認知症の中核症状ガイド──記憶障害・見当識障害・実行機能障害の仕組みと進行
記憶障害・見当識障害・実行機能障害・失語・失行・失認など、認知症の「中核症状」の仕組みを医学的に解説。各症状がなぜ起きるか・どう進むかを理解することで、家族が状況をより正確に把握できます。
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
認知症の「中核症状」とは、脳の神経細胞が損傷することで必ず現れる症状群です。「周辺症状(BPSD)」と異なり、中核症状は薬や環境で完全になくすことはできません。しかし、仕組みを正確に理解することで「なぜこうなるのか」が分かり、適切なサポートの指針になります[1]。
記憶障害──「新しい記憶」が作れない
アルツハイマー型認知症で最初に現れることが多い症状です。特徴的なのは「近時記憶(直近の出来事)」が失われることです[1]。
記憶障害の2種類
近時記憶障害(初期から目立つ):数分〜数時間前の出来事を覚えられません。「さっき食事した」「さっき聞いた」ということを忘れます。
遠隔記憶(比較的保たれる):若い頃の出来事・戦争体験・学生時代の記憶は比較的保たれます。「昔のことはよく覚えている」という状態が長期間続きます。
「同じことを何度も聞く」のは、前に聞いたこと自体の記憶が作られていないためです。「さっき言った」と指摘しても記憶は戻らず、混乱と不安を生むだけです。
見当識障害──時間・場所・人が分からなくなる
見当識とは「今いつ・どこにいるか・目の前の人は誰か」を把握する能力です。この能力が低下すると、以下のような状況が起きます。
| 種類 | 症状の例 |
|---|---|
| 時間の見当識障害 | 「今日は何日?」が分からない・夜中に起きて「朝だ」と思う |
| 場所の見当識障害 | 自分の家を「知らない場所」と感じる・「家に帰りたい」と繰り返す |
| 人物の見当識障害 | 家族の顔・名前が分からなくなる(特に進行期以降) |
「家に帰りたい」という発言は「長年住んだ家・若い頃の家」を指していることが多く、現在の自宅にいるのに「帰りたい」と言います。これは「今ここが自分の居場所」と感じられない不安の表れです。
実行機能障害──手順を追った作業ができなくなる
実行機能とは「計画を立て、順番通りに行動する」能力です。この能力が低下すると、複数のステップを要する作業が難しくなります[2]。
実行機能障害が現れる場面
:::consult-cta variant="compact"
失語・失行・失認──見落とされやすい症状
失語(言葉が出にくい):言いたいことが言葉にならない、相手の言葉の意味が分からなくなります。「あれ」「それ」が多くなる変化に気づきやすいです。
失行(道具の使い方が分からない):はさみ・歯ブラシなど、よく知っているはずの道具の使い方が分からなくなります。
失認(見えているが意味が分からない):視力は正常なのに「鏡に映る自分を知らない人と思って怒る」「配偶者や子どもの顔を見ても誰なのか分からない(相貌失認)」など。
中核症状の進行と段階
認知症の進行段階と主な中核症状の変化
段階
主な症状
日常生活への影響
軽度(初期)
近時記憶障害・時間の見当識低下
外出・金銭管理に支障が出始める
中等度
場所の見当識・実行機能・失語
調理・入浴・着替えに介助が必要になる
重度
人物認識・失行・失禁
ほぼすべての日常動作に介助が必要
まとめ
関連記事
関連する基礎知識
関連する介護のヒント
関連記事
認知症の中核症状ガイド──記憶障害・見当識障害・実行機能障害の仕組みと進行
各症状がなぜ起きるか・どう進むかを医学的に解説
認知症の幻視はなぜ“本当に見える”のか——レビー小体型認知症と脳のメカニズム
レビー小体型認知症の幻視は、本人には紛れもない現実として見えています。なぜ脳がそう見せるのか仕組みを知ることで、否定せず安心につなげる対応のヒントが見えてきます。
認知症の症状を正しく理解するガイド──「なぜこんな行動をするの?」に答える
症状の理解
記憶障害・見当識障害・失認・BPSDなど症状の背景にある脳の変化を解説
軽度認知障害(MCI)の13のサイン
初期症状・診断
「最近ちょっとおかしい?」と感じたときに読む早期発見ガイド
コメント
まだコメントはありません。最初のコメントを投稿しましょう。
