補聴器で難聴を治療すると認知症リスクは下がるか―ACHIEVE試験とバイオマーカー研究
難聴は、認知症の修正可能なリスク因子として注目されています。補聴器による難聴の治療が認知機能の低下や血液バイオマーカーに与える影響を検証した研究結果と、受け止め方の注意点を解説します。
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
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難聴は、認知症の発症に関わる「修正可能なリスク因子」の一つとして、国際的な研究で注目されている。難聴を補聴器で治療することで、認知機能の低下を遅らせられるのか――この問いを検証した大規模試験「ACHIEVE試験」の結果と、その後の研究の広がりを解説する。
ACHIEVE試験の主な結果
試験全体の対象者数
977人
70〜84歳の未治療の難聴者
高リスク群での認知機能低下の抑制
48%
心血管リスクの高い238人のサブグループでの結果
試験全体での結果
全体では差なし
高リスク群以外では明確な差が見られなかった
ACHIEVE試験とは
ACHIEVE試験は、70〜84歳で未治療の難聴がある977人を、補聴器による介入を受ける群と、健康教育のみを受ける対照群に分け、3年間の認知機能の変化を比較した無作為化比較試験だ[1]。試験全体の結果では、両群の間に明確な差は見られなかったが、あらかじめ心血管リスクが高いと分類されていた238人のサブグループに限ると、補聴器による介入を受けた群は、対照群に比べて認知機能の低下が48%ゆるやかだったと報告されている[1]。
バイオマーカーでは「ほぼ変化なし」という結果
ACHIEVE試験の結果を受け、補聴器による難聴の治療が、アルツハイマー病に関連する血中バイオマーカー(リン酸化タウ・NfL・GFAP・アミロイドβ42/40比)にどう影響するかを調べた研究も報告されている。オーストラリアの高齢者約2,800人を対象に、補聴器の処方や使用頻度の影響を約7年後の血中バイオマーカー濃度で評価したところ、いずれのバイオマーカーにもはっきりした関連はほとんど見られなかった[2]。
つまり、仮に補聴器が認知機能の低下を遅らせる効果を持つとしても、その仕組みはアミロイドβやタウの蓄積そのものを減らすことではなく、社会的孤立の軽減や脳への刺激の維持といった、別の経路による可能性が示唆される。難聴と認知症の関係については、こうした複数の仮説が提唱されているが、どの機序がどの程度影響しているかは、まだ研究が続いている段階だ。
「全体では差がなかった」ことの受け止め方
ACHIEVE試験の結果を紹介する際、「48%改善した」という高リスク群の結果だけが強調されやすいが、試験全体で見ると明確な差は出ていない点は重要だ[1]。補聴器が万人に同じ効果をもたらすとは限らず、特に心血管リスクが高い人で効果が出やすかった可能性がある、という限定的な結果として理解する必要がある。
それでも補聴器を検討する価値
難聴そのものはコミュニケーションの困難・孤立・生活の質の低下につながりうるため、認知症予防効果の有無に関わらず、難聴があれば補聴器による治療を検討する価値は高い。認知症予防の観点からも、現時点で分かっている範囲では「害になりにくく、他の面でも利益がある」対策の一つといえる。
医師のひとこと(個人的な見解)
私自身は診療の中で、難聴がある患者さんには補聴器をわりと積極的に勧めています。Lancetの認知症予防委員会の報告でも、難聴は修正可能なリスク因子の中でかなり寄与度が高いとされていた記憶があります。
ただ、今回のように血中バイオマーカーへの影響がほとんど見られなかったという結果を見ると、「アミロイドやタウを減らすほどの効果がある可能性も」という論調で強く勧めるのは言い過ぎになるかも知れません(とはいえ正直なところそんなことを言ったことはありませんが)。とはいえ補聴器に気が進まない方に無理にお願いするのではなく、本人の負担感とのバランスで考え直してもよい場面もありそうです。
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