが間に入って落ち着かせたが、その後もしばらく「ここにいたくない、帰る」と繰り返し、フロアを歩き回っていたそうだ。
涼子さんは驚いた。家では穏やかに過ごしていたし、そのような興奮した様子を見たことがなかったからだ。「うちでは大人しいんです。施設で何かあったんでしょうか」と、思わず責めるような口調になってしまった。電話を切った後も、「デイサービスに何か落ち度があったのでは」という気持ちと、「母がわがままを言って迷惑をかけたのでは」という気持ちの間で揺れ、その夜はほとんど眠れなかった。
数日後、送迎時にいつもより時間をとってもらい、担当のスタッフとゆっくり話す機会を作った。スタッフは「実はあの日、いつも担当している職員が急な休みで、代わりのスタッフが対応していました。席の配置もいつもと違っていて、トシ子さんの隣に初めて会う利用者さんが座る形になっていたんです」と説明してくれた。さらに、「ご自宅ではどんな時間割で過ごしていらっしゃいますか。トシ子さんが落ち着く音楽や、苦手なことがあれば教えてください」と尋ねられた。
涼子さんはそれまで、個人的な細かい情報を施設に伝えるという発想自体がなかったことに気づいた。トシ子さんが夕方になると不安が強くなりやすいこと、大きな音や急に声をかけられることが苦手なこと、若い頃に習っていた民謡を聞くと落ち着くことなどを、思いつく限り紙に書き出してスタッフに渡した。
それから施設側も、トシ子さんの席をなるべく同じ場所に固定し、担当職員が変わるときは事前に「今日は違う職員が担当します」と一声かけるようにしてくれた。レクリエーションの前には民謡を流す時間を設けるようにもなった。半年経った今では、大きなトラブルはほとんど起きなくなり、トシ子さんも「今日は誰々さんと話した」と楽しそうに話す日が増えている。
その後、涼子さんが体調を崩して数日入院することになり、初めてショートステイを利用することになった。慣れた自宅を離れて知らない部屋で一晩を過ごすことに、涼子さんは強い不安を感じていた。そこでケアマネジャーに相談し、デイサービスで使っていた情報共有シートをそのままショートステイの施設にも渡すことにした。あわせて、トシ子さんが普段使っている枕カバーと、家族写真を入れた小さな写真立ても荷物に加えた。夜間、見慣れないものばかりの部屋で目を覚ましたとき、少しでも「知っているもの」が目に入るようにという配慮だった。初日の夜は落ち着かず何度かナースコールを押したものの、翌朝には笑顔で職員と話していたと報告を受け、涼子さんは胸をなでおろした。
なぜデイサービス・ショートステイでBPSDが誘発されやすいのか
環境の変化そのものがストレスになりやすい → 認知症のある方は新しい状況に適応する力が低下していることが多く、自宅とは異なる音・匂い・人の気配だけでも不安や混乱が強まる可能性があります。
顔なじみでないスタッフとの関わりに戸惑いやすい → 担当者の交代や、初めて会うスタッフからの声かけは、本人にとって「知らない人に指示される」体験として受け取られ、警戒心や抵抗につながることがあります。
集団の中にいること自体が刺激過多になりやすい → 複数の利用者の声・テレビの音・人の動きが同時に存在する環境は、情報処理が難しくなっている脳にとって負荷が大きく、焦燥感や興奮が高まりやすいと考えられています。
実践ポイント——施設と家族がつながるための工夫
利用開始前に「情報共有シート」を作成する → 好きなこと・苦手なこと・落ち着く方法・生活リズムなどを一枚にまとめ、ケアマネジャーやデイサービスの相談員に渡しておくと、初回から対応の質が変わることがあります。
送迎時の数分間を「引き継ぎの時間」として活用する → 玄関先での立ち話でも構わないので、前日の睡眠や体調、気になる言動があれば一言伝える習慣をつけます。
連絡帳・連絡ノートを毎日きちんと見る → 多くの事業所では利用中の様子を記録した連絡帳を渡してくれます。「特にありません」で終わらせず、少しでも気になる記載があれば質問する姿勢も大切です。
トラブルがあったときは「事実」を具体的に聞く → いつ、どんな状況で、その前後に何があったかを尋ねると、対応のヒントが見えてくることがあります。感情的に施設を責める前に、状況を一緒に整理する意識を持ちましょう。
ケアマネジャーを情報のハブとして活用する → 家庭での様子と施設での様子、それぞれの立場からの情報をケアマネジャーに集約してもらうと、ケアプラン全体の見直しにつながりやすくなります。
本人の「好きなこと」を具体的に伝える → 抽象的な性格説明より、「昔やっていた仕事」「好きな歌」「落ち着く話題」など、具体的なエピソードのほうが現場で使いやすい情報になることがあります。
担当者会議やモニタリングの機会を活用する → 定期的に開かれるサービス担当者会議は、施設・家族・ケアマネジャーが同じ場で情報をすり合わせる貴重な機会です。可能な範囲で参加を検討してみてください。
ショートステイでは「見慣れたもの」を一つ持たせる → 使い慣れた枕カバーや家族写真、好きなタオルなど、小さくても本人にとって馴染みのあるものを荷物に加えることで、不安が和らぐ場合があります。
よくある失敗・NG対応
「プロに任せているから大丈夫」と情報提供を怠ってしまう → 専門職であっても、本人の生活歴や個別の癖をすべて把握しているわけではありません。家族からの情報がケアの質を左右することがあります。
トラブルの報告を受けて感情的に施設を責めてしまう → 一度の出来事で「もう任せられない」と態度を硬化させると、その後の情報共有がかえって難しくなることがあります。
「迷惑をかけているのでは」と利用を突然中止してしまう → 環境変化や刺激が原因であれば、多くの場合は対応の工夫で改善が見込める可能性があります。原因を確認する前に利用をやめてしまうと、本人・家族双方の負担が増えることがあります。
家庭内の情報を「言わなくても分かるはず」と思い込む → 生活リズムや苦手なことは、伝えなければ施設側には分からないことがほとんどです。
スタッフの交代や配置変更を把握しないまま過ごす → 環境側の変化に気づかないと、BPSDの原因を「本人の性格」や「病状の進行」と誤解してしまうことがあります。
初めてのショートステイをぶっつけ本番で詰め込んでしまう → 事前の情報共有なしにいきなり数日間預けると、本人が状況を理解できないまま不安だけが積み重なることがあります。可能であれば短時間の体験利用から始めることも検討します。
施設利用時のBPSD対応チェックリスト
涼子さんは「施設に『任せる』のではなく、施設と『一緒に考える』ことが大切なのだと気づきました」と振り返る。今では連絡帳のやり取りが、母の小さな変化に気づくための大切な手がかりになっているという。
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[1]: 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」
[2]: Kitwood T. "Dementia Reconsidered: The Person Comes First" (Open University Press, 1997) — 環境変化と本人中心ケアの考え方について
[3]: International Psychogeriatric Association. "The IPA Complete Guides to Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD)" (2012)
[4]: NICE. "Dementia: assessment, management and support" (NG97, 2018)
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